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逃避行  作者: あの山田
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第1話

 私の足を引っ張るのは常に過去の私自身らしい。

 大学を中退して配信者になって暫く経つが、存外楽しい。勿論、将来の不安を含めたその他種々の問題が睡眠を妨げてくることも少なくない。

「〇〇さん3000円ギフトありがとうございます!」

一見3000円もらったようだが、そんなことはない。大体配信プラットフォーム側に3割ほど持っていかれる。そしてこのようにギフトを贈る、一般には投げ銭と呼ばれる行為、確かにありがたいにはありがたいが我々配信者のメイン顧客は彼らではない。ただ、静かに数時間見続けてくれる人間である。「笑」や「草」が現代の娯楽における喝采になって久しいが、彼らはそれすらしない。多くの仕事が出来れば顧客を大金持ちにしたいのに対し、我々は大時間持ちを相手に活動をしたいのだ。

 配信者は基本的には個人事業主であり、健康診断も強制されるものではない。不摂生から長期休暇に入る同業者は少なくない。だから私は毎日ランニングをしている。

「フゥ...少し休憩するかな」

日陰を求めてたのもあり駅構内のコンビニに立ち寄って屋根の下、息を整えながら水を飲む。すると電車が止まり続々と人が下りてくる。スーツと制服が殆どである。学生は将来の顧客にはなるが

「彼らが顧客になるまで活動続けられるかな...」

学生は基本的に忙しい上に金がない。しかし、スーツを着ている彼らは違う。我々のメイン顧客は大時間持ちではあるが、だからと言って普通の社会人をないがしろにはできない。当然、思ってもいない労いの言葉を滔々と並べ立て彼らの自尊心と自己肯定感を守ってやる。これがストレスを抱えて生きている人間にはよく効く。そんなことを考えていると電車から見慣れた顔が出てきた。  

「久しぶりだな、佐藤」

大学時代の友人だ。彼がどう思ってるか知らないが

「久しぶり、どうした汗だくで」

「少しランニングを、健康診断の数字が悪くてね」

佐藤はそっか、頑張れよ。と興味なさげに言い残して小走りで去っていった。

「あれ、確かあいつ今3年生だろ?」

留年していなければ確かに彼は3年生、そしてスーツを着ていた。就活で忙しくしているのだろうと勝手に納得することにした。

「就活が落ち着いたら飯にでも誘ってみるか...」    

現状、私の配信サイトでのフォロワーは5万人、動画投稿サイトの登録者は3万人。配信メインだからこの比率に文句はない。大時間持ちが欲しいといったのはこの為でもある。彼らは配信をみて、動画をみて、また配信を見て...と本当に多くの時間を使ってくれるから彼ら無くして今の生活は成り立たないだろう。今の生活も贅沢はできないが機材が壊れたらすぐに買いなおせるし、配信企画に金が必要なら数十万ぐらいなら何とか出せるぐらいには貯蓄出来ている。20やそこらでここまで稼いでる人間はそう多くないだろう。しかし、この業界は役職の概念も無ければ昇給、減給どころか固定給の概念がない。いつまで、どれだけ稼げるか分かったものじゃない。些細なことで炎上して仕事が出来なくなる可能性だってゼロではない。当然、炎上で伸びる奴もいる。だがそれを見て希望を持つのは宝くじの当選を人生設計に組み込むようなものだ。

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