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第五話:選択の時

本日二話目の投稿です

 ウィーガン子爵の私兵に連行されて護送車に乗り込んだ時に知っている声が聴こえてきた。


「シエちゃん!」

「シエ!」


 鉄柵の窓から外を覗くと、両親が必死に叫んでいる。母さんに至っては号泣している。


 父さん、母さん。ごめんなさい。

 悲しませて、ごめんなさい。

 親不孝な息子で、ごめんなさい。


「シエは悪くないじゃん。何で連行されるの? こんなの納得いかないわよ!」

「シエ悪くない。僕、シエを助ける」

「待て待て待て! 俺だって出来ることなら助けたい。けど相手は貴族だ。お前らまで罪に問われるぞ! そんなことまでしてシエルの奴が喜ぶのか?」


 俺のために怒ってくれているミオ、リオ姉妹をギルマスが身体をはって飛び出さないように押さえている。アンガスさんも叫んでいるみたいだけど、ミリアさんが応対している。



 みんな、ごめんよ。

 俺が馬鹿だから迷惑かけてごめん。

 みんなの弟分はどうしようもない無能だったよ……。


 ああ……、後悔ばかり浮かんでくるよ。

 もうあいつらと馬鹿話したりして騒いだり出来ないのか。


 助けようとするんじゃなかった。

 調子に乗って南門の外になんか出るんじゃなかった。

 未熟なくせに一人で行動するんじゃなかった。


 一般人が貴族に関わったら従うしかない。理不尽な規律で間違っていると思う。

 でも、普通の人は貴族に関わることなんて無いから気にもしてなかった。


 力が欲しい……。

 理不尽を抗える力が欲しい。

 だから、神様助けてよ。


 俺の心とは裏腹に護送車は無慈悲に動き出した。


 心臓の辺りが締め付けらるように苦しくて、みんなの方を見れない。経験したことない心の痛みに嘔吐き(えずき)そうになり、ただ涙が零れた。


「マジでうぜぇ! 見苦しいんだよ犯罪者が! 自業自得だろうがっ!!」


 対面に座ってる男が俺の足を蹴りをいれる。こいつはさっきも俺の背中を蹴ってきた奴だ。そこまで痛くはないが、何度も蹴ってくるので心に蓋していた怒りが飛び出してきそうになる。


「その辺で辞めておけ」


 俺の隣に座っている他のやつらより豪華な制服を着た男が、くそ野郎の暴挙を止めてくれた。


「なんだよ隊長。こいつはケインズ様の仇なんだ。多少痛めつけてもいいじゃねえか」


「お前がケインズ様と仲がいいのは知っている。一緒になって罪の無い一般人に非道な行いをしてる事もな。俺たちの任務は、この男をウィーガン様の元まで送り届けることだ。無駄に痛めつけることじゃない」


「けっ! ウィーガン様だってこの野郎が傷ついていた方が嬉しいだろが」


「それを決めるのはウィーガン様であってお前ではない。勘違いするな!」


 ギルマスとの訓練で経験した強者の威圧を隣から感じる。思わず唾を飲み込んだ。


 糞野郎もそれを感じてか、焦っているのが分かる。


 ふん、いい気味だぜ。


「隊長、分かったから威圧を止めてくれ。俺が間違っていたからさ」


「分かったならいい。だが、これ以上手間をとらせるなら粛清する」


「も、もう勝手な事はしねぇよ。誓うよ隊長」


 糞野郎の謝罪に納得したのか隊長の威圧が消えた。


 車内では誰も言葉を発しないまま護送車は進んでいく。このままウィーガン子爵邸まで行くのかと思いきやそうではないらしい。


 日が落ち、夜に差し掛かろうかというタイミングで護送車が停止する。


「全員降りろ。今日はここで野営をする」


 隊長の命令をもとに部下の男たちが動き出す。

 まず、御者の男が二頭の馬を休ませるために、護送車を引っ張っていた綱を外している。

 それに並行するようにくそ野郎が護送車の扉を開け外に出ていく。辺りをキョロキョロと視線を向けていると思ったら、落ちている枯れ木を拾い集めていた。


 俺と隊長は護送車の隣に並んで立っている。

 逃走する気力なんか無いのに隊長は俺に気を配りつつ、部下にも指示を出していた。


 それにしてもこいつらは、かなり野営に慣れているな。

 感心するほど無駄のない動きであっという間に焚火が出来上がり、鍋でスープのようなものを作っている。


 焚火を囲うようにみんなが座り、スープとパンが配られる。

 犯罪者の俺には貰えないもんだと思っていたが杞憂だったようだ。


 スープを一口飲みこむと身体に染み渡る。

 そういえば朝から何も食ってなかったわ。


 兵士達は俺には分からない日常の会話してたけど、俺は黙々と食べた。

 全て平らげた時にホッとしたのか急に怖くなってきた。


 そうだ。このまま連れて行かれても地獄のような目に合うだけだ。

 武器も取り上げられて持ってないし、戦っても勝てない。

 たとえ持ってたとしても隊長には実力的に勝つのは無理だと思う。


 希望がないならこのまま逃げた方がいいのかな。

 逃げる時に攻撃されて死んでも今後の未来を考えるとマシな気がする。


 どうするか考えて兵士の様子を探っている時になぜか落ち着かなくなる。


 ――っ!、何か来る!!

 強烈に嫌な予感がした。

 ちょっとでも抵抗できるように立ち上がり気配を探りながら身構える。


 俺の直感が間違いない事を証明するかのように突然出現した砂嵐に巻き込まれた。


 うぉぉぉ!

 何なんだよこれは。


 目を開けられず強風に抵抗するように踏ん張っていると、何事も無かったかのように急に霧散する。


 砂嵐はやんだのか?


 目を開けると見知らぬ森にいることよりも、いかにも悪魔特有の頭に二本の角と背中に蝙蝠のような羽を生やした女が目の前に立っている事に驚いた。


「さて、私と一緒に来るかい? それともさっきの奴らの元に帰るか決めなさい? さあ選択の時よ、シエル」


 ルビーのような赤い瞳と色白い肌に黒を基調としたゴスロリのような服を着た巨乳美人が、俺を挑発するような目付きで問いかけてきた。


 父さん、母さん。

 俺にも遂に春がきたとです。


読んで頂きありがとございます。

次話も早めに投稿したいと思います。

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