死の女神と太陽神の息子
死というのは突然来たるもの、そう死者たちはよく言う。その言葉を聞く度、私は思い出すのだ。文字通り、突然やってきた死の女神のことを。
大昔、未だ太陽が沈むことを知らず、一日という概念すらなかった、私が生きていた頃の話だ。
私はその頃地上に妹と共に住み、人間たちの手伝いをして暮らしていた。
死の女神が現れるまでは。
「お初にお目にかかります。太陽神スーリヤの息子、ヤマ様。
私は死。…梵神の被造物にして死の女神、ニールティーです。」
家路につく私にそう話しかけてきたのは、陰気な若い娘だった。艶のない深い黒髪で顔が隠れているので表情が読みづらい。それが私の目には不気味に写った。
いや、彼女の全てが、私にとって、不気味で、不吉だった。
「聞いたことがないな。」
そういった私に、女神は話しだした。
「創られたばかりなのです。我が創造主は地上に人が大変増えたことを疎まれ、私を創り出しました。
そして私に人の生涯に終わりをもたらすよう命じられました。私がそれを拒むと、創造主は人が自らの行動の因果によって死ぬようにしてくださいました。
そうして、私の役目はその結果をもたらし、死者をあるべきところに導くこと、となったのです。」
嫌な予感がした。「死」というのは、その時初めて知った概念だった。しかし、どうしてかそれを、とてもおそろしく感じた。
「なるほど。それで僕に何の用があってきたんだ?」
「もちろん、貴方に死んでもらうためです。貴方は世界最初の死者に選ばれました。」
「何の行動の因果かは、もうご自身でお分かりでしょう?」
そのとおりだった。私が当時、非法と罵られるべき大罪を犯していたことは、私自身が誰よりもよく分かっていた。死の因果となるならおそらくあの罪であろうことも予想ができた。
しかし、それを認められない自分もいた。
「さあ、おいでくださいませ。死への道にご案内いたしましょう。」
そう差し伸べられた手を、私は取らなかった。
「少しだけ、待ってくれないか。」
「なぜ?」
「家族に…妹にさよならを言いたい。」
ニルーティーは前髪の奥の目を驚いたように見開いた。
「…いいでしょう。ほんの少しの間でしたらお待ちいたします。」
「感謝する。」
そう言うないなや、私は弾かれたように家の方へ向かって駆け出した。