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夢のなかに (ゴールドベルク変奏曲)

掲載日:2026/07/10

小説は

なろうの世界

こころの温泉

癒しと

くつろぎの里へ

ようこそ


by

あんたよわたし



なろうのショートショート集!


音楽とホラーネタ


借金まみれの俺は、研究室に連れて行かれて、ドローンロボットを操作して、ある人物を暗殺するように言われる。暗殺が成功すると、借金は帳消しになるのか。俺は、借金取りに連れられてとある研究室に向かった。


     *      *


夢の中に

(ゴールドベルグ変奏曲)


作 あんたのわたし




俺は、昔から金に縁はなかった。というか、俺の人生、一生を通して金なしの人生であった。そして、挙げ句の果て、俺は、どうしようもなく金がなくなり、俺はのっぴきならない事態におちいっていた。


そんなある日俺が借りていたアパートに帰ると、借金取りの一人が俺の帰りをアパートの俺の部屋の前で待っていた。


俺は、借りれるだけの金をその男からも借りていた。


「今日は、あんたのために仕事を見つけてきたんだ。大きな声では、言えない。というか、その仕事というのは、つまり、実は人を殺す仕事さ。よろこんでやれるような仕事ではないのだが、人を殺す仕事というのは報酬がたんまり入る。その報酬で俺の借金を払って貰いたい。つまり、そろそろアンタの借金を精算してくれというのだ」


これは、否応なしに決められた。俺には、断るという選択肢はなかった。


俺は、ある研究所に連れて行かれた。その研究所ではとある部屋に案内された。それは、その大きな部屋には、いっぱい装置が作られていて、その装置の中央には、コックピットがあってコックピットの中は人が座れるようになっていた。


研究所のその部屋には、一人の人物がいて、白衣を着ていた人物は、俺にコックピットに乗り込むように指示してきた。


俺は、装置のコックピットに潜り込むように乗り込んだ。コックピットの中にあるシートに正しく腰を下ろすと、体が落ち着いた。このコックピットは俺のために用意されたのかと思ってしまうくらいに俺の体にしっくりきた。ゴーグルは目の前に来るような位置に固定されていた。ゴーグルも良い。そのゴーグルは俺の目の前に来るようになっていた。白衣の人物により、スイッチが押され、身体が固定され、俺がそのゴーグルを覗くと、ゴーグルの向こうにひとつの世界が見えた。


「酔いそうだ」


俺は、思わず誰に向けてでもなく言った。俺が覗くゴーグルに送られてくる映像は、この研究所とは別のところから送られてきていると俺の世話役の白衣の人物が教えてくれた。映像の撮影をしている元の遠隔のカメラは固定されていなくて、何かの動くものに付けられて、カメラがついているのだ。俺にとっては懐かしい感覚だった。


「ドローン?」


「ドローン? そうだ! 歩行しているドローンだ。あなたは、ここのコックピットから遠隔操作をして、ドローンロボットを操る。そして……」


白衣の人物の言葉は、一瞬滞ったが、白衣の人物は続けた。


「そのゴーグルに表示される映像は、向こうの世界のとあるドローンロボットが身に着けているカメラを通して得られているので、カメラをつけたものがゆれれば、カメラも揺れる。いくらかの揺れは我慢だよ」


「これはひょっとして……」


「操縦士の思いを汲み取って、操縦士の望むとおりに行動してくれるドローンロボットのコックピット。ドローンロボット、あんたの発明品は大したものだ」


「やはり、そうだったのか、しかし……」


       *       *  


俺は苛立った。理由は、はっきりしていた。


「俺は、このドローンロボットを操って、誰かを殺す。そういう趣向か?」


「分かったことを!」


借金取りの声も離れたとこから聞こえた。借金取りもオブザーバーとしてこの建物にとどまっていた。


       *       *  


ドローンロボットは、ターゲットを捉えた。ゴーグルの映像に攻撃目標が映し出された。攻撃目標は、俺の思ってもみない人物だった。


(あいつ、どうしてここに? もしや……)


俺は、俺が操っているドローンロボットのいる建物の様子をチェックせずにはいられなかった。そして、再びドローンロボットのカメラから送られてくるターゲットの様子をチェックした。


すでにドローンロボットには、ターゲットの情報がインプットされて、ドローンロボットは、暗殺ターゲットの目の前に移動を完了した。ドローンロボットは工場内の作業員に化けているので、暗殺のターゲットは眼前の人物が自分の命を狙っているとは、夢にも思わない。


「お前は、最高のタイミングを見計らってドローンロボットに指令を出せば良い。ドローンロボットは、たちまち暗殺ターゲットの抹殺を完了するだろう。そして、お前の借金がチャラになり、お前は、俺たちからの拘束から自由になるということだ」


「やはりそうだ! 俺の工場にいるのは、やはりあの男だ」


俺の頭に、不快な記憶が蘇ってきていた。そして、俺は確信を得た。それは、ゴーグルを通して見えてきたその建物の様子であった。それは、間違いなく昔の俺の工場だった。ずいぶんと年月がすぎてしまったが、工場の様子は昔のままであった。


起業しては失敗ばかりの人生だった。そして、それでも懲りずに、起業して、さらに借金を重ねた、それが俺の人生であった。


「そうか、俺の工場、俺の生産ライン!俺がオーナーだった頃の昔と変わらない、しかし、その工場は挙げ句の果て人に取られてしまった」


「そう、そこはあなたの工場。あなたの工場を受け継いで、ある人物が経営者としてこの工場を支えてきた」


「……」


「あなた、自分の工場のことは、お詳しいはずだ」


「……」


俺は、答えない。しかし、俺が断らないと、白衣の人物は自信を持っているようだ。


「お前たちの代わりに、俺が人を殺す理由を俺は知りたい。俺は、暗殺のターゲットとなっている人物を知っている。指令が出ている理由、というか今度のことの本当のところをどうしても知りたい」


研究所の白衣の人物は、肝心なことは話そうとしない。ただ、これだけは断言した。


「それは、君のは我々に利益をもたらす。そして、君にとっては、この暗殺で恨みを晴らせる」


       *       *  


俺の頭に一つの思いがよぎった。それは、俺の思い出に由来する。


この工場の場所というのは、工場の禁止地域というのが後で発覚して、苦境に追い込まれてしまった。


そんな時に、あの男が現れた。あの男は、俺を手玉にとり、俺から絞れるだけの現金を搾り取った。


俺は、土地と工場を手放し、多額の借金ができた。俺は、俺の工場から追い出されてしまった。そして、そのあと工場は閉鎖されてしまったと聞いている。


しかし、閉鎖されて今はあるはずのない工場の様子をゴーグルの映像は映し出していた。


ゴーグルからは、ドローンロボットのいる工場で流れていたあの音楽が聴こえ出した。


ゴーグルの映像の工場では、昔、あの頃と変わらずゴールドベルグ変奏曲が、工場の始業時間がやってきたことを知らせていた。


あの男は、再び俺の前に姿を表した。何も気づいてはいない様子。ただ、昔からいうと裕福に見えた。ここまで、俺は、あの男に騙されていたのか。


俺は、これから暗殺しようとしているこの男に騙されていた。


俺の金を持ち逃げした男が、俺の工場の責任者だと、今、俺は知ったのだ!俺の工場をあの男が乗っ取っていたのだ。俺は、今事情が飲み込めた。俺は、なんて間抜けなんだ。


やはり、俺は、初めから、そして、今まで裏切られ、騙されていたのだ。


だとしたら、この男が死んだとしても、致し方のないところ。そういうことなのかもしれない。


       *       *  


本来は。俺の工場であるべき、その工場の様子を俺のゴーグルの映像は映し出していた。


そして、工場では昔と変わらず汚れのない無垢のゴールドベルク変奏曲が工場の始業の報せの音楽として流れていた。


ドローンロボットは、工場の作業員として工場に潜り込んでおり、俺の意図を汲みターゲット、つまりあの男を発見していた。


このターゲットは、俺が忘れもしない俺の工場の会計を担当していた男であった。その男が、工場の金を持ち逃げして、俺を苦境に陥れたのだ。


     *      *


「この男は、暗殺されても仕方のない男!」


俺は、ドローンロボットに攻撃の指令を送った。


ドローンロボットは、俺の指令に答えて攻撃の動作に入った。


手応えは、あった。あった。。。はずだ!


ドローンロボットは、敵に一撃を加えたと思った。そのはずだった。

しかし、俺が感じているこの痛みはなんだ?


強烈な痛みが身体に、俺の体に走っている。


あいつの反撃が俺の身体に届いた? 俺のドローンロボットはあいつの返り討ちにあったのか? しかし、それで実際に俺が傷つくとは!


俺の腹から、腹全体から、血が勢いよく吹き出している。


ゴーグルの映像ごしに、あの男がかろうじて立っているドローンロボットに近づいてきて、ドローンロボットを押し倒した。、


あいつは、カメラをむしり取ろうとした。


「しまった!」


(カメラを取られたら、ドローンロボットの機体の状態がまったくつかめなくなってしまう。状況がつかめたとしても、俺には、反撃する力は残っていない)


ただ、俺は、遠隔の地からドローンロボットを操作していたのに、遠く離れたところの攻撃を食うことになってしまったのか? 死につつも、俺の心はその答えを探していた。


     *      *


俺はどこまで話していたのか? 確か、暗殺を依頼された男、つまり俺が暗殺を試みてかえって返り討ちになってしまった。そんな哀れな俺の話をしていたところだった。


死につつある俺の体は、白衣の人物と、借金取りであり、暗殺計画の立会人であった男の手によって、コックピットから運びだされて、研究室の床に置かれた。


床に置かれた俺には、はっきりとゴールドベルク変奏曲が聴こえていた。それが、不思議だった。床に置かれた俺は、もはやゴーグルはのぞいていないし、ゴーグルがあるコックピットは、離れたところにある。それなのに、鮮明なゴールドベルク変奏曲が俺の耳に届いていた。


       *       *  


白衣の人物と、暗殺の立会人であった借金取りが、死につつある俺のことを看取っていた。


借金取りの立会人は怒っていた。怒りを堪えている様子だった。


その時まじかに、例の工場の始業を知らせるゴールドベルグ変奏曲のメロディーは、チェンバロが奏でるメロディだった。この工場でもゴールドベルク変奏曲は流れていたのだ。俺は、遠ざかる意識の中で、ゴーグルの映像に伴って流れてくるゴールドベルク変奏曲にくらべると、研究所のは、確かにとても鮮明な音だった。それは、断言できる。


       *       *  


この研究室で、そして研究室に流れるふたつのゴールドベルク変奏曲を俺は、区別して聴き分けることができた。


男の胸にサバイバルナイフが突き刺っているわけではないが、サバイバルナイフが俺の胸に刺さっている実感があった。勢い良く血が吹き出すのをやめなかった。



その日は、休日で借金取りと俺と白衣の案内のあの男以外は誰もいなかった。


俺は、動きたくとも動けない状態だった。俺は、自分の人生の終わりを予感していた。


俺は、遠隔の地からドローンロボットを使って攻撃したはずだ、なぜ相手の攻撃から完全に守られているはずなのに、なぜ俺はあの男の反撃を受け、あの男の攻撃を受けたのはドローンロボットなのに、遠くにいるはずのコックピットの俺がやつの刃物の攻撃を直に受け止めることになった。


俺は、薄れゆく意識の中で、この苦い現実のその訳を求めていた。


俺を、看取りながら、俺を案内していた白衣の案内の人物と立会人の借金取りが言葉を交わしているのがまた聞こえてきた。


白衣の男は、不思議な出来事、俺を当惑させるこの事態について、情報を持っているようであった。


「これはドローンロボット界にとって大きな進歩だよ。つまり、ドローンロボットにも人権というものが認められたということ。今時のドローンロボットは、人に劣らぬ知性を身につけている。時として、自分で物事の判断もするようになった。人には劣らぬものだから、人並みの権利を得たとしてもおかしなこととは言えない」


白衣の男は続ける。


「これがドローンロボットの最新システムというもの! ドローンロボットの人権というものさ」


「……」


「敵の攻撃からの被害をドローンロボットがこうむるときに、ドローンロボットだけではなく、ドローンロボットを遠隔のコックピットから操縦するパイロットも同時に同量の被害を受ける。連帯の運命いう概念が補完されて初めて、人間とドローンロボットとの関係に人権が正しく盛り込まれることになる」


借金取りは、素直に白衣の男の話を聴いている。突然出現した修羅場の訳に、借金取りは関心を持っていた。白衣の男は、念を押した。


「これが、ドローンロボットと人間の平等の関係への第一歩である」


借金取りは、つぶやいた。


「ドローンロボットがこっちの方面に進化するとは?」


「これは、純粋に兵器の威力という点から見れば、進歩としては後退している。しかし、ドローンロボットのパイロットがドローンロボットの人権を無視して敵に無謀な攻撃を行えばそれ形のしっぺ返しを食うことになる。ドローンロボットは、コックピットの操縦士の盾としての役割を捨てる。この新しいシステムは素晴らしい」


       *       *  


(この音楽を聴いてくれ! ゴーグルと研究室のスピーカーとの両方から流れてくる )


俺は、このゴールドベルク変奏曲という音楽のことを妙に納得していた。それを誰かに伝えたかった。


そんな時、白衣の男の語りが耳に入ってきた。

「ドローンロボットとここの研究室のコックピットから聞こえてくるふたつのゴールドベルク変奏曲は、工場のゴールドベルク変奏曲とシンクロしていることを示している。このシンクロによって、ある箇所に生じた衝撃は、距離と空間を超えて、コックピットに伝えられる。衝撃は、一つであっても、ドローンロボットと研究所のコックピットとに伝達されて、結果ふたつ存在したということになる」


苦痛、衝撃を同等の形で、工場と研究室という二つの場所でシェアされるという、これからの時代の道徳の形を変えない、その重要性を理解することが大事だ。


     *      *


白衣の男は、借金取りの立会人に対して断言する。


「我々の暗殺の試みは、失敗に終わり、一つの命が失われてしまったのだが、ドローンロボットの人権という意味では、新しい時代の始まりに当たります。あなたというさらに一人の立会人が存在したということは喜ぶべきことだろう」


「昔、俺が守り抜いてきた工場お前らの好きにされてたまるか!」


俺や、俺の工場のことをなんとも思っていない白衣の男には、少なくとも腹が立った。



それは、二人の話が聴こえてきてまもなくのことだった。


三番目のゴールドベルク変奏曲が俺の耳にはっきりと聴こえてきた。


このゴールドベルク変奏曲は、これまで聴いたことのないような、一味違ったゴールドベルク変奏曲であった。


俺は、最後に言葉が頭に浮かんだ。それは、俺自身でも意味不明なものであった。


(あの音楽が、はっきりと聴こえた!)


俺の人生は決して無意味なものでは無かったという、天からの知らせのように思えた。



       *       *  


「なんの音楽ですか? ガッカリしましたよ。あなたには、あなたには、必ずやり遂げると思ってました。ここで死なれてあなたへの借金を踏み倒されてしまうことになる」


借金取りは、説明を聴いても納得がいかず、辺りに鳴り響くゴールドベルク変奏曲に苛立ちを覚えているようだった。借金取りは、音楽がどこから聴こえてくるのか確かめようと研究室を見渡した。



(こちらが、工場で鳴っているゴールドベルグ変奏曲。そして、こちらが、ここ、研究所で鳴っている。もう一度確認。こちらが工場で鳴っているゴールドベルグ変奏曲。そして、こちらが研究所のゴールドベルグ変奏曲。おや、おかしいな! もうひとつ、別のゴールドベルグ変奏曲が聴こえてくるやうな……)



三つのゴールドベルク変奏曲が、鳴っている。少なくとも俺の耳には。。。


確かに、ゴールドベルク変奏曲は、俺の意識は遠のいていくのに、俺にはそれでもはっきりと聴こえた。確実に俺をあの世にいざなって行けるようにゴールドベルク変奏曲が鳴っていた。


ゴールドベルグ変奏曲、そのアリアと題する第一曲目に誘われて、俺は天国への階段を登っていってるようだ。




               了








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