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月夜のピアノ

掲載日:2026/05/19

最後のお客様が店を出たので、マスターは店のドアに「CLOSED」の札をかけた。

ここは、ジャズバー「ムーンライト」。


幾分、早仕舞である。

若い頃は夜通しピアノを弾いていたこともあったが、歳には敵わない。

それに、今夜はちょっぴり特別な晩なのだ。


マスターは店の灯りをちょっと落として、窓にかかる分厚いカーテンを開いた。

空には満月が煌々と輝いている。


今夜のシンガー、彼女の歌はなかなか良かった。

ほんのり掠れた声に、なんとも言えない艶が漂っていた。


マスターは、少し薄くなった髪をなでつけ、黒縁の眼鏡をかけ直して、ピアノの前に腰かけた。


「Fly Me to the Moonか・・・」


マスターの指が鍵盤の上をなめらかに滑り出した。

やや背を丸めて、どこか哀愁のあるメロディを柔らかに弾く。


窓から月の光が差し込んで、マスターの横顔と指を照らした。


白と黒の鍵盤の上、マスターの指の影と月の仄白い明かりが交差して、音を奏でてゆく。

マスターの滑るような指づかいと、見え隠れする月の優しい明かり。

それは、まるで、マスターと月の連弾のようでもあった。


いや、月の光が鍵盤に落ちる度、本当に音は鳴っていた、と思う。

マスターの奏でる燻したようなピアノの音に混ざる、澄んだ音色。


やがて。

静かに曲が終わり、マスターの手が鍵盤から離れた。


「うん。今夜も良いセッションだったよ」


マスターはカウンターの奥からグラスを2つ持って来て、琥珀色のウイスキーを注いだ。

そして、ピアノの上に置いた片方のグラスに、軽く自分のグラスをぶつけて、楽しそうに一口飲んだ。


ため息のように、ひそやかな明かりがピアノの上のグラスに落ちていた。





童話、とは言えないかもしれませんが、ね。

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― 新着の感想 ―
素晴らしい余韻が残る短編でした。ジャズバーとオシャレな場所も作品に入り込めました。 当方は趣味でチェロ弾いていますが、このマスターのお気持ちがよく分かります。 また次回作を楽しみにしています!
マスターと月の光のセッションでしたね♪ しっとり、大人の雰囲気で素敵でした(n*´ω`*n)
月夜もピアノも大好きなので、鉄壁の組み合わせでした(^ ^) 月光と連弾なんて、すごく素敵。ジャズバーというのがお洒落ですね。 童話でいいと思いますよー。でも大人っぽくて洒落た童話は個人的にメルヘ…
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