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SOS

作者: 神護景雲

『○○学校の生徒が自殺した件について、校内で生徒に対するいじめがあったことが発覚しました』


 夕食の席に着いていた僕の耳にいとも機械的にニュースを伝える声が届いた。

またか、もうやめてくれ。そう思った。何に対して? いじめをニュースで伝えることじゃない。いや、そうか。


 僕はニュース番組でいじめとか自殺とか、人が死んだりすることがニュースで流れるって非常に怖いと思う。何故かって、現実に起こったはずの出来事があまりにも淡々と他人事のまま終わってしまうから。


『警察の調査によりますと、加害者の生徒は被害者の生徒に対して……』


 やめてくれ、そんなに淡々と話を進めないで。人がいじめられてたんじゃないのか。死んだんじゃないのか。ニュースを読み上げてるあなた、こんな話を聞いて何故表情の一つも変えられずにいられるの。

仕事だから? 仕事だから人の死を悼んでもいないような表情で、悔やんでもいないような表情をしてもいいの?


『いえ、いじめというのは本当に大きな問題ですよ。きっといじめに遭われた被害者は苦しい胸の内を誰にも明かすことができなかったでしょうね』


 これまた淡々と、どこかの教授らしい人が言葉だけさも被害者の気持ちにでもなったかのように語ってる。被害者の気持ちを語ろうとするならそれ相応の表情っていうものがあるんじゃないか。たぶんこういう人っていじめを論理で考えてて、自分がどちらかの立場だったらなんて考えもしないんだろうな。


「あら、またいじめがあったの。やぁねぇ、近頃は……」


 母さんがふと呟いた。やっぱり他人事みたいな口調だ。どうしてそんなに軽く喋れるんだ。人が死んだんだよ。近くのコンビニで酔っ払いが喧嘩したのとは違うんだ。


 こんな風にいじめられた子供が一人自殺した。その背景にもっと色々なストーリーがあったはずの出来事がたった三行もあれば文章に纏められそうな小さいものに成り下がってしまう。これって怖いことなんじゃないかと思う。


 けど、僕が本当に怖いのは、違うんだ。僕が本当に怖いのは、嫌なのは、自分の心の奥のどこかで、所詮他人事、関係ないさ、それより明日の宿題しなくちゃ、なんて考えてる自分がいることなんだ。

ニュースの人や母さんに偉そうに文句をつけてた癖に、自分も同じ穴の貉でしかない。出来事を利用して、自分のことは棚にあげて人を罵る。こんなのって最低じゃないか。


「ご馳走様」


 ほら見ろ。人が一人死んだっていうすごく重たいはずのニュースを見ながら僕はいつもと同じように夕食を食べ終えている。これこそ僕が人の死というニュースを他人事にしか思えてないっていう証拠じゃないか。本当に人の死が思いやれる人なら、食事が喉を通らないぐらい悲しむことができるだろうに。


 食器を片付けて、自分の部屋に戻ってパソコンを点けた。インターネットを開くと、ブラウザのホームページのニューストピックに先程のいじめの話が載っていた。

僕はそのページを開いた。見てみたいところがあったから。


『いじめてたやつは許せない!』


『自分がやられたらとは考えないのか』


 コメント欄だ。コメント欄を見ると、そこにはいじめの犠牲者となった被害者を憐れむ声と、加害者に対する義憤の声が載っていた。思いやりに溢れたコメントだと思う。けど、その言葉は声も、表情も、持ってない。

みんな、どういう気持ちでこのコメントを残してるかなんて分かりようがない。


『加害者が悪いみたいな風潮あるけど、被害者に問題があるからいじめられたんだろww いじめられて当然だろ』


 ねえ、本当にそう思ってる? いじめられた方が性格悪かったかどうかなんて知らないけど、仮に性格が悪かったとして、だからいじめらるのは当然なの?

それは悪人だったら殺してもいいって言ってるのと同じじゃない。


 僕も、誰も彼も、みんな、他人事。


 急に息がし辛くなる。胸が苦しくなる。視界が回る。たまらなく怖くなる。まるでひとりぼっち。


 僕だけ? みんなも? わかんない。ああ、苦しい。喉が渇く。


 僕、ひとりぼっち。

読んでて気分悪くなった人、ごめんなさい。でも、こういう人もいます。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。御作、拝見致しました。 人が一人陰湿ないじめを受け続けて死んだ、そのことが30年以上繰り返されている現実を省(かえり)みさせていただきました。 あの大津の事件があってようやく政府…
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