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とあるファンタジーの顛末  作者: 近衛
とあるファンタジーの日常
12/17

少年と青年のぶらり街中散歩



「ケイリー君ケイリー君っ、アレは一体何なんですかっ!?」


「冒険者ギルド。普通の冒険者はあそこで依頼とか貰って金稼ぐんだよ。複数の国の街やら村に同じような施設があって、冒険者達の身分証明とかもしてる結構デカイ組織だから目ェ付けられんなよ」


「ケイリー君っ、あのガラクタ置き場にしか見えない場所は一体!?」


「ありゃ露店の自称魔道具屋……オイ店主が睨んでるからあんまデケー声出すなよサッサと行くぞ」


「ケイリーくーん、こちらの方が何やら楽しい所に連れて行ってくださるそうなんですがー!!」


「あー? そりゃ奴隷商人か娼館の客引きだよ。地獄か天国のどっちかに連れてってくれるだろーよ……てかオッサン命惜しけりゃ手ェ放せー死ねるぞー」



 クラーキアの首都バンダ。

 結構大きな街なのだが、その通りをうろちょろする水色の髪の見目麗しい青年が一人、そしてその言動に一々突っ込みを入れつつ歩く、赤茶の髪を後ろで括ったやる気皆無の少年が一人。

 奇妙な二人連れは一見すると、保護者と被保護者の関係が逆転しているように見える。

 周囲の人間はあまりにも不釣合いな二人連れに訝しげにヒソヒソ話をする者やら、ブランの容姿に視線を奪われてうっとりする者やら、明らかに世間知らずのカモっぽいブランを見て翳った眼差しをぎらつかせる者やらで結構なカオスっぷりだ。


 だが当の本人達はというと。



「ケイリー君ケイリー君っ! なんでこんな魔力濃度が低い魔石売ってるんですかていうかコレ本当に売り物なんですかこんなのでお金貰えるんですかっ!?」

「ちょ、こら店先から勝手に商品持って来るんじゃねーよとっとと戻せ……いやーすいませんコイツ世間とか良く知らなくてーよく言って聞かせときますんでーそれじゃ!!」

「あっ、今のがもしかして『ボッタクリ』っていうモノなんですか? あのケイリー君、腕を掴んだままそんなに早く歩かれると足が引っかかって転びそうっていうかなんか握力強いっていうか痛い痛い痛いですケイリーくーん!?」



 全くのマイペースだった。


 これは全く空気の読めないブランと、寧ろかなり高度なレベルで読めるけどブランと一緒にいる状態で一々空気なんぞ読んでたら多大な精神的負担を背負うとわかっているのであえて読まないケイリーの、ある意味見事な合わせ技である。


 遠く魔王城の元魔王シリウスに向かって、ケイリーは思わず心の中で呟いた。



 お前なんで交換要員コイツにしたんだよ……?



 はっきり言おう。面倒臭い事この上ない。

 よくぞ此処までウザイ人選をした、と寧ろ驚愕だ。死んでも褒めたくはないが。

 半眼で振り返る。と、腕を捕まれた状態で大人しく付いてきていたブランと視線が合い、にっこり微笑まれる。



 ……悪い奴ではないんだ、悪い奴では。



 はあ、と溜息をついて、ケイリーはブランを引っ張りながら足を速めた。











☆☆☆☆☆











 とり合えず入った主に茶と茶菓子を楽しむのがメインの軽食屋で、ケイリーは冷えた紅茶を口に含みつつ、目の前で豪華に果物でデコレーションされたパフェに瞳を輝かせている魔王軍魔術師団長へと視線を向けた。ちなみに首都でも一、二を争う高級店である。当然支払いはブラン持ちだ。

 喉を下りていくよく冷えた紅茶の、ミルクもハニーシロップも入っていない透き通るように爽やかな風味と香りに目を細めつつ口を開く。



「……で、なんでお前はそんなに挙動不審なワケだ? ブラン」



 パフェの天辺にのせられた飾り切りのイチゴをスプーンで掬い取ろうとしていたブランは、突如として投げられたケイリーのその一言に目を見開く。



 大体、今日のコイツは出会い頭からおかしかったのだ。



 基本的に真面目なブランは普段ならあんな奇抜な挨拶はしないし、自分が持ってきた話を甘い物にかまけて忘れるような事もない。しかもその内容が、ブランが敬愛通り越して信仰してると言っても過言じゃないあの元魔王陛下直々のお言葉である。

 あまりのおかしさにまさか偽者かとも思ったが、街中を歩いている時の間抜けっぷりは間違いなくケイリーの知るブランだった。だからこそおかしい。


 どんなに楽しそうにしていても、会話の合間に今にも泣きそうな情けない顔をするような男じゃ無かった筈だ……魔王軍魔術師団長、ブラン・リューココリーネという青年は。

 どんなに間が抜けていようと、あの最強の魔王シリウス・ロード・ベルテッセンの側近であり一翼であるブランが、あんなに隙だらけの有様である筈が無い。



 未だ13歳のケイリーであったが、その洞察力は大人も舌を巻くほどのものを持っていた。

 成人すらしていなくとも、魔王を倒した勇者パーティの一員なのである。



 言い訳は無意味、とばかりにジト目で睨んでやると、ウロウロと視線を彷徨わせたブランは、やがて観念したかのようにスプーンを置いた。

 眉をへにゃり、と下げた情けない顔でチラチラとケイリーの表情を伺う事暫し。

 やがてポツリと呟かれた一言は、ケイリーが目を丸くするには十分な内容だった。




「……実は僕……魔王城、飛び出してきちゃったんです……」




 …………は?



 それって家出?

 あの魔王軍魔術師団長が、まさかの……家出?



 目を見開いて固まったケイリーと、その前の席で居心地悪そうにショボンと肩を落とすブラン。

 その奇妙な構図はパフェのアイスクリームが溶け、器を下げに来た給仕の少女に怪訝な眼差しで声を掛けられるまで続いたのだった。







さてブランの発言の意味とは?

次回もどうぞお楽しみください。

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