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とあるファンタジーの顛末  作者: 近衛
とあるファンタジーの日常
13/17

何かが欠けた二人の夜

いつもより遅くなりましたが、投稿します。






 ブラン・リューココリーネは純粋な魔族ではなく、正確には精霊と魔族の間に生まれた半霊半魔である。

 その為魔力の量と親和性が一般的な魔族よりも高く、威力の高い魔術を使う事が出来る。

 魔術の腕を磨いて磨いて、遂にその若さで魔王軍の魔術師団長の地位まで上り詰めたブランは……






 ……いつだって、恐ろしくて仕方が無かった。











☆☆☆☆☆










 今にも泣き出しそうに萎れたブランを半ば引き摺るように家へ連れ帰ったケイリーは、口を開こうとしないブランに差し出したホットミルクに問答無用で一服盛った。

 断じておかしな薬ではない……少々アルコール度数の高い、『特製』ハニーリキュールである。

 甘党のブランの口に合う様に注がれたそれをブランは気に入ったようで、無言でちびちびと口に運んでいた。


 一杯飲み干して二杯目を注ぐ頃になると、ケイリーの狙い通り口も緩んできたようだった……狙っていない部分も緩くなっていたが。主に涙腺とか。



「聞いてくださいよーケイリーくーん……だってだって僕なんか、ぼーくーなーんーかあぁぁぁ!!」

「はいはい聞いてやる、聞いてやるからまず話せー。つーかお前泣き上戸かよ似合い過ぎ。『僕なんか』はいい加減聞き飽きたっつーの」

「だってーだってー僕なんかー……」



 ミルク片手にぐすぐすぐずるブランを宥めつつ、ケイリーも同じホットミルクを啜る。

 ケイリーの舌には甘過ぎるホットミルクは、飲まなきゃやってられんというケイリーの心情の元、着実にその量を減らしていた。


 やがてぐずっていたブランが顔を真っ赤にして、ポロポロ涙を零しながら口を開いた。



「うぅうぅ……シリウス様はもう僕なんかいらなくなっちゃったんだぁぁ~……ひっく」


「あぁ? なんでそう思うんだよブラン」


「だって……だってシリウス様が……魔術師団解体するって……!!」



 いきなり飛び出した思いも寄らない発言に、ケイリーも思わず目を丸くする。


 魔王軍魔術師団……それはただでさえ有する兵が少ない魔王軍の戦力の半分を占める大部隊であり、魔王軍騎士団と並んで魔王を守護する双璧の一つである。

 ……まあ一説には魔王がその凄まじい魔力を揮わずとも良いように設立された、魔族全体での自衛部隊とも言われているが。



 その魔術師団を、解体?



 呆然としたケイリーの反応など目にも入っていないらしいブランは「この間、アーシアさんとシリウス様が話してるのたまたま聞いちゃったんですよぅ~!!」と机に突っ伏して泣きじゃくった。

 片手にはしっかりハニーリキュール入りホットミルク。完全な酔っ払いである。



「僕なんか魔術しか取り柄無いろに……魔術師団無くなっちゃったら、どぉやって、シリウス様のお役に立てば良いのかわかんらい……」


「…………………………」


「僕なんか赤ひゃんの頃にポーイッて捨てられてたのにさー……シリウス様が、拾ってくぇたから、こぉんなにおっきくなれたのにさー……」



 べそべそ。

 ぐすぐす。

 めそめそ。



 ぼろぼろ泣きながら「これは酔った勢いで暴露して良い話なのか?」とケイリーが首を傾げるような話までぶちまけるブラン。

 その顔はアルコールのせいで真っ赤に染まっており、時折呂律が回っていない。



「半分しか魔族じゃない僕らんか……シリウス様も、やっぱり、いららいんらぁ~……」



 最後に「しりうすさまのばかぁぁぁ!!」と叫んで、ブランは完全に沈没した。

 そんなブランを眺めつつ、ケイリーは溜息をつく。



 ……なんというか。



「……俺にはわっかんねぇなぁ……なぁブラン」



 ケイリーにはわからない。

 何故『育てられた者に必要無いと言われそう』というだけでそこまで悲観的になれるのか。

 それと同時によくわかってもいる。

 この一見足りない物など何も無さそうな青年は、それでも何かが決定的に足りていないのだ、と。



 ケイリーはそんな恐怖など、とっくに忘れてしまったのだ。

 未だ幼かったケイリーが、それでも必死で守ってきた母親が冷たくなっていたあの朝に、ケイリーはそんな恐怖とはさっさと縁を切ってしまったのだ。



 あの人は、最後までケイリーを必要としてくれた。

 どれだけ生活が苦しくても、決してケイリーを手放そうとはしなかった。

 もうそれだけで良い。

 後は何も要らない。

 それ以上の『何か』も『誰か』も、もうケイリー・ヤトロファには必要無い。



 自分も何かが欠けているのは良くわかっている。

 でもそれで良いと納得もしているんだ、と結論を出して、ケイリーは残っていたホットミルクを一気に飲み干した。それを納得できていないブランは、だからこそあんなに泣くのだろう。

 そのままカップを手放すと、薄手の掛け物を持って来て机に突っ伏したブランにかけてやる。

 そのまま自らは寝台に潜り込んで目を閉じた。






 眠りに落ちる寸前、瞼の裏に浮かんだ黒髪の少女の笑顔は、全力で見ないフリをした。











☆☆☆☆☆











「……アーシア」



 同刻の魔王城、宰相の執務室にて。

 難しい顔で数枚の書類を睨んでいたアーシアは、不意にかけられた声に振り返った。



「シリウス様?」



 何か、と問いかければ、部屋の入り口から入ってきたシリウスはこくりと頷いて口を開いた。



「……ブランを、知らないか」


「へ?」



 きょとん、と目を瞬かせたアーシアは、今朝顔を合わせたブランから報告された内容を思い出して首を傾げた。



「……ブランなら確かクラーキアですよ? サクラ様の仲間の所で暫く世話になると……シリウス様直々に許可なさったのでは?」



 アーシアの言葉に眉をひそめたシリウスは、否定の意を込めて首を振る。

 その反応に、アーシアは益々不思議そうな表情を浮かべた。



「おかしいですね……ブランがシリウス様の事について嘘をつくなんて」


「……?」



 二人揃って首を傾げるアーシアとシリウス。

 そのまま暫し二人で考え込んだ後、アーシアがそういえば、と口を開いた。



「シリウス様、どの様な用件でブランをお探しだったのですか?」



 ふ、と思考から戻ってきたシリウスは「ああ」と特に表情を変えることも無く答えた。






「……魔術師団の解体について、だ」






今回は微妙にシリアス成分が多いような気がします。

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