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とあるファンタジーの顛末  作者: 近衛
とあるファンタジーの始まり
4/17

女神様と女子高生

続けて投稿します!





 昔から、身体が弱かった。


 運動も殆ど出来なくて、背もあんまり伸びなくて。


 それでも出来ることを頑張ろうって思って、勉強も習い事も全部全部頑張ってきた。


 頑張って頑張って、頑張ってきたのに。







『貴女に世界を救って欲しいのです……』






 いきなり言われて混乱した。


 目の前にはめちゃくちゃ美人なお姉さん。

 周りを見たら、なんだか色々な色がごちゃごちゃマーブルに入り乱れてる、ぐちゃぐちゃでぐにゃぐにゃした空間。


 混乱してる私を他所に、金の糸みたいな波打つ長い金髪と、サファイアより綺麗な青い瞳を持ったお姉さんは、羨まし過ぎるサイズの胸の前で両手を組み合わせて縋るように言った。



『今、私の司る世界が危機に瀕しているのです……どうか、私の願いを聞き届けてはくれませんか……?』



 …………………………why?



「ちょっちょっと待って! お願いします待ってくださいお姉さん!!」


 まずは詳細な事情の説明を!!


 ……叫んだ私は間違ってないと思います、うん。











☆☆☆☆☆












 ふむ、つまり。


「お姉さんは女神のフリージア様で、そのフリージア様が守っている世界とそこに住んでいる人達の均衡が今崩れつつある、と」


 つまり簡単に言うと、フリージア様の世界では人間と魔族が拮抗した勢力を持ち、どちらも世界の覇権を握りきれないことで世界が安定した状態で保たれていた。

 だけど最近即位した新しい魔族の王……所謂魔王がこれまでにない強力な力を有していた。

 このままもし本格的な戦争が始まれば圧倒的に魔族有利な状態になってしまうであろう世界は安定を欠き、最悪の場合世界丸ごと崩壊してしまうかもしれない……って!!



「た、大変な状況じゃないですかそれ!!」


『そうなのです……』



 心なしか目の前でしょんぼりしている女神フリージア様。

 完璧なプロポーションの美人さんは落ち込んでてもなんて美しい……ってそうじゃなくて!



「それでなんで私みたいな極々フツーの……いやフツーよりちょっと脆いぐらいの女子高生に声かけちゃうんですかフリージア様!!」



 『え?』って感じで目を丸くしてるけど、そんな場合じゃないでしょう女神様!!



「もっとこう……凄い剣の達人だったりとか、超能力持ってる人とか、滅茶苦茶頭が良い人とか!! こんなひょろひょろでちびっこい女子高生よりもっと頼りになりそうな人に助けを求めないと駄目でしょう!!?」



 目を丸くして私の主張を聞いていたフリージア様は、絶叫したせいで肩で息をしている私を見て、本当に優しくふわりと微笑んだ。



『良いのです』


「え?」


『私は、貴女が良いのです……サクラ』



 いきなり名前を呼ばれてドキッとした。

 教えてないんですけどわかっちゃうんですね流石女神様クオリティー……!!


 目を白黒させる私に微笑んで、女神様は言葉を続ける。



『貴女自身が大変な時に、私の世界を心から心配してくれる。そんな貴女だから、私は貴女のその清らなる魂を選び、救い上げたのです』



「……え……」



 『私』が、大変?

 救い上げた、って……











 次の瞬間、脳裏にフラッシュバックしたのは甲高いブレーキ音。




 重い手足、暗転する視界。




 「女の子が撥ねられたぞ!!」遠くなる、声。











「……あ……わ、たし……」



 段々と記憶が蘇ってくる。

 足の力が抜けて、ぺたりとその場にへたり込んだ私の傍らに、フリージア様が座って悲しそうな表情で手を握ってくれた。



『サクラ、サクラ……ごめんなさい、まだ思い出していなかったのですね?』


「あ、フリ…ジアさま、私……わたしもう、あの時に……?」



 声が震える。

 今にも崩れ落ちてしまいそうな私を、フリージア様が優しく抱きしめてくれる。

 その腕があまりにも優しかったから、私は涙を堪えきる事が出来なかった。











★★★★★











「………すいませんでした……」



 女神様の胸で延々泣きじゃくった私は、放してくれたフリージア様の前で小さくなっていた。

 あ、穴があったら入りたい……っ!!



『良いのですよ』



 フリージア様は優しく微笑んでくれている。



『サクラ、私は貴女に世界を丸ごと救ってもらいたいのです』


「え?」



 なんだかいきなりスケールの大きな話が飛び出してきて、思わず目を丸くする。

 そんな私に、フリージア様は何処か寂しそうな笑みを浮かべた。



『元はといえば、魔族も人間も私の世界に生まれた子供達。それを互いが争いあうような形でしか平穏を保てなかったのは、彼らの母たる私の咎』



 ああ、この女神様は『母』なのだ。

 その認識はすとん、と胸に収まった。



『本来ならば私が世界を取り纏め、二つの分かたれた信仰を少しずつ解け合わせて、世界の融和を行わなくてはなりません……けれど、分かたれた信仰の一方が集うこの私ではもう一方の信仰を持つ心には触れられず、変えることは叶わないのです』



 フリージア様は悲しそうに俯いた。



『一つ一つの命が持つ心は神の力ですら操ることは出来ない……また、その心を持つ命自身から生まれた意思ではない力で心を操ったとしても、それは私が望む本来の形での世界の安定ではない、酷く脆いものです』



 静かに、だけどキッパリと、フリージア様は言い切った。



『心は、違う誰かの心と強い意志を持ってしか動かすことは出来ません。だからサクラ』



 空よりも海よりも美しい、青い蒼い瞳が私を真直ぐに見た。



『貴女の優しい心で、強い意志で。その清らな魂の輝きで、私の世界の心を動かし、世界を丸ごと救って欲しいのです』




 ……つまり、この女神様はこの一般的な女子高生に、世界規模の長い長い兄弟喧嘩の仲裁をお願いしている、と。




 把握しました。

 把握はしました。



「ごめんなさい」



 深々と頭を下げました。



『え、駄目ですか?』




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