ウィッチウォッチ
初めまして、魔法使い修行一年目のルルとナナ、そして2年目のリリが人間生活で修行をするお話しです。修行をしていくと、不思議なことに気づく、その不思議は何なのか、お楽しみください
雲の切れ間を、二本の箒が並んで飛んでいた。
「あなた、何か特技あって?」
先を行く魔女が、くるりと振り返る。
大きなツインテールが、空に弧を描いた。
「いえ……いろいろ考えてはいるんですけど……」
黒いワンピースの少女――ナナは、少し困ったように答える。
「そう。私はもうじき修行があけるの!」
魔女は胸を張った。
「胸をはって帰れるの。あの町が、私の町なの……大きくはないけど、まあまあってとこね」
「……はい」
「あなたも、がんばってね」
そう言って、魔女は笑い、空を切った。
「じゃあねー!」
ナナの後ろで、黒猫が舌を出す。
「ヤな感じ。あの猫見た? ベー」
空には、また静けさが戻る。
二人はそれぞれ、違う街へと降りていった。
雲は、何事もなかったように流れていた。
空は広く、青く、変わらない。
――その空の、少し下。
ふらり、と揺れる影があった。
「……っ」
小さな声とともに、影は傾く。
上に行こうとして下がり、まっすぐ進もうとして、ぐるりと回る。
「ルル、左、左!」
肩のあたりから、小さな声が飛ぶ。
「わ、わかってる……!」
動きは、決して上手とは言えない。
修行一年目。
今日の課題は、街を見つけて、ちゃんと降りること。
遠くに、屋根の集まりが見えた。
「あ、あれ……?」
「たぶん、あれだよ。たぶんね」
少し不安そうに言うのは、灰色の猫――ポポだった。
丸くて、少しぽちゃっとしている。
「“たぶん”じゃ困る……」
「じゃあ、“きっと”にしとく?」
「……それでいい」
高度はゆっくり下がり、空気が変わる。
石畳の色が見え、人の気配が近づく。
「……とうっ」
最後の力で体を支え、ナナはぺたん、と地面に降りた。
一拍遅れて、息を吐く。
「……大丈夫、転ばなかった」
「今日は大成功だね」
ポポが、えらそうに胸を張る。
ナナは周囲を見回した。
知らない街。名前も、まだわからない。
「ここで……いいのかな」
「静かだし、悪くないよ。人に見られすぎないし」
「……それは、いいね」
街の中を歩き出すと、古い建物が並んでいるのがわかる。
時間が、少しゆっくり流れている場所。
その中で、ひとつだけ目に留まる店があった。
木の看板。少し傾いた文字。
時計修理屋ウィッチウォッチ。
「ウィッチウォッチ……」
ナナは、小さく声に出して読んだ。
「魔女の時計屋、って感じ?」
「いかにも、だね」
扉の奥から、かすかに歯車の音がする。
不思議と、その音が気になった。
ナナは扉に手をかける。
からん、と鈴が鳴った。
「いらっしゃい」
店の奥から、しわがれた声が返ってくる。
作業台の向こうに、小さなおばあさんがいた。
白い髪をまとめ、丸い眼鏡をかけている。
「修理かい?」
「あ……いえ……」
ナナは少し迷ってから、聞いた。
「……ここには、魔女がいらっしゃいますか?」
おばあさん――コクリは、一瞬だけ手を止めた。
そして、ナナの顔をじっと見る。
「そうさねぇ……」
ふっと、やさしく笑った。
「今はいないけど、昔は、いたよ。
2階に空き部屋があるから良かったら使うかい?」
ナナは小さく頷いた。
⸻
翌朝、台所で朝食を囲む。
「ルル、昨日は寝不足じゃない?」
コクリは手作りのパンを差し出す。
「ええ、大丈夫です」
ナナは小さく頷いた。
「そうかい。あの部屋は昔、魔女が住んでいたらしくてね。
私のおばあちゃんがずっとそのままにしてて、片づけるなってうるさかったのよ。
もしかしたら、いつかあなたがくることをわかっていたのかもね、、、
そしてわたしも、いつしか、いつの日か、魔女が来てくれるんじゃないかって期待するようになってた、、、
だけどね、もう忘れかけちゃってたよ、こんな歳になっちまった」
そのとき、扉の鐘の音が鳴り、男の子が入ってきた。
コクリは笑顔で声をかける。
「おはよう。この子はね、今日からここに住むことになったナナだよ。よろしくね」
男の子は元気よく自己紹介する。
「こんにちは! 僕はピニオン。ここの修理を手伝ってるんだ」
ナナはわずかに驚きながらも黙って頷く。
ポポは肩で丸くなり、安心したようにナナに寄り添った。
外には朝日が差し込み、街を金色に染める。
外に出てみる。光に照らされて、、、
今日から始まる修行の日々が、
静かに、けれど確かに動き始める――。




