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とあるファンタジーの顛末  作者: 近衛
とあるファンタジーの日常
11/17

元盗賊少年と魔術師団長

 ここからは新しい続きになります。

 楽しんでいただければ幸いです。






 柔らかそうな少し長めの水色の髪。

 肌理の細かい白い肌に、少し年配の御婦人方に好まれそうな上品に整った顔立ち。

 宝石のように煌く碧い瞳がにっこりと、友好的な笑みを形作って細められる。

 元魔王軍魔術師団長ブラン・リューココリーネは自由国家クラーキアの首都バンダ。そのスラムに程近い一軒家の玄関先で、勇者直伝の『セイザ』を披露していた。 



「不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」



 女性がうっとりと聞き惚れるであろう甘やかな声でそう言い、玄関先で深々と頭を下げる水色の髪の青年に勇者パーティ所属、元盗賊のケイリー・ヤトロファはキラキラと輝く笑顔で言い放った。



「帰れ★」



 そのまま問答無用で力一杯扉を閉める。

 あまりにも情けない「ケ、ケイリー君っケイリーくーんっ!? なんで閉めるんですか礼儀に則ってちゃんと挨拶したのにあんまりですーっ!!」という半泣きの声が聞こえてきたが、全力で無視する。一体何処の礼儀だ。

 だがそのまま暫く放置しても諦めそうに無い様子に、嘆息しつつ頭を抱える。

 治安なんてあって無いような国の片隅ではあるが、あれだけ見目麗しい青年が半泣き状態で小汚い家の前に座り込んでいるというのは正直言って御近所の目が痛すぎる。



「……どうしてこうなった……」



 精神的ダメージでガンガン痛む頭を押さえつつ平穏とかそういうものを色々と諦めたケイリーは、未だに座ったままであろうブランを家の中にとっとと引っ込めるべく乱暴に扉を開いたのだった。











☆☆☆☆☆











 自分の盗賊としての人生のケチの付き始めはいつだっただろう、とケイリーは思わず遠い眼差しで回想する。


 ……そう、あれはそう昔ではない。

 自由国家クラーキア――別名何があっても自己責任の放任国家――の裏路地をウロウロしていた黒髪の娘に目をつけたあの日から、ケイリー・ヤトロファの人生は急転直下の転がりようを見せたのだ。

 荷物丸ごと盗ってやろうとして予想外に叩きのめされ、あれよあれよと言う間に所属していた盗賊専門裏ギルドは壊滅、働き口を失って文句を言おうと黒髪娘を探してみれば、なんと異世界から召喚された勇者とか言われてもうどうやって対応すれば良いやら。

 その勇者サクラがクラーキアに滞在している間に何故かその勇者自身から友達宣言され、否定してやろうと顔を合わせる度に面倒ごとに巻き込まれている勇者を見てうっかり世話を焼き。


 気が付いたらいつの間にか勇者パーティの一員として魔王城に到達してた、とか。



「どんだけ出来の悪い冗談だっつーの……」


「? 何か言いましたかケイリー君?」



 うっかり零れた呟きが耳に入ったらしいブランが、向かいの椅子で不思議そうに首を傾げる。

 良いから菓子でも食っとけ、とばかりに手を振ると、嬉々としてお茶請けとして出された山盛りの駄菓子に取り掛かっている。


 あの間の抜けた勇者と、最強と恐れられた魔王との最終決戦。

 その時に知り合ったこの青年、実は人間ではなく魔族である。

 単なる魔族ですらなく、魔族の中でも超エリート様。魔王直属の魔王軍の魔術師団長様なのである。

 ……目の前で、色の付いた水飴を零さない様に必死になって棒二本を使って練っている姿からはとてもそうは見えないが。



「……で?」


「?」



 頬杖付いて半眼で話を促してやれば、すっかり忘れているのか水飴の棒を銜えつつ不思議そうに首を傾げた姿に思わず米神に青筋が浮かぶ。

 瞬間的に沸点を突破した苛立ちに抗わず目の前にあったカップをぶん投げると、狙い違わず整った顔の額の真ん中でスコーンと軽い良い音をたてた。

 額を押さえて蹲ったブランを全力で見下しつつ口を開く。



「なんだって朝一番から人ン家の前でふざけるにも程がある冗談かっ飛ばしやがったんだって聞いてんだよとっとと答えやがれってんだこンの馬鹿ブラン!!」


「相変わらず滑舌見事ですよねケイリー君……いや待って話す話しますからカップは置きましょうそれは投げる物じゃないと思います」



 今度はブランの席の前に置かれていたカップを掴んで振りかぶったケイリーに、ブランは早口で制止をかけた。真顔だが微妙に青ざめている……カップの底部分の角が当たっていたらしい。


 カップを置いて鼻息も荒く腕組みしたケイリーの前にしおしおと座り直し、ブランは何度か口篭った後に口を開いた。



「……あの、この間シリウス様とした話覚えてます?」


「あの『魔族と人間が仲良くするにはどうしたら良いか会議』の話か?」



 今ケイリーが口にした会議。なんとソレが正式名称である。命名はサクラ。

 参加メンバーは勇者サクラと元魔王シリウス、そして勇者パーティと魔王の側近三名ずつ。

 その中で、この間話した事と言えば……



「……何だっけ。魔族も人間も互いの文化とか生活とか良く知らないって話になったんだっけ?」



 思い返し、呟いたケイリーにブランがうんうん頷く。



「そうなんです! それでお互いを知る事が重要だって話になって、そうしたらサクラ様が画期的な意見を出してくださったんですよ!!」



 あの勇者の『カッキテキイケン』だと……?


 そこはかとなく嫌な予感がしたケイリーの引き攣った表情を気にも留めず、ブランは笑顔で言い放った。



「なんでも『コウカンリュウガク』という制度らしく、違う国同士が互いに学ぶ者を送り合って、それぞれの暮らしや文化といったものを学ばせるとかいったものらしく……あれケイリー君? お茶のお代わりですか? なんで振りかぶるんですかケイリー君? ちょっと待ってケイリー君落ち着きましょうさっきも言ったようにカップは投げる物じゃ」



 ブランの制止半ばにして再びカップが良い音をたて、涙目になったブランが額を押さえて蹲る。

 そんなブランを見下ろしながら、ケイリーは新たな面倒ごとの予感にがっくりと肩を落とした。



 ケイリー・ヤトロファ、元盗賊の13歳。

 未だ短い人生ながら中々に波乱万丈な人生に培われた常識のおかげで、立派な苦労人予備軍である。

 合掌。






 苦労人二号。

 彼には立派なツッコミに成長して欲しいものです。

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