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蛹の婚約式
ゼユネコは、色合いの無い混沌とした街の様子を、正門の外側から一人淋しく眺めていた。肌寒さの深い紅葉の頃に母親の窶れた腕を握り締めて歩いた『蛹の街』は、彼の枯れた心を刺激する唯一のものである。年月にかかり、赤い塗装の剥がれ落ちた格好の悪い正門は、躊躇するゼユネコに堂々とその口を開ききって見せて、嘲笑っているように見えた。
ゼユネコは、微かに震える自身の両手のひらを痛みを伴うほどにきつく握りしめた。赤子の頬のように艶やかな蛹の糸を紡いで作られた子旗の旗が、領土をむさぼり食う気味の悪い害虫みたいに、重たく風に煽られて、うねうねと宙を泳いでいる。きっと正門の真下辺りではしゃいでいる小さな子供たちは、人差し指を空につき上げて、蜻蛉の羽根休めを促して遊んでいるのだ。もうすぐにでも日暮れと共に母親と影をのばすことになるだろう。ゼユネコは砂と灰とで真っ黒く汚れた傷だらけの裸足を右手で守るように擦り、左手で乱暴に叩いた。
もう少しだけここで待たなければならない。