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第9話 ふーんふーんふーーーーーん♪

 タローが作り上げた三人用の部屋は、まるで森の中の隠れ家のようだった。壁や床、家具に至るまで、美しく磨かれた木材がふんだんに使われており、木の香りがほんのりと空気に漂っている。天井から吊るされたランタン風の照明が部屋全体を優しく包み込み、柔らかな光が陰影を作って心を落ち着かせた。


 部屋の中央には、ふかふかのベッドが三つ、等間隔に並んでいる。シーツは真っ白で清潔感があり、毛布はふんわりとしていて抱きしめたくなるほど。窓の外には夜の風に揺れる草花の影が静かに映っていた。


 ミラ、リネット、エリアの三人は、それぞれのベッドに腰を下ろし、やっと落ち着いたように息を吐いた。


「いやー、今日は本当にすごかったね……」

 ミラが天井を見上げながら口を開く。

「洞窟で死にかけるし、タローさんに助けられるし、まさかこんな家が目の前で出てくるなんて……もう、何が現実なのか分からなくなりそう。」


「ふふっ、本当に。」

 エリアが微笑みながら、髪をとかしていた手を止める。

「でも、変な緊張感はなかったですね。タローさんって、すごいことをしてるのに、不思議と落ち着くんです。」


 リネットは真面目な表情で頷いた。

「そうね。普通、あれだけ強大な力を見せたら距離を置きたくなるものだけど、タローさんにはそういう威圧感がまったくない。まるで、それが“特別”じゃないかのように振る舞ってる。」


「……たしかに。あれだけすごい人なのに、威張ったりしないしね。」

 ミラは膝を抱えながらしみじみと言った。

「破壊神の話だって、普通なら『そんなの信じられない!』ってなるのに、タローさんが話すと信じたくなっちゃう。不思議だよね。」


「信じたくなる……分かります。」

 エリアがベッドに寝転びながら、小さく頷いた。「びっくりすることばっかりなのに、安心できる。『大丈夫、この人といれば何とかなる』って、根拠はないのに思えてしまうんです。」


 リネットは壁に背中を預け、ほんの少しだけ柔らかい笑みを見せた。

「……私たち、あの人から学ぶことが多いかもしれないわね。強さって、ただ力があるだけじゃなくて、それをどう使うかとか、どう向き合うかってことなんだって、タローさんを見てると気づかされる。」


「うん、しかも楽しそうにしてる。」

 ミラが毛布を引き寄せながら言う。

「どんなときも自分のペースで、まるで旅そのものを味わってるみたい。私たちも、もう少し余裕を持てたらいいな……って思った。」


「でも、ちょっと振り回される覚悟は必要かもですね。」

 エリアがクスクスと笑いながら目を閉じた。

「今日だけで、何回驚いたか分かりませんし。」


「それも含めて、楽しんでいくしかないわね。」

 リネットも静かに目を閉じ、毛布にくるまる。

「こんなワクワクする旅、久しぶりだし。」


 部屋の中には、穏やかな沈黙が流れた。旅の疲れが癒されていく中、それぞれが静かに今日という一日を思い返していた。


 窓の外からは風に揺れる草の音がかすかに聞こえ、時折、どこか遠くからタローの鼻歌のような口笛が響いてくる。それはまるで、星空と会話をしているかのような、不思議に穏やかで優しい旋律だった。


 やがて、三人は静かに眠りに落ちた。

 タローという奇妙な旅人と出会ったことで開かれた、新しい旅の幕が、確かに彼女たちの中で始まりを告げていた。

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