デュラン・レペンスの更なる憂鬱
「デュラーーーーーーーンっ!!」
勇者としての実力を無駄にフル活用したダッシュでアーシアとデュランの間に滑り込んだサクラは、膝立ち状態のデュランの胸倉を両手で掴むと容赦無く前後にがっくんがっくん揺さぶった。
「ちょ、デュラン!? シリウスさんに何か言ったんですか!? 言ったんですかぁあああああ!?」
「アーイッタトイエバイッタカナー……」
未だ戻って来ず、ガクガク揺さぶられながらも乾いた笑いで返すデュランを押し退け、アーシアがサクラの顔を覗き込む。
「サクラ様? シリウス様に一体何が……」
「それが『とても良い助言を貰ったから暫く城の奥に篭る事にする』っていきなり出て行っちゃったんですっ!!」
困惑と焦りに満ちた声に、その場の男二人がピキッと一瞬石化する。
ぎぎぎ、と首を回してデュランを振り返ったアーシアは、そこで蒼白になった男の引き攣り笑いを目にした。
「あー……そういえばさっき、恐がられてんだから魔王城の奥で大人しくしてろとかなんとか言った、ような気が………」
「なんて事言うんですかデュランの馬鹿馬鹿馬鹿ぁぁぁぁぁ!!」
半泣きでポカポカとデュランを殴るサクラを尻目に、固まっていたアーシアが走り出す。
慌ててサクラを担いで後を追ったデュランだったが、珍しく真剣に焦っているらしいアーシアの様子にどういう事だと説明を求めると。
「魔王城の奥には、先代様が悪ふざけで製作された凶悪通り越して極悪な隠しダンジョンがあるんですよ……シリウス様は恐らくデュラン殿の発言を真に受けて、下手したら隠しダンジョンの奥のラストステージで何百年か時間潰して人間から魔王の恐怖が薄れるのを待つおつもりです!!」
アーシアの言葉に、デュランの肩の上に担がれ、運ばれているサクラが悲鳴じみた声を上げた。
「ちょ! 何百年って……てか隠しダンジョンって難易度はどれぐらいですかっ!?」
「先代様が『クリア出来るもんならしてみやがれ』を合言葉に製作した致死率200%の極悪ダンジョンですよ!? 魔王城周辺の『常闇の森』がお手軽ハイキングコースに見えるぐらいのレベル差があるに決まってるじゃないですかっ!!」
ちなみに『常闇の森』は魔王城をぐるりと取り囲んだ、一般的にはラストダンジョンと呼ばれるレベルの森である。磁石も効かず光も射さず、出てくる魔物は凶悪種ばかりの上即死判定ばっちりなえげつない罠がごろごろしているそこがお手軽ハイキングコースに見える隠しダンジョンって一体!?
「……無論責任はデュラン殿にとっていただきましょう、ええ勿論」
冷ややか過ぎるアーシアの声と、涙目で睨んでくる妹分。
「責任=引き篭もったシリウスを迎えに行く役」だと一瞬で理解したデュランは青ざめ、走りながら天高く絶叫した。
「シリウス俺が悪かった!! 悪かったから引き篭もりは中止して一旦ダールベルグに戻ってくれ頼むからぁああああああ!!」
ちなみに、今にも隠しダンジョンに一歩踏込もうとしていたシリウスはその後すぐに「呼ばれたような気がする」とダールベルグのデュランの前に転移魔術で現われ、いきなり登場したシリウスにデュランは躊躇無くスライディング土下座で謝罪した。
その後デュランがいくら説明しても嫌味を理解してもらえずにデュランは羞恥のピークを味わわされたが結果としてシリウスの危なっかしさを理解し、その後力の制御の訓練としてデュランがシリウスに普通の剣を教えている姿が見られるようになった。
「……ところで剣士殿、先日の件だが……」
「頼むから『剣士殿』呼びマジでやめてシリウス。デュランで呼び捨ててくれお願いします」
「……わかった、デュラン……だが何故だ?」
「薄ら寒いナニカを思い出すんだよ……!!」
この様に打ち解けたやり取りも見られるようになり、まるで弟に対するようにシリウスに接するようになったデュランだったが……
「テメェらシリウスに妙な言葉吹き込むんじゃねぇええええっ!!」
シリウスに対する言動に異様に過保護になってしまっていた。
デュランとアーシアの自棄酒の夜は、まだ当分の間続きそうである。
これでデュラン視点は一段落です。
次は誰にしようかな……