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とあるファンタジーの顛末  作者: 近衛
とあるファンタジーの日常
8/17

デュラン・レペンスの憂鬱

今回は人間サイド、勇者の仲間の剣士様視点です。





 ……ダールベルグ王国。


 数ある人間が統べる国の中でも、特に優秀な剣士や騎士が多い事で有名な国である。

 そして王国の中でも特に優秀な者が集められた王国騎士団。

 その練兵場に、よく鍛え上げられた肉体を持った、鳶色の短髪の男が立っていた。

 精悍な顔立ちだが左目の下に傷跡があり、更にこれでもかと言うほど険しい表情をしているせいか、いかにも近寄りがたい雰囲気を纏っている。



 彼の名はデュラン・レペンス。



 異世界から召喚された勇者、サクラ・カミシマのパーティに所属していた剣士であった。










☆☆☆☆☆











 ………思い出したくも無いあの日。

 勇者サクラと魔王シリウスが雌雄を決したあの悪夢の日から、はや一ヶ月。


 ダールベルグ王国一の剣士と名高い俺、デュラン・レペンスは、元々所属していたダールベルグ王国騎士団へと戻ってきていた。


 だが俺は、未だにあの戦いの結末に納得していない。




 どうして魔王討伐に行って、当の勇者と魔王が手を繋いで仲良く帰還してくるんだ……っ!!




 なんと歴代最強と呼ばれた魔王シリウスを下した異世界の勇者サクラは、その場で魔王にプロポーズかましたのだ……いやそれどころか、魔王を辞めて勇者に転職して欲しい、と説得し始めやがったっ!!

 普段からどっか抜けた娘だとは思っていたが……まさかあそこまでぶっ飛んだこと言い出すとか誰が思うかぁあああああっ!!


 しまいにゃ半泣きで止める魔王の側近……ブランとか言ったか?……を振り払って、本気で魔王連れて帰りやがった!!

 あの時の国王の顔は……本気で同情したぜ……。




 苛立ちをぶつけるかの如く、肩に担いでいた大剣を構え、振り下ろす。

 まるで手足の一部であるかのように馴染んだ剣は鋭く空気を裂き、熟練の身のこなしは、ただ型をなぞるだけの動作であっても、まるで洗練された舞のように人の目を引き付けていた。











★★★★★











 ただ一心に……心に浮かんだ苛立ちを洗い流すかのように、大剣を振るうデュランの耳に、ぱちぱちと手を叩く音が届いた。



「あぁ?」



 大剣を肩に担いで視線を向ける。

 と、そこには自分の肩より低い身長の、幼さを残した顔立ちの黒髪の少女が目を輝かせて拍手していた。


「なんだ、サクラか」


 動きを止めたデュランのもとに、軽い足音をたててサクラは駆け寄った。



「こんにちはっデュラン!!」


「はいはいこんにちはー。ンなトコで何してんだよサクラ?」


「いえちょっとデュランに用事があったんですけど、デュランが鍛錬してたからついつい見とれちゃってました」



 あはは、と笑うサクラの頭を、ニヤリと笑ったデュランは大剣を持っていない方の手でぐしゃぐしゃと掻き回す。

 デュランは突然現われた素っ頓狂なこの妹分をかなり気に入っていて、よくこのように乱暴に構ってやるのだ。

 仲間からは「男兄弟じゃないんだから……」と呆れたような目で見られているが、これが俺の構い方だし第一サクラも嫌がってない、と気にせず遊んでやっているデュランであった。

 きゃー、と明るい悲鳴をあげて避けようとするサクラを捕まえてじゃれていると、不意に空気が変わったのを感じ取ってデュランは手を止め、思いっきり顔を顰めた。


 が、それとは逆に表情を輝かせる少女が一人。



「シリウスさんっ!!」



 弾んだ声で叫ぶや否や、遠くに現われた銀色の人影に向かって一直線に駆けていってしまった。

 遠めに見ても嬉しそうな笑顔に……そしてそれを向けられたいけ好かない無表情に、デュランは隠すことなく不機嫌な表情になった。




 サクラが頬を染めて一生懸命話しかけているのにピクリともしない鉄面皮も気に入らないし、無駄に長いとしか思えない手足も気に入らない。だがこれは断じて僻みではない。

 少し甘い表情を乗せさえすれば際限無く女が寄ってくるであろう整った顔も気に入らないし、その身に隠された人の身では有り得ない強力な魔力も気に入らない。


 つまりデュランは、元魔王であるシリウス・ロード・ベルテッセンという男が心底、徹頭徹尾、心の底から気に食わなかったのだ。



 ジッと睨みつけていると、何やらこちらを指差したサクラとそれに頷いたシリウスが見て取れた。

 まさか、と思っているうちにサクラは何処かへ走り去り、そしてなんとシリウスがこちらに向かってくるではないか。


 逃げるか、迎え撃つか。

 一瞬で二択を終えたデュランは、肩に担いだ大検に手を添えたまま、どう贔屓目に見ても友好的とは言えない眼差しでシリウスを待ち受けた。

 そしてシリウスが目の前で立ち止まり、その金色の瞳がこちらを見た途端弾かれたように口を開いた。



「魔族中の魔族が、こんなトコをウロウロしてんじゃねーよ」



 シリウスの表情は動かない。

 その無反応さに舌打ちし、デュランは更に口を開いた。



「手加減の仕方も知らねぇような無節操な魔力持ちにウロつかれるとなあ、迷惑で仕方ねーんだよ! 怖がられてるって悟って魔王城の奥で大人しくしてろよこの鉄仮面ヤローが!」



 そう容赦なく言い放ち、デュランは大剣の柄を握った手に更に力を込めた。

 どんな動きが来ても対処できるよう、全身に適度に力を分散させる。

 ……が、シリウスは予想外の動きに出た。


 無表情のまま軽く首を傾げ、一言。



「……恐ろしいのか?」



 予想外にその一言は、デュランの心にぐっさりと刺さった。

 ぎらりと苛立ちを目に滾らせ、怒りのままに口を開く。



「俺が怖いわけねぇだろーが!! ボケてんのかこの鉄面皮!!」



 怒鳴りつけて舌打ちし、踵を返す。

 そのまま無言で肩を怒らせて立ち去るデュランは、言い知れぬ感情に支配されていた。










後半に続きます。

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