普通に見えていた日常が、崩れた話
あの頃は、普通だった。
⸻
何も問題はなかった。
⸻
知人の紹介で出会い、
すぐに付き合うことになった。
⸻
彼女は看護師として働いていた。
⸻
私は、まだ学生だった。
⸻
⸻
寮生活の話をよく聞いていた。
⸻
先輩の愚痴。
⸻
削られていく睡眠時間。
⸻
それでも、
どこにでもある日常だと思っていた。
⸻
⸻
やがて彼女は、
寮を出た。
⸻
病院指定のマンションで、
一人暮らしを始めた。
⸻
私は、よく泊まりに行った。
⸻
⸻
ある日、
様子がおかしかった。
⸻
声をかけても、
反応がない。
⸻
ぼんやりと、
一点を見つめている。
⸻
⸻
何度か呼びかけると、
ようやく返事が返ってきた。
⸻
「ごめん、なんか……」
⸻
いつも通りの声だった。
⸻
⸻
疲れているだけだと思った。
⸻
⸻
だが、
その“間”は増えていった。
⸻
⸻
夜、
一緒に寝ていたときだった。
⸻
⸻
彼女の体が、
突然震え始めた。
⸻
⸻
痙攣。
⸻
額には汗。
⸻
⸻
声をかけても、
届かない。
⸻
⸻
やがて、
目を開けた。
⸻
⸻
だが、
何かを掴むように、
手を動かしていた。
⸻
⸻
空中で、
何かを繰り返している。
⸻
⸻
理解できなかった。
⸻
⸻
数分後、
彼女は戻った。
⸻
⸻
何もなかったかのように。
⸻
⸻
そして、
何も覚えていなかった。
⸻
⸻
私は、
説明した。
⸻
⸻
彼女は、
受診した。
⸻
⸻
診断は、
てんかんだった。
⸻
⸻
⸻
それからが、
日常ではなくなった。
⸻
⸻
薬は合わなかった。
⸻
⸻
強い眠気。
⸻
仕事に支障が出る。
⸻
⸻
相談しても、
「様子を見る」の一点だった。
⸻
⸻
病院を変えても、
変わらなかった。
⸻
⸻
ある医師は言った。
⸻
⸻
「子どもは難しいかもしれません」
⸻
⸻
彼女は、
薬をやめた。
⸻
⸻
私は、
何も言えなかった。
⸻
⸻
⸻
それから、
発作は起きていない。
⸻
⸻
⸻
あのとき何が正しかったのか、
今でもわからない。
⸻
⸻
ただ、
⸻
普通だった日常は、
確かに崩れていた。
⸻
⸻
そして今は、
何も起きていない。
⸻
⸻
最後まで読んでいただきありがとうございます。
日常は、壊れるときも静かに崩れていくのだと感じています。
その違和感や関係性について、
Xで言語化しています。
X「こころの余白|無理しない人間関係」で発信しています
https://x.com/yohakumaind/




