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第四話:旅立ち―後編

「知ってると思うけど、ギルドカードは身分証だけじゃなくてお財布にもなるから落とさないようにしてね。無くしたら有料で再発行出来るけど、その間に誰かに使われた分は戻らないからね」


「お金が無い場合はどうするの? 後、使われないように機能停止出来る?」


「その場合はギルドのお仕事を手伝いしたら再発行出来るわよ。カード停止も冒険ギルドか商業ギルドに行けばすぐに出来るわ。場所によってはタイムラグあるから注意してね。それでも1日くらいかな」


「そういえば登録料払ってないんだけど?」


「ああ、それならギルマスがお祝いだって払ってくれたわよ」


 冒険者カードが財布代わりになるのは知ってたけど無くした場合を聞けて良かった。多少は現金も持っていた方がよさそうだな。


 ギルマスにお礼を言おうかと探してたらミリアさんに外出してると教えてもらった。仕方ない今度お礼を言うか。


 俺はギルドにいる連中に挨拶してから目的の場所に向かう。


 武器屋だ。


 発注済みで今日受けとる事になっている武器を取りに行くため。


 武器屋ヤーマルの看板が見えてくると、俺に気付いた店番しているウタさんが挨拶してくれた。ウタさんは母さんの友達でヤーマルさんの奥さんなんだ。だから我が家とは家族ぐるみの関係だ。


「シエちゃん来たわね。お望みの物は出来ているよ。あんた~、シエちゃん来たわよ」


「ウタさん、こんにちわ」


 ウタさんに挨拶をしてると作業場の扉からヤーマルさんが現れた。手には注文してた武器を持っている。


「おう、シエ。注文の銅の剣だ。大きさ的にはショートくらいだがお前さんには丁度いいサイズだろう」


「ヤーマルさん、ありがと」


 剣を受け取り鞘から出してみると嬉しさが込み上げてくる。なんか自分がさっきよりも強くなった気がしてくる。


 会話をそこそこで切り上げ、二人に礼をいうと南門に向かう。


 南門の近くには森がありあんまり強くないが魔獣が出るのだ。


 多いのは角ウサギでたまにボアもいる。滅多に遭遇しないがゴブリンも出るらしい。


 俺の目的は様子見だ。


 気持ちはクエストを受注して冒険したいが、流石に登録初日に無茶はしたくない。


 ひとまず森の浅いとこらへんで魔獣の観察だ。倒せそうならチャレンジするし、無理そうなら引き上げる。


 新人あるあるの冒険初日に怪我するなんてしたくないからな。迂闊な行動はしない主義だ。


 南門に到着すると門番の兵士が俺を見てくる。


「坊主、何か用か? この門は一般人は通れないぜ」


「こんにちわ。今日から冒険者のシエルです。これがギルドカードです」


 首にかけていたギルドカードを門番に見せると二人いる門番の年配のおじさんが確認してくれた。


「なんだお前冒険者だったのか、この辺は強い魔獣いないけど一人で大丈夫か?」


「今日は様子見だから無理はしないさ。デビュー初日に怪我したくないからね」


「それならいいがヤバくなる前に引き上げるんだぞ」


「心配してくれてありがと」


 南門を通って外に出て街道を歩いて行くと目的の森に近付いてきた。


 街道から外れ、平原を横切って森に向かう途中に何か聞こえた気がして足を止める。


「ん? なんか人の声がした気がするけど……」


 耳を澄ませているとはっきり聞こえた女性の叫び声だ。


 どうするべきが一瞬迷ったが様子を見に行く事にする。俺でも役に立つかもしれないし。


 大急ぎで駆け出したが目的の場所に直ぐにたどり着く。息を整えつつ師匠から教わった気配を消す動きで岩影まで行き一先ず様子を見ることにした。


「きゃあ、こ、殺さないでお願いだから」

「ギャッギャッギャ~」


 俺よりも少し年上に見える女の子が魔獣に襲われている。


 あれは、ゴブリンだよな?

 緑色の皮膚に棍棒を持っている。資料で見たゴブリンのようだ。


 半裸で小太り。見た目は強そうに見えない。女の子はちょっとつり目だけど結構可愛い。


 この状況で考えるのは不謹慎かもしれないが、冒険者デビューで彼女ゲットしちゃうかも。どれだけ幸運なんだよ俺は。


 さっき両親に使った去り際のジェスチャー使うのここじゃないのか。使いどころを間違えた。


 後悔しつつ、お礼のデートどこに行こうか妄想してしまう。


 いかん、いかん。

 今はそんな場合じゃないだろ。



 欲望に蓋をして冷静になって周囲に仲間がいないが確認したが、どうやらアイツしかいないようだ。


 正直怖い。

 緊張からか足が震えている。


「お願い。何でもするから許して……」

「ギャッギャッギャ~」


 どういうわけか棍棒を手離したゴブリンはゆっくりと女の子に近付いていく。


 今しかない。

 鞘から剣を引き抜くと、ゴブリンの背後から足音を立てないように近付き首元を切りつけた。


「ぐわぁ~っ!」


 致命の一撃だったようで倒れたゴブリンはピクリとも動かない。


 何が起こったのか理解してないような表情の女の子を安心させる為に近付いて声をかける。


「あの、大丈夫ですか? ゴブリンは討伐したので安心してください」

「ケ……」

「ケ?」


 ケとはなんだ?

 髪の毛になんか付いてると思い触ってみたが何もない。


「ケインズ様!!」

「うわ~っ!」


 さっきまで地面にへたりこんでいた女の子は立ち上がるなり俺を突き飛ばしてゴブリンの元に行く。


「ケインズ様、ケインズ様~」

「えっと、そのゴブリンもしかして従魔か何かだったりする?」


 もしかしてやらかした?


 焦る俺を女の子はめっちゃ睨み付ける。


「何がゴブリンよ! この人はね、ウィーガン子爵の息子なのよ。それを貴方は殺してしまったの!」


「えっ、ちょっと待ってくれよ。ゴブリンじゃないのか?」


「ゴブリンじゃないわよ。どう見ても人間の顔じゃない。ゴブリンごっこしてじゃれてただけなのに、どうしてくれるのよ! 妾になるつもりだったのに貴方のせいで終わりじゃないの。この人殺し!」


 人殺し? 俺が?


 嘘だ…………。嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁ!


 ちょっと前に冒険者登録した奴が人殺しなわけないじゃん。


 期待のルーキーなんだぜ?



 俺の冒険はこれから始まるんだ。


 そうだよ。旅をしていろんな街に行き、様々な魔獣を倒して英雄になるんだ。


 父さん、母さんを楽にさせるために立派な豪邸を建てないといけないんだ。


 これは夢、これは夢、これは夢……。


「ああ、確かにこれはゴブリンに見えるよな。坊主お前がやったで間違いないか?」


 呆然と立ち尽くしていたら、いつの間にか来ていた兵士に尋問された。


「お、おおお、俺が殺ろしたのはゴブリンなんだ。ゴブリンなんだよ!」


「混乱してるのは分かるがちょっと落ちつけ。悪いが詰所まで来てもらうから。相手は貴族って聞いたけど参ったねこりゃ」


 憔悴しきってる俺は喋る気力もなく兵士に言われるままに詰所に連行された。

散々なデビューになってしまいました。

回想シーンは終わって次話は本編に戻ります


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