第二話:夢とは儚いものでした
プロローグと異なり主人公の話になります
「ヒャッハー。おら、さっさと歩け。この野郎!」
縄で両腕を縛られて抵抗不可の俺に対して、ゲスな笑い声をしていた衛兵の男が、後ろから俺の背中を蹴り上げてきた。
「うっ……」
不意打ちよる攻撃によって一瞬息が止まり、その後しばらく咳き込んでしまう。
14歳の子供に対して、容赦のない行動に誰も咎めることがない理不尽な情景。
逃げることも反論することもできないことを知っている俺は嘆いていた。
この世界はなんて理不尽なんだ!
権力者以外は同じ人間として扱われない。
国のために働く従順な奴隷みたいなものだ。
律儀に税を納めていても上位者の気分ひとつで簡単に地の底に落ちてしまう。働き蜂よりも存在価値がない生き物なんだ。
如何にも弱者に対して強気な態度をとるであろう容姿の男は、ストレス解消をしているかのような感じで俺を痛めつける。ちなみに蹴られたのはこれで三度目になる。
蹴られたショックでよろめいて倒れそうになったが、なんとか踏ん張り中腰状態の姿勢で衛兵を見上げた。
ほんとうは暴言を吐く代わりに睨みつけてやりたいところだが、それを実行してしまうとこの男は余計に俺を痛めつけるだろう。
周りで見ている野次馬たちに力を誇示するように叫んでいるのがいい証拠だ。
もう一人の衛兵は男の暴挙を止めようとしないが、暴力を振るわないだけましであろう。
ムカつくが、一切の反論をすることもなく、無言で護送用の馬車に乗り込んだ。
誰も俺を助けてくれない。みんな巻き沿いに合うのが嫌で黙って見ているだけ。
何を勘違いしたのか俺を罵ってくる愚か者までいる始末。最悪のストーリーだろう。
ああ、俺の夢は完全に終わったと覚悟して心の底からの深いため息が漏れた。
思い返せば、前の人生ではただ生きているだけだったな。
幼少期はそりゃ毎日が楽しかった気がするが、中学、高校と進学していくうちに、勉強やらなんやらで日々余裕がない生活を繰り返していた。
確かに楽しいことはいくつかあったが、人生が光り輝くような夢があったわけではない。
社会人になると俺の背中には見えない責任やら仕事なんやらと重りが乗っかり、学生時代以上に日々の生活に追われた。
30過ぎで病気で亡くなるときは、やっと解放されると逆にこれで楽になれると安堵した。
……でも俺の人生は終わりではなく、続きがあった。
夢物語のように俺は前世の記憶を持ったまま、第二ラウンドに突入した。
異世界という場所でしかも赤子として。
前世では言われるままに頑張ってきたけど、今回は違うよ。
そりゃもういろいろ努力したわけよ。
夢は一流の冒険者に決まっていた。
ドが付くほどの平民の両親から生まれたことを理解してからは、同じような人生を歩む気など微塵もなく、冒険者になるために体を鍛えたり、知識を蓄えることにめっさ努力したんだ。
ドラゴンやらなんやらを倒し、ゆくゆくは一国の美人で可憐なお姫様と結ばれるために。
ところがどっこい!
冒険者の軌跡を始める前に終了してしまった。
俺は盛大にミスをした。
一人の女の子が町を出たすぐの平原で、緑色した一匹のモンスターに襲われている場面に出くわした俺は、物語に出てくるような勇者みたいに颯爽と駆けつけて背後からの奇襲攻撃で退治した。
俺の冒険譚が始まったって思ったね。
あれほど興奮したのは人生で初めてだったし……。
でも現実は途轍もなく非常なんだ。
あれはモンスターでなく、紛らわしいだけで人間だった。
そんな俺は正義のヒーローになりそこない、人殺しの罪を着せられた犯罪者に成り下がってしまった。
誰だってあれはゴブリンって思うじゃん。
全身が緑色になっていたし、こん棒のような物も手に持っていたし。
若い女性が助けを叫びながら襲われているところに遭遇したら助けに入るじゃん。
ましては冒険者に登録したての当日ホヤホヤで、新品の銅の剣を買ったら使いたくなるじゃんか。
ゴブリンだけど小太りで俺より背の低くて如何にも弱そうな顔してたんだもん。
勝てると思って突っちゃうし、うまくいけば女の子と仲良くなれるかもしれないって思っちゃうよね。
でも、あれが貴族の息子って反則すぎない!?
ゴブリンじゃなくてコスプレして行為を楽しんでいた変態野郎だなんで誰が想像出来るもんかよ!
挙句の果てに助けたはずの女の子から「どうしてくれるのよ! せっかく妾になるチャンスが無くなったじゃない!」と暴言まで吐かれたことでまじで凹んだ。
呆れた表情のギルマスのおっちゃんからは「耳の形がゴブリンと違うことはよく見たらわかるだろう?」って言われたけど、ルーキーの初戦に対して難易度高すぎ君だっての。あんま紛らわしい奴がいたら誰だって勘違いするよ。
そりゃ確かに得を積んでなかったから、不幸な目に合うかもしれないけど、
だからってこんなド級な不幸な目にあうこともないと思うよ。
本来なら俺の正当性も認められてお咎めなしなんだろうけど、貴族相手だとダメだったよ。
いかなる理由があろうと、一般人が貴族相手に暴力をふるうことが許されないくだらない不文律が存在しているこの国では俺が悪になってしまう。
死罪は逃れたけど、絶対に連れて行かれる先は地獄にきまっている。
そんな目にあうくらいなら死罪のがいいよ。
マジで生まれた国を間違えた。
自殺するから別の世界にチャレンジってできませんか?
改宗するのでお願いしますよ、神様。ヘルプミー!!
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