2年目の魔女
雲の切れ間を、二本の箒が並んで飛んでいた。
「あなた、何か特技あって?」
リリが、くるりと振り返る。
大きなツインテールが、空に弧を描いた。
「いえ……いろいろ考えてはいるんですけど……」
黒いワンピースの少女――ナナは、少し困ったように答える。
「そう。私はもうじき修行があけるの!」
リリは胸を張った。
「あの町が、私の町なの……大きくはないけど、まあまあってとこね」
「……はい」
「あなたも、がんばってね」
そう言って、リリは笑い、ナナの頭上を抜け、反対側から街へ降りていく。
「じゃあねー!」
リリの後ろで、黒猫ビビが舌を出す。
⸻
夜の街は、柔らかな灯りに包まれていた。
石畳の路地を歩く人影はまばらで、窓からこぼれる暖かい光が静かな通りに散らばっている。
リリは箒を縦にし、地面に足をつく
リリは深呼吸をひとつして、ゆっくり歩を進める。
広場の前につき、占いハウスと書かれた家の扉を開ける。
「あー、疲れたね」
ビビは肩から飛び降り、ふかふかのクッションに身を沈める。
リリは小さく微笑み、机に置かれた占い道具を見つめた。
タロットカード、水晶、占星盤――
どれも丁寧に並べられ、光を受けて控えめに輝いている。
それは、リリにとっての魔法の道具であり、日常の一部でもあった。
疲れのせいか夜は、あっという間に過ぎた。
⸻
翌日。
リリは朝の光に目を覚まし、柔らかな光が差し込む部屋で机に向かう。そそくさと朝食を済ませ、占いの準備を始める。
外の空気は少しひんやりとしていて、街路樹の緑が光を受けて輝いていた。もう昼近くになっている。
昼になるとすぐにお客がくる。
リリは占いを始める。
水晶に手をかざし、タロットカードを広げ、占星盤をそっと回す。
個人の未来は、問題なかった。
恋愛。
商売。
小さな不幸と、小さな幸福。
でも――。
「……あれ?」
占い盤に浮かんだ像が、途中で崩れる。
「どうしました?」
客が不安そうに声をかける。
「ううん、なんでもないわ」
リリは微笑んでごまかした。
だが、横でビビが小さく尻尾を動かす。
ビビの声は人には届かない。リリに問いかける。
「また、“先”が見えなかった?」
「……うん」
街の未来の一部、技術や人の選択、これから街がどう変わるのか――
それだけが、水晶の中で霞んで白く抜け落ちる。
リリはその光景をしばらく黙って見つめた。
胸の奥がざわりとする。
何か、世界のほんの一部が、自分の手から離れているような気がした。
それでも、日常はゆっくりと回っていく。
リリは深呼吸をひとつし、タロットカードを整え、水晶の輝きを確かめる。
小さな不安を胸に、今日も占いの仕事を始めるのだった。




