プロローグ
死んだはずの9人は、それでも「生きたい」と願った。
山道を走るバスの中に、少女達の笑い声が響いていた。
「だから、それは違うって言ってんだろ!」
「違わないっ! そっちが先に言ったんじゃないかっ!」
「はぁ!? お前が――」
「……あんた達、少しは静かにできないの?」
呆れたような声が割って入る。
「アタシは悪くねぇ!」
「私だって悪くないぞっ!」
「はいはい。どっちでもいいわ」
「よくない!」
「よくないぞっ!」
二人の声が綺麗に重なった。
「ふふっ。二人とも、わっせ仲が良か〜。」
「どこがだよ!」
「どこがだっ!」
また、重なった。
今度は車内のあちこちから笑い声が上がる。
「まったく。騒がしいですわね。」
「まぁまぁ。個性豊かでいいじゃないですか。」
「うん、絵になるねぇー。」
「きゃーっ♡2人とも、可愛い〜♡」
「個性さん、爆発してるね。」
「ほんとにもう……。」
窓際では、一人が流れていく景色をぼんやりと眺めていた。その隣では、揺れる車内で器用に飲み物の蓋を開けている。
そんなことには構わず、言い合っていた二人はまだ何やら互いに文句を言っていた。
呆れたり、笑ったり。
いつも通りだった。
本当に、いつも通り。
くだらないことで言い合って。
誰かが笑う。
誰かが突っ込む。
それは、9人で過ごす、ごく普通の時間だった。
バスはそんな少女達を乗せ、山道を進んでいく。
窓の外を流れていた街並みは、いつの間にか深い緑へと変わっていた。
カーブを曲がるたび、車体がゆっくりと左右に揺れる。
木々の隙間から差し込む陽の光が、窓を、座席を、少女達の顔を順番に照らしては消えていった。
先ほどまで続いていた言い合いも、いつの間にか終わっていた。
窓の外を眺める者。
座席に身体を預ける者。
隣同士で小さな声を交わす者。
賑やかだった車内に、穏やかな静けさが訪れる。
聞こえてくるのは、
エンジンの音。
タイヤが路面を転がる音。
時折、車体が軋む音。
やがて、前方に小さな交差点が見えてくる。
人影はない。
行き交う車もない。
そこには、信号だけが立っていた。
黄色い光が、点いて。
消える。
点いて。
消えて。
「――え?」
けたたましいブレーキ音が響いた。
次の瞬間。
凄まじい衝撃が、9人を襲う。
――暗い。
何もない。
「…………?」
何も見えない。
ただ、暗闇だけがどこまでも続いている。
「……ここ、どこ?」
声がした。
それに応えるように、別の声がする。
ひとつ。
また、ひとつ。
暗闇の中から、次々と声が聞こえてくる。
1人。
2人。
3人。
――9人。
全員、いる。
その時だった。
「――漸く、今回の“9つ”が揃った」




