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僕たち昭和生まれの放送作家

作者: 平末さくら

 最近のテレビドラマはつまらない。なんとかしろ、と先輩に言われていくつかの企画書を作った。


「やはり数字を稼ぐにはキムタクです」


「しかし、パイロット、検事、F1レーサー、美容師、信長。キムタクは既にいろいろやり尽してるぞ」


「今回は主人公のニートを演じてもらいます。タイトルは『ロングバケーション』」


「長すぎる夏休みか。そんなお気楽なものじゃないんだ、当事者は。社会派路線で他にないか?」


「貧困女子がひと冬の恋に落ちる物語はどうでしょう。『私をすき焼きに連れてって』」


「今は当時とは真逆の時代だもんな」


「堅実女子が彼氏の財布のひもを締める『並の寿司だけ食べさせて』も時代を映してます」


「その流れでいくと、もうひとつあるのか?」


「はい。男もデート代を捻出するのが厳しい時代ですから、なるべくなら出掛けたくないんです。そこで『彼女が部屋着に着替えたら』」


「やはりバブル期とは違って社会を反映させるドラマは地味になってしまうな。定番の学園モノはどうだ?」


「弱小運動部が熱血教師と共に全国制覇を目指す物語はどうでしょう。舞台は競歩部で、『スクールウォーク』」


「バイクで廊下を走り回るシーンなんて、この時代に撮れないだろ」


「丸刈りの野球部員たちが甲子園を目指す『スクール坊主』も無理ですか?」


「今はエンジョイベースボールの時代だからな」


「では、型破りな教師が生徒に寄り添う『3年B組金髪先生』ならトレンドに合うんじゃないでしょうか?」


「ベタすぎるだろ。誰でも思いつくありふれたタイトルだ」


「待って下さい。決め台詞があるんですよ。『同情するならカネ贈れ』。贈るのは言葉じゃなくてカネなんです」


「教師は意外と高給取りだから現実味もあるな」


「カネの話なら、こういうのもあります。九州出身の東大生が株取引で成りあがっていく『東京カブストーリー』。最後はプロ野球への参入を目指します」


「やるとしても、赤坂か六本木か汐留に持ち込むしかないな」


「お台場なら、人気シンガーソングライターに天才物理学者をやってもらいましょう。タイトルは『ケプラー』です」


「既視感しかないぞ」


「実は、視聴者は目新しいものよりも、どこかで見たようなマンネリ作品を好んでいます。そこで、『ひとり屋根の下』。クリーニング店で働くひとり暮らしの青年がマラソン選手として活躍します」


「ドーピング検査のシーンが物議を醸すんじゃないか?」


「大丈夫ですよ。本家と違って妹と弟はいませんから」


「しかし、『ケプラー』と『ひとり屋根の下』を続けて放送すると、シンガーソングライターが連続出演になって視聴者が混乱するぞ」


「それなら、間に『101回目のマヨネーズ』を挟みましょう」


「なんだ、それ?」


「何にでもマヨネーズをかける男の物語です」


「体に悪そうだな。早死にするぞ」


「大丈夫です、あの有名な台詞があります」




 僕たちの企画会議はまだまだ続いた。


「安定のホームドラマでいきましょう。元プロレスラー夫婦がラーメン屋を営む『渡る世間は鬼嫁ばかり』」


「今はプロレス中継も減ったよな」


「では、サッカー元日本代表選手のセカンドキャリアを追いかける『那ー須のお仕事』なら見てくれるのでは?」


「ディフェンダーは地味すぎる」


「だったら、派手な俺様系ミッドフィルダーが潰れかけのレストランを立て直す『俺様のレストラン』にしましょう」


「候補者が2人いるよな。ダブルキャストだと喧嘩するかもしれないな」


「ダブル主演なら『若花田のころ』なんていう青春モノも作れますね」


「あれは隠れた名作だな。ところで……」


 先輩が急に真面目な表情になった。


「お前の企画、オマージュばかりじゃないか。そこんところの処理は大丈夫なのか?」


「そうなったら作品にしてしまいましょう。権利関係でいちゃもんをつけるクレーマーを描く『人間☆失格』です」


 僕と先輩は腹を抱えて爆笑した。そのとき、インターンの大学生が手を挙げた。


「すみません。先ほどから全くついていけないのですが……」


 僕と先輩は昭和生まれのおっさんだ。平成の時代に生を受けた者たちの文化とは大きくずれている。だから、いつまで経っても売れないテレビマンなのだ。


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