第七話:寸劇
今回は遊び心を入れました
楽しんで頂けたら幸いです
「よく来たなシエルよ。わしが誰か分かるか? 一発で当てたなら褒美も与えてもよい。どうじゃ?」
ラティの手を取り不思議な空間を通り抜けると、豪華な椅子に座っているおじいさんがいた。
ラティのように角が生えているので彼が悪魔だと分かる。
立派な服装よりも芸能人なんて目じゃない圧倒的なオーラで言われなくとも誰か分かる。
魔王だ。
別にいいんだけどさ、一般的な展開としては段階踏んで謁見するんじゃないの?
いきなり本人が目の前にいるなんてドッキリなの? 異世界流のドッキリなの?
常識が違うからか頭が混乱してしまう。
「魔王様、シエルを連れてきました」
「うむ、ご苦労。しかしラティフォリアよ、何故わしの正体をばらすのじゃ。シエルがどう答えるか楽しみにしておったのに」
ラティに正体ばらされて不服そうな魔王様。
いやいやいや、分かりますよ。
どの角度で見ても、あんた魔王様だよ。
「申し訳ありません。どうでもいい話だったので、省略させて頂きました」
ラティの返答に魔王様も俺も、ええーっ! という感じで引いた。
「そ、そうか……」
なんとか言葉を吐いた魔王様は意気消沈している。
なんだろう。初対面なのに優しくしてあげたくなった。
もっと怖そうなイメージを持っていたが温厚そうな雰囲気で安心する。
とはいえ、とりあえず挨拶しとくか。
「魔王様、初めましてシエルです。この度はお招き頂き、恐悦至極にございます」
「うむうむ。モモノーラ様の加護持ちは久しぶりで楽しみにしてたぞ」
モモノーラ?
加護?
どういうこと?
「すいません、仰ってる意味がよく分かりません。ご教授して頂けませんか?」
「うむ、全て説明するつもりじゃったからいいが、シエルよ、その堅苦しい口調ではなく自由に喋ってよいぞ。わしは魔王じゃ、態度や口調など気にせん。狭量ではないからの」
これが上位者の懐の深さか。
それなら遠慮することない。
「分かった。じゃあ、まーちゃん。改めて説明してくれ」
「まーちゃん? もしや、わしのことか?」
「ああ、魔王なんて長いから省略した。いいだろ?」
「なるほど、なるほど。なかなかの肝っ玉の太さじゃ。気に入ったわい」
まーちゃん呼びはやり過ぎかと思ったが、流石に器が大きい。
魔王は伊達じゃないということか。
「この世界は神によって創生されたのじゃが、神に代わって世界を監視してるのが、女神であるモモノーラ様じゃ。基本的にモモノーラ様が介入することはないが、稀に異世界から人を連れてくる。シエルもそうじゃ」
マジか。
日本で亡くなってから、間髪入れずに第二の人生始まったから気にしてなかったけど、女神様が一枚噛んでいたのか。それならそうと教えて欲しかった。
しかも加護持ちとはね。
期待のルーキーはあながち間違ってなかったのね。ギルドの連中に聞かせてやりたい。
得意気になっていると、魔王が難しい表情で続きを語り始めた。
「本来であれば世界の発展やら、変化をもたらすのじゃか、なんというか、シエルは稀有な存在なのじゃ。歴史に名を残すこともなく、貢献するわけでもなく、平凡な生涯で終える」
何コレ?
魔王にディスられてんの?
「まーちゃん、なんか馬鹿にされている気がするんだけど、俺の気のせいかな? ラティとの子供できても会いに行かないし、抱っこさせないからね」
「お前こそ魔王様になんて事を言うのだ! け、結婚は不可だと言ったではないか!」
取り乱したラティが俺の発言を否定してくる。それよりも魔王の様子がおかしい。気のせいで無ければウィンクしてきた。
「……コホン、ラティフォリアは罰をうけている状態じゃ、結婚など許さん! 幽閉している森は竜たちが守っておる。貴重な鉱石もある。愚かな人間どもが近々来るみたいじゃが問題ないわい」
魔王から絶妙なパスを受けた気がした。
「……まーちゃん、竜と人とが争わずに済む道は無いのか? 本当にもう罰を止められないのか?」
「人間どもが集まっている。竜たちの火がじきにここに届くだろう」
「ラティをどうする気だ? あの子も道連れにするつもりか?」
「いかにも人間らしい手前勝手な考えだな。ラティフォリアは我の娘同然だ。わしと生き、わしが死ぬ時は共に滅びる」
「あの子を解き放て! あの子は悪魔だぞ!」
「黙れ小僧! シエルにあの娘の不幸が癒せるのか? 森を侵した人間が、我が力を逃れるために投げてよこした赤子がラティフォリアだ! 悪魔にもなれず、竜にもなりきれぬ、哀れで醜い、かわいい我が娘だ! お前にラティフォリアを救えるか!?」
「分からぬ……。だが共に生きることはできる!」
「フハハハ! どうやって生きるのだ? ラティフォリアと共に人間と戦うと言うのか?」
「違う! それでは憎しみを増やすだけだ!」
「シエル、もうお前にできる事は何もない。お前はじきに竜に食い殺される身だ。夜明けと共にここを立ち去れ……」
ボカ、ボカ、バキ!
魔王と俺は怒ったラティにいきなり殴られた。
寸劇しているのがバレていたとは。
まさか魔王があの有名なも○のけ姫を知っておったとは。流石は魔王、侮れん。
無言で睨み付けるラティの前に、阿吽の呼吸で二人して土下座した。
お師匠様
ギルドマスターの仕事は順調ですか?
お身体が健康なら幸いです。
さて、私事ですが貴重な経験をしました。
なんと魔王と一緒に土下座しました。
調子に乗りすぎるのも限度がありますね。
シエルより
読んで頂きありがとございます
また宜しくお願いします