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ねぼすけ龍のダンジョン配信  作者: 干干照り


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御伽話の日常

龍とは御伽噺の存在ではなかったのか。


なぜ人の子に養われているのか。


それらのおかしさも、空腹の前では大したことでは無い。何事もまずは腹ごしらえ。そこは人も龍も変わらない。


自分の温もりが残る布団を名残惜しく思いながら、よっと立ち上がる。


元々足なんて無かったから立つ方が不自然だと思うけれど、一度立ち上がらずに廊下を移動していたら怒られてからは反省し、なるべく立って歩くようにしている。


まあ確かに、自分の家に這いつくばって移動する何かが居れば、不審者だと思われても仕方がない。


そのまま二本の足で、香りにつられるがまま居間へ向かえば、艶めいた白ご飯、食欲のそそる香りの味噌汁、形の綺麗な卵焼きが並んでいる。輝く黄色の中に、淡い赤色が散っているのが見た目にも良いアクセント。さらに味にも風味が出て、プレーンな卵焼きとは違う良さがあるのは、何度も食べたから知っている。


「今日の卵焼きは紅しょうが入り?ボクこれ大好き!」

「アジサイさん、寝坊です」


家主でありこの美味しそうな朝食を拵えた男が、不機嫌そうにボクを睨みつけてきた。この顔つきで損をしたことが何度があることは間違いないといえる、相変わらずの目つきの悪さ。この目つきの悪さから繰り出される不審者度合いは、這って移動していたボクと大差がないと常々思っている。


「いやーごめんごめん、いただきます!うん、やっぱ紅しょうが入りの卵焼きは最高だね、ご飯のおかずって感じ!」

「ソウデスカ」


この男は日坂(クサカ)智実(トモミ)という。


書類上はボクの後見人だとか何からしいが、彼の住んでる一軒家の家主で、一室をボクの部屋として提供してくれ、さらに毎食食事を作ってくれる存在だ。

成り行きでボクの世話を請け負うことになった割にはしっかりと面倒を見てくれる。


ボクの言葉を聞いて、響いてねえなと頭を抱え始めるトモミ。

「あっ、おはよう!」

「……おはようございます」


彼がさらに頭を抱えたのは、見なかったことにする。

基本は一匹だったから、誰かと毎日暮らすのは新鮮だ。挨拶を、会話を交わす相手がいるのは思ったよりも嬉しい。これまで家族を欲しがる同種の気持ちが分からなかったけれど、なるほど常に一緒にいる相手が欲しかったのかも。


トモミはしっかりしたやつだ。寝巻きでここまで来た僕とは違い、シワの無いワイシャツを身にまとっている。当たり前にネクタイも綺麗に結ばれているし、天然パーマの髪もばっちりセット済み。それでいてこんな完璧な朝餉を作るのだから、トモミはどうなっているのだろう。できないことなんてない気がする。


とりあえずトモミの真似でもしてみるか、と彼が見ているニュース番組をボクも食い入るように見ることにした。

もう少し後の時間だと流行特集なんかもやっているし、ボクはそういう華やかな雰囲気の方が好みなのだけど。家主は今の時間の深刻な、というか落ち着いた雰囲気のニュースの方が好きらしい。


「二日前の深夜に発生したダンジョン。昨日第一次調査隊が帰還し、中型から大型ダンジョンの可能性が高いとの発表がありました。本日にも第二次調査隊を派遣し……」

涙ホクロが目立つ男性アナウンサーが、真剣な顔で原稿をを読み上げる。


「今日もダンジョンの話だねえ」

「東京の、しかも二十三区内に新しいダンジョンができたとなればあと一週間はどこのテレビ局もネットニュースも、毎日この話題でしょうね」


よっぽど変なダンジョンでければ、いつか話題にもならなくなりますよ、とトモミはご飯を口に運びながら話す。


ダンジョン。


昔は存在しなかった、亜空間の通称である。


今から数年前、平成の終わり頃。それは各地に突然現れた。山奥、畑の中、通学路、駅、コンビニ。空間がねじ曲がり、そこに居合わせた人やものが吸い込まれる事件が勃発した。


国が周辺を立ち入り封鎖のうえ調査した結果、ねじ曲がった先に空間がある可能性が浮上。自衛隊が突入した結果、空想上の化け物が闊歩する空間だと判明する。


そのまま封鎖されるはずだったが、何度目かの調査で化け物を倒した結果、未知の鉱石と、いつの間にか空間の奥に何者かによって生成された液体入のビンが出現。鉱石は未知のエネルギー、液体は外傷に即効性のある治療薬であることが分かる。


そこから、ダンジョンに入ることで超常的な力を得た者などが登場。

この現象が日本のみだったことから、ダンジョンは日本固有の資源採掘場になると、国がダンジョン整備に乗り出した。


ダンジョン管理規定の制定。

一般人の立ち入り解禁。

民間企業のダンジョン運営の参入。

今では義務教育の間に、学校主導でダンジョンで超常的な力が発現するか確かめる授業もあるとか。


とにかく得体の知れない亜空間は、希望に満ちたフロンティアであると位置づけられた。

未知のアイテムに浪漫を求めるもの。金の匂いを感じるもの。そうした夢と大人の利権が渦巻くのがダンジョンだ、とトモミが前に説明していたのを思い出す。


「うちにもダンジョンあるのにねえ」

「いまニュースでやってるダンジョンよりも遥かに小さいミニダンジョンですけどね」


だから俺しか監視員いないんですよ、とトモミは言った。


「そのミニダンジョンにそろそろ行きますが」

「待ってよトモミ!」

「寝坊したのは貴女でしょう」


自分の準備が終わるまでに食べて歯を磨くように、と幼子に言い聞かせるかのように言われてはどうしようもない。言い方はすこし癪だが、ボクが出遅れたのも本当だ。


トモミの準備なんて、ほとんどないも同然なのだ。多分トモミの分の食器だけ洗って、歯を磨けば完了だろう。

それまでに食べ終わって、歯を磨いて、着替えて、荷物を持って……食器はとりあえずつけておいて帰ったら洗おう。許されれば。


「……ダンジョン発生の影響で、通行止めや列車の遅れが発生することもあります。ダンジョン情報、交通情報は常に確認するようにしてください。では次の……」


テレビの中のアナウンサーが、ダンジョンの話題を締めるところを見守っている暇はない。早食いは良くない、とは思いながらも慌ててご飯をかき込んだ。

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