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第6話 まあ、色々あったんですよねー。

 食堂を出た四人は、ほっとしたような笑みを浮かべながら、石畳の通りを歩いていた。日も西に傾き始め、町の建物の影が少しずつ長く伸びていく。腹ごしらえを終えたあとの満足感に包まれながらも、三人の新米冒険者たちは、どうにも心の奥がそわそわとしていた。


 それは、先ほどのタローの“破壊神”に関する話のせいだった。


「ねえ、さっきの破壊神の話、もっと詳しく聞かせてくれない?」

 ミラが歩調を速め、興味津々な様子でタローの隣に並んだ。「なんか、あれだけですごく気になるっていうか……その、どうしてそんな世界のことまで知ってるの?」


 タローはその問いに、特に驚く様子もなく肩を軽くすくめると、いつものように飄々とした口調で語り始めた。


「あー、まずはその世界が滅びた原因からお話ししましょうかねー。あの世界の破壊神さんにとって、創造神さんっていうのは、同胞でもあり、親友でもあり、そしてずっと超えたい存在でもあったんですよー。」


 その導入に、三人は自然と足を緩め、耳を傾ける。


「で、破壊神さんは“力”を求めて、少しずつ自分の役割を逸脱していっちゃったんです。創造神さんがそれを止めようとしたときには、もう手遅れで……お二方はぶつかり合うことになってしまったんですねー。結果として、戦いの余波で世界のほとんどの生物が消えちゃって、創造神さんも命を落とすことになったそうです。」


「……親友を……自分の手で?」

 エリアが小さく声を震わせる。その表情には、想像を超えた悲劇に対する戸惑いと、どこか胸の痛みがあった。


「ええ。それから破壊神さんは自分の行いに気づいて……滅びた世界を、ひとりで、何百年も歩き続けていたらしいんですよー。地平線の先に何もない荒野の中でね。虚ろな目で、ただひたすら歩いて。」


 リネットが静かに腕を組み、タローを見つめながら尋ねる。

「それって……後悔してたのよね。その破壊神。だから、タローさんが介入したの?」


「まあ、見ててちょっと気の毒だったんですよー。なので、少し声をかけてみたんです。罪滅ぼしができたらどうしますかー?ってねー。」


「……それで、世界が回復したの?」とエリアが問いかける。


 タローは軽く頭を掻き、少し照れたような笑みを浮かべる。

「んー、世界の再生は彼自身の手によるものではありませんけどねー。まずは土を耕すところから、でしたねー。とりあえず『花を育てませんかー?』って提案して、水のやり方を教えたり、日当たりを気にしたり、そういう基本のところから始めたんですよー。意外と熱心にやってくれて、最初は花壇にしかなかった緑が、今では数年かけて小さな森になってきてるんです。」


 リネットが苦笑交じりに肩をすくめた。


「破壊神が花壇を作るなんて……想像できないわ。」


「でも、すごいことだよね。」ミラが真顔で言った。「破壊ばかりだった存在が、木を植えて水をやって、命を増やす側に回ったなんて……」


「うん……それって、すごく素敵なことだと思う。」エリアが優しく微笑む。「たとえ世界を壊した過去があっても、少しずつやり直せるんですね。」


 タローは三人の反応を受けて、どこか満足そうに頷いた。


「そうですねー。時間はかかるでしょうけど、いずれあの世界にも新しい生命が芽吹いて、誰かの居場所になる日が来るんじゃないかと思いますよー。破壊神さんも、もう“破壊だけの存在”ではなくなってきてますしね。」


 三人はしばらく沈黙しながら、それぞれの思いに耽っていた。タローの話は突拍子もないようで、なぜか不思議な説得力があり、心の奥に静かに届くものがあった。


「……やっぱり、タローさんってただの旅人じゃないわよね。」

 リネットが肩をすくめながら呆れたように言う。


「うん、でも……」とミラが続ける。「なんか、タローさんが関わった世界って、みんなちゃんと“前に進んでる”気がする。不思議だけど、そう思える。」


 エリアが頷き、タローに向けて微笑んだ。


「タローさんと一緒にいたら、きっと、普通じゃない出会いや出来事がたくさん起きるんでしょうね。」


「そうですねー。」

 タローはいつものようにのんびりと笑い、町の先を指差した。

「この町にも何か面白いことがあるかもしれませんよー。次はどこへ行きましょうかねー?」


 夕日が町の屋根を金色に染める中、四人の影が石畳の上に長く伸びていく。新たな冒険の予感を胸に、彼らはゆっくりと歩みを進めていった。

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