リリとナナ
港町の空は、穏やかだった。
ナナはいつものように、荷物を運び終え、
屋根の上で風を受けていた。
速く飛ぶ必要は、今日はななかった。
それでも、体の奥が落ち着かなかった。
あの黒い鳥のようなものはもう現れなかった。
――あの感覚。
考えないようにしても、
空の不思議な空間のことを、どうしても思い出してしまう。
「ナナ」
声がした。
振り返ると、
リリが立っていた。そしてその横には黒猫のビビ
魔女の修行の初日に空であった
先輩魔法使いリリ
「あなたは、あのときの、、、
どうしたの?」
「……あなた、最近、空を速く飛んでるでしょう」
「うん。まあね」
軽い答えだった。
「ほんとにこの子なの?」信じられなそうなビビ。
リリは手をナナの方にむけ、ナナの潜在意識に触れる
、、、間違いない。
「速い、じゃないの」
リリは一歩、近づく。
「あなた、空間を越えかけた」
ナナは、きょとんとした。
「……なに、それ」
否定でも、驚きでもない。
本当に、意味が分かっていない声。
リリは、胸の奥が少しだけ痛んだ。
「自覚、ないのね」
「ただ……速くなっただけ、風よりもね!」
ナナは空を見上げる。
「でも、変なのはあった。
空が、二重になった感じ」
その言葉で、
リリは確信した。
間違いなく、縁に触れている。
「それが、問題なの」
リリは、声を落とす。
「ナナ。
あなたは、世界の“外側”に、触れた」
風が吹く。
二人の間を、静かに通り過ぎる。
ナナは、冗談めかして言おうとした。
でも、リリの目を見て、やめた。
寧々がナナの肩にのり、リリを見つみる
そこには、
占い師が未来を見るときの顔があった。
――もう、知ってしまった人の顔。
「ねえ、リリ」
ナナは、少しだけ真剣になる。
「私、何か、まずいことした?」
リリは、すぐに答えなかった。
「……まだ」
そう言ってから、続ける。
「でも、このままなら、
あなたは、世界にとって“例外”になる」
ナナは黙る。
「何が起こるって言うのさ」寧々が少し声を荒げる
風の音が、やけに大きい。
「説明するわ」
リリは言った。
「世界が、どうやって止められてるか。
あなたが、どこに行きかけたのか」
「止められてる?」
一拍置いて。
「そして、
そこに何があるのかを」
ナナは、息を吸った。
「……分かった」
それだけ答えて、
ナナは、ほうきを握り直した。
空は、何も知らない顔で、広がっていた。




