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救えない水と降り続ける雨

自分が大嫌い


 過去の記憶が曖昧だ。

 忘れるべきではないこと。

 忘れたいこと。


 未来というのは曖昧だ。

 選択肢がいくつもあり後悔ばかりする。


 夢というのは曖昧だ。

 どこまでが現実で、どこまでが夢の中なのか。

 はたまたこれすらも夢なのか。



 高校三年生の夏休み。頭ではわかっているつもりでも、気分が乗らずに特に勉強する気も起きず、ダラダラと二週間が経とうとしていた。


「何かしていたか?」と聞かれれば「なにもしていない」と答えるしかない。

 いや、あえて言うなら毎日のように図書館には行っていた。

 図書館はいいところだ。あの静かな空間。沢山並んだ本たち。よく効いたクーラー。

 そう、なんといっても涼しいのだ。



 だから今日も僕は図書館に行く。



 巨大な迷路の壁のような本棚のあいだを、ノロノロと歩いている。

 否、歩いていた……と過去形の方が正しいだろう。


「なんで鳥が図書館の中に?」


 鳥を見つけて硬直してる僕の第一声だった。それも鳥は鳥でもただの鳥ではなく青い鳥だ。見つけたら幸せを運ぶと呼ばれる青い鳥だ。目は宝石のように輝いていて、この世のモノとは思えない歪さまで感じさせる。

 さらに鳥はこちらに気が付くも逃げる気配がない。


「なんでこんなところに鳥が?」


 答える筈もないのに質問してしまった。

 すると鳥から思いもよらない音……否、声がした。


「君には僕が見えるのかい?」


 質問を質問で返された。いや、そこじゃない。鳥が喋ったんだ。

 そんな僕の心を読んだのか、


「そうか、先ずは質問に答えないとだね。なんとなくここにいるんだよ。君は僕が見えるのかな?」


 また喋った。幻聴じゃないのか。しかも質問に対してきちんと返してきた。こちらの言葉は完全に理解している様子だ。

 さらには質問をしてきたではないか。


「えっと、うん。一応見えてるよ」

「ちなみにそれはどんな姿かな?」

「どんな姿もなにも青い鳥だよね?」


 違うのか? 他の人には違うように見えるのか?

 僕の答えに満足したのか、青い鳥は翼をはためかせ、


「そっか、ありがとう。僕は行かなきゃだからそろそろ失礼するよ」


 そう言って青い鳥は本棚の間を飛んでいく。



 僕はその青い鳥を追いかけていた。何で追いかけたのかは、わからない。

 あちらへくねり、こちらに曲がり、どこをどのように進んだかはわからない。


「ここはどこだ?」


 目の前には小さな木の扉がポツンとある。歪な扉が。

 引き返そうと後ろを見ると僕は驚いた。ズラっと並んだ本棚たちが、白い霧に包まれて消えていくのだから。

「あの霧のなかに行けば僕も消えてしまう」と直感的に感じた。

 この先に、この歪な扉をくぐるしかないようだ。



 僕は不思議な空間に迷い込んだ。そこには古い本や、がらくたが置いてある本棚が沢山ある。

 そして雨が降っているのだ。その雨に触れても濡れる気配がないのが、また不思議だ。


「そろそろその扉を閉めてくれないかい。雨が逃げ出してしまう」


 不意に声が聞こえ、声の主を確認せずに扉を閉める。あらためて不思議な空間を見渡し、僕は目を丸くした。

 最初は気がつかなかったが、不思議な空間には二人?いたのだ。一人は小学六年生くらいの女の子。それとカエル。


「あなたは人間かしら?」


 女の子の方が質問してきたが、意味が理解できずに、質問に質問を返していた。


「人間もなにも、あなたも僕も人間だよね?」


 どう考えても六年生くらいの女の子にしか見えない。カエルはカエルだ。カエル以外の何者でもない。


「私はシルフ。わかりやすいように人の形をしているだけ」


 そんなことを言われてもシルフなんて初めて見たからわかりようがない。

 それ以前に、この世界にシルフなんていたんだな。ラノベとかアニメではよく出てくるから知識としては知ってるけど。


「シトさん、この方本当に人間ぽいですよ」

「お主は本当に人間なのか? ニセモノとかじゃないのか?」


 カエルが喋った! しかもこのカエルが扉を閉めるように指示したカエルだ。


「はい、逆にニセモノの人間がいるなら見てみたいくらいです」


 いや、ニセモノの人間ならその目の前のシルフが当てはまるか。

 そんな僕の思いとは裏腹にカエルは話を進める。


「……わかった。人間だというのは認めよう。君はどうやってここに来たんだ? 本を求めて来たのか?」

「青い鳥について行ったらここにつきました。ただそれだけです」

「そうか、青い鳥か。多分アイツだな」


 カエルは一人納得している。本を求めて来たという事は、ここは本屋なのか?

  図書館の中の雨降る本屋。なんかいい。


「そうだわ、せっかくここに来たんですから本でも読んでいったらどう?」

「うむ、悪い人間ではなさそうだしそうするといい」


 そんなことよりも、この場所と目の前にいるシルフの方が気になる。


「あのー、ここはなんですか? それとシルフさんって本当にシルフなんですか?」

「そうよ。私はシルフのシルフィ。そしてここは古本屋。シトさんが店主で私は助手なの」


 なるほど、ここは古本屋なのか。

 そう思い、ためしに本を一冊とって開いてみる……。


「……読めない」


 英語やドイツ語ではない。はたまたアラビア語とかでもない。どちらかというと、歴史の授業の資料で見たデモティック文字やヒエログリフ近い感じがする。


「そうか、人間には読めない字もここにはあるから! あなたはどういうお話が好きかしら?」

「僕はノンフィクションが好きです」

「わかったわ」


 シルフィは手から光を、妖精かなにかを出して、よくわからないなにかを伝えた。

 シルフィは妖精使いなのだろうか。シルフィの言葉は少しも聞き取れない。

 知らない言葉というのは聞き取ろうとしても少しも聞き取れないと言うし仕方がないだろう。

 もうなんて言っていたのかさえ忘れてしまった。


 少しして妖精が一冊の本を持ってきてくれた。

 題名は書いてない真っ黒の本だ。

 本を開くと意識が暗転した。



 男がいた。一人の男の子が。

 男の子の名前はカイト。カイトはなに不自由なく生活をしている。そんなカイトには家の隣に同い年の男の子がいる。

 いわゆる幼馴染み。名前ははユイト。

 二人はとても仲がよく親友といってもいいだろう。

 小学校では六年間ずっと同じクラスだった。

 そんな二人は小学校卒業の時に約束した。

 

「僕たちはずっと友達だよね」

「もちろん。これからもずっと友達だよ、ユイト」


 二人は約束した。


 中学の二年にあがると二人は別のクラスになってしまった。

 カイトは自分のクラスで友達を作った。

 ただユイトは違った。


 ユイトはクラスの悪ガキの目に止まってしまった。

 そこからのユイトは酷いもので、帰るときには服が汚れたり、破れたり、濡れていることは日常茶飯事だった。

 そしてクラスに居場所をなくしてしまった。

 先生は見て見ぬふりをしていた。


 それを親友だったカイトは相談された。


「僕はどうすればいいのかな?」


 カイトは考えた。

 考えて考えて考えた。


「頑張って...」


 カイトはそんな言葉しかかけれなかった。


「ありがとう」


 ユイトはどこか悲しそうにそう言った。裏切られたような顔をしていたと思う。

 「君なら助けてくれる」と思っていたような顔を。


 それから何日経っただろうか。

 一週間だったか、一ヶ月だったか。

 その日、カイトは部活で忙しく帰るのが遅れてしまった。


 他の生徒はもういない、静かな学校。


 否、もう一人だけいた。

 それはカイトがよく知っている人。いや、この先に進むなら、よく知っていた人だったと言うべきだろう。


 それは一瞬の出来事。


 何かが壊れる音がする。


 最初は何が起きたかわからなかった。否、理解したくなかったんだ。だが、だんだんと理解が追いついてきた。目を背けようとしても背けられない。どこに逃げてもベッタリとついてくる、そんな感じがした。


 目の前には血に塗られた地面とユイトがいた。


 

 またも意識が暗転する。


 ここは……古本屋か。今のは僕の記憶。僕の過去。

 僕はあの時どうするべきだったんだ。


「大丈夫? 顔色が悪いけど」

「えっ! あ、はい。大丈夫です」


 少しも大丈夫じゃないけど、そう答える。


「過去の忘れたくない記憶を見る本なんだけど……大丈夫?」

「大丈夫です。本当に大丈夫ですから」


 過去の忘れたくない記憶か。

 大抵は嬉しかったりした記憶が多いんだろうな。


「君にはなにが見えたんだ?」


 シトさんの言葉に僕は身を縮こまらせる。

 これは話したくない。出来れば思い出さなかった方が幸せだったかもしれない。記憶の奥底に封印していたものを無理矢理に暴かれた感覚。ただ、忘れてはいけないことだと心では理解している。


「そうか、言いたくないと。では、過去をやり直してみたくはないかい?」


 その言葉で顔をあげた。やり直せるならやり直したい。どうすればいいのかなんてわからない。わからないけどもう一度だけ会いたい。会って伝えなくてはならない。


「過去に戻れるんですか?」

「あぁ、可能だとも。なにせこの場所はただの古本屋ではない。ここは他の世界とも繋がっている記憶の古本屋なのだから」

「記憶の古本屋?」

「あぁ、記憶の本屋だ。死者の強い意思やここに来た強い意思を持つものの記憶を見ることができる。過去の先人の知恵も借りることができる。そういう場所だ」

「……」

「他の世界とは例えばそうだな……君の世界で言うところのド〇クエのような世界だってある。さて、もう一度問おう。君は過去をやり直してみたくはないかい?」


 その言葉を聞いて、僕は食い入るように答えた。


「やり直したいです。正直どうすればいいのかわかりません。けど会いたい。もう一度会って話したいんです」

「わかった。ただ一つだけ言っておこう。君は過去を変えられる程の力があるのかわからんぞ。そのまま帰ってこられない可能性もあるからな」


 僕は無言で頷く。

 何を話せばいいのかなんてわからない。

 でも会えば話せるはずだ。


 だから。


「お願いします」

「わかった。じゃあ説明させてもらう。過去に行き、君の心が満足すると自動的に戻れる。戻れる時間は君の嫌なことの前だが、どのくらい前にもどるかは、わからない。それと過去で死ねばそこで終わりだ。それだけは覚えておけ」


 そんな説明が終わる頃に、シルフィが声をかける。


「シトさん、準備が出来ました」

「よし、ではいってらっしゃい」


 そこにはさっきまでなかった扉がある。

 この先に行けば……。


 僕はドアノブをまわし中に入る。

 心地の良い風で髪の毛が揺れる。



 水の中から出るような感覚と言えば正しいだろうか。

 僕はそっと目を開ける。


「カイト、なにボーっとしてるんだ、整列だぞ」

「あっ、はーい」


 僕は間抜けな返事をして頭を振る。顧問の先生に呼ばれて、意識が覚醒する。今は多分あの時の少し前の部活だ。


「では今日の練習は終わり。カイトはちょっと残れよ」

「先生。今日は用事があるので明日でお願いします」

「……そうか? わかった。では解散」


 あの日は顧問の話で遅くなったんだった。誰もいない学校……否、僕とユイト以外いない学校に。

 僕は急いで着替える。


 まだ時間はあるか?


 あと10分を、時間があると考えるか無いと考えるか。

 着替えを終えて屋上まで走る。息を切らして、それでも会いたいという気持ちだけで走った。


 五階まで走って残り7分。


 なんとか屋上前までついた。なぜか鍵が開いている。よく見ると、無理矢理にでも壊された開き方をしている。


 僕は屋上へと一歩踏み出す。


「待って」


 僕は先ずそう言った。

 ユイトは驚いた顔でこっちを見ていた。


「どうしてカイトがここに? 下校時間は過ぎてるよ」

「それはこっちの台詞だよ。しかも屋上は入っちゃダメな場所だよ?」

「あはは」


 ユイトは力なく笑った。

 どこか嬉しそうに涙を流しながら。


「ここは危ないよ。だから帰ろう」

「……うん」


 ユイトは手に持っていた紙を投げ捨てる。


「今のは?」

「なんでもない」


 とても嬉しそうに笑った。

 僕もつられて笑う。

 ユイトは生きている。その事実だけで僕は満足だ。


 だからこの先も支えてやる。親友として。もちろん僕も支えてもらうつもりだけど。

 


 二人で家に帰った。

 そしてユイトを僕の家に誘った。なんとなく一緒に夜ご飯を食べたい気分だったんだ。



 お母さんには連絡をいれた。


 いつも18:30には終わって19:00には帰ってくるはず。

 なのに19:00になっても帰ってこない。


 5分くらい経っただろうか。


 ――プルルルルルルル プルルルルルルル


 知らない番号から電話がかかってきた。

 なんとなく……なんとなく、でなくてはいけない気がした。


『もしもし、カイトか?』

「お父さん、どうしたの?」

『いいか、落ちついて聞いてくれ。お母さんが亡くなった。交通事故らしい。今から家に急いで戻るから待ってろよ』


 ……お母さんが死んだ? 理解できない……いやだ、理解をしたくない。

 なんで……こんな……事に。


『カイト、待ってろよ。必ず帰るから』


 ――プーーーー


 電話が切れる。


「カイト? 何だって?」

「……」

「どうした……の?」

「お母さんが……お母さんが事故で……」


 僕はそこで泣き崩れてしまった。

 ユイトはなにも言わず頭を撫でてきた。

 そのお陰で少し心が安定した、と思う。

 

 わかったことが一つある。あの日は目の前であんなことがあったからお母さんが早く帰ってきたんだ。


 あぁ、どうすればよかったんだよ。


 僕にはユイトを助けないという選択肢はない。


 なら取れる選択肢は一つだけ。もう一度、もう一度あの古本屋に行こう。



 お父さんは無事に帰ってきてくれた。

 ユイトは家に帰った。もう両親は帰ってきたらしい。僕はそのままお父さんと病院に行った。お母さんは横たわっていて、顔には布が被せられている。



 一週間、一ヶ月と時間だけが過ぎていく。やるべきことは決まっている。ただ、僕はどこにも行く気が起きなかった。

 あんな姿を見たからかもしれない。


 ユイトは毎日家に来てくれた。

 特になにも話す訳でもなく、ただ一緒にいてくれた。

 それだけでよかった。


「これ、学校の宿題。でこっちが僕の書いた答え」

「……ありがとう」

「あとこれ、僕が作ったお守り。これくらいしか出来ないけど」

「……そんなことない。ありがとう」


 ユイトはそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。

 そしてどこかいたわるように微笑んだ。

 木を彫って作られたペンダントはどこか光輝いていた。


 その夜、変な夢を見た。

 僕は黒い靄の中にいて、体が動かない。

 そのまま僕は、体が蝕まれていく感触が襲ってくる。


 その時、胸のペンダントが強い光放ち靄が消えていく。

 そして目が覚める。


 体が汗でびっしょりだ。


 ペンダントはしていない。だが、手には握られていた。昨日の夜は枕元に置いたけど、不思議な事があるものだ。



 僕は今日こそ図書館に行く。シャワーを浴びて行く準備をする。持ち物は必用最低限。もちろんペンダントは持っていく。

 これは僕に勇気をくれるから。



 図書館、今は中学二年生なので背があの時のより小さい。巨大な迷路の巨大な壁のような本棚の間を速足で歩く。

 途中、目が宝石のように綺麗な、見たことあるような一人の青年がいたが無視した。それ以外はおかしいくらい人がいない。

 僕は、なんとなく進む道がわかった。

 あちらへくねり、こちらに曲がり、たどりついた。

 見覚えのある木の扉の前に。


 扉を開けて中に入る。



 不思議な空間だ。

 ただ、前回来た時とがらくたの配置が違う。


「そろそろその扉を閉めてくれないかい。雨が逃げ出してしまう」


 あの時と同じ言葉をかけられる。僕は指示に従い扉を閉める。


「あら、あなたは人間の子供ね」

「はい」


 シルフィの言葉に僕は答えた。


「君は一度ここに来たことがあるのか?」

「シトさん、ボケちゃいましたか?こんな人間の子、私の記憶では来たことはありません。ねぇ?」


 そんなシルフィの言葉を否定する。


「一度だけ来たことがあります」

「ほら、あるって……えぇぇぇぇぇぇぇ!」


 未来に来たことを、来たと言っていいのか曖昧だが。


「なんのようだ? いつ来たのだ?」

「未来でお世話になりました。そして過去に行かせてもらいました。でも救えなかった。なのでもう一度過去に行かせてください」


 僕はお願いをした。これがお願いと言っていいのかわからないが。


「構わん、が。そうだな。今君が持っている一番大事な物をくれるならいいだろう」

「あっ、シトさんの意地悪~」


 シトさんの条件にシルフィが小言を言ってる。

 僕はつい大事なペンダントを力強く掴んでいた。


「そうか、その首飾りが一番大事な物か。ではそれを頂こう。シルフィ、準備を」

「わかりました、シトさん」


 僕はシトさんに、カエルにペンダントを渡す。

 シルフィさんは準備をしているがよくわかんない。


 それから数十分。


「準備が出来ました」

「説明はいらないな。では行ってくればいい。私はどうこう出来ないからな」


 僕は木の扉を開けて前に進む。

 風で髪の毛が靡く。


 次は……。



 水の中から出るような感覚。


「なにボーッとしてるの? ごはん食べ終わったならはやく片しちゃいなさい」


 お母さんのその声で意識が覚醒する。

 これはいつだ?

 あの事故の日の朝かな?


 なら、


「お母さん、今日ユイトを家に呼びたいからはやく帰ってきて」

「また唐突ね。まぁわかったわ」


 お母さんははやく帰ってきてと言うとタクシーを使い急いで帰ってきてくれる。


 これでお母さんが事故に巻き込まれる心配はないだろう。

 いや、そう思いたいだけかもしれない。けど、僕に出来ることは限られてる。


 何事もなく1日が経過していく。

 部活が終わると顧問が声をかけるが断って屋上に行く。


「待って」


 今回も僕はそう言った。

 ユイトは驚いた顔でこっちを見ていた。


「どうしてカイトがここに? 下校時間は過ぎてるよ」

「それはこっちの台詞だよ。しかも屋上は入っちゃダメな場所だよ?」

「あはは」


 ユイトは力なく笑った。どこか嬉しそうに涙を流しながら。僕は同じ言葉しか言ってない。

 でもこれで助けられるんだ。


「ここは危ないから帰ろう」

「うん」


 ユイトは手に持っていた紙を投げ捨てる。

 今回は聞かない。

 あれは確か読んだ気がするけど覚えていない。


 そして仲良く家に帰った。


 帰る頃には18:30をまわっていた。

 15分後、お母さんは帰ってきた。


「お帰り、お母さん」

「お邪魔してます」


 ユイトがお母さんに挨拶をする。


「ただいま。それと久しぶりだね、ユイトくん」

「お久しぶりです」

「さぁ、今からご飯を作るから待っててね」


 お母さんは久しぶりにユイトが家に来たから張り切っている。

 これで問題なく未来に帰れる。


 数分して、ご飯が完成したので食べ始める。そういえばお母さんのご飯は久しぶりだ。なんだかんだお母さんの料理は食べれてなかった。


 一ヶ月ぶりくらいか。とても懐かしく、とても美味しい。

 あの時は……。

 その事を思うと涙がでてきた。


「どうしたの?カイト」

「なんでもない。ただなんとなく」

「……変なの?」


 ユイトも生きているんだ。ダメだ、涙が止まらない。

 そんな僕の涙な夜ご飯を食べ終わり、ユイトは家に帰ってった。


「それにしてもお父さん遅いわね」

「そうだね」


 この時間にはいつも終わってるはずだ。終わってなくても連絡くらいはいれてくれる。

 なんだろう、嫌な予感しかしない。


 お母さんがテレビのチャンネルをまわしていると、見たことのある場所がでてきた。

 それもニュース番組でだ。

 その場所はお父さんの職場だった。

 ニュースの内容はこうだ。

 お父さんの職場に強盗団が侵入。

 職場にいた人全員人質となる。

 そのまま、警察に金と逃走経路を要求。

 それが守られないと一時間事に半分を殺害。

 その最初の半分にお父さんの名前があった。


 そう、次はお父さんだったんだ。あの優しく厳しいお父さんが……。

 まだ事件は続いていて、死体はまだ回収できていないようだ。

 なんで次から次に。

 どうすればよかったんだよ。


 もう一回、次で誰も死なせない。


 ダメだ、でもお父さんを仕事に行かせない方法が思い付かない。


 そのまま夜になった。考えはまとまらない。ダメ元でお願いしてみるか?

 とりあえず、明日は図書館に行こう。朝一番に行こう。


 今日は朝から父方のお婆ちゃんとお爺ちゃんが来てくれた。お母さんはお婆ちゃんとお爺ちゃんのおかげで落ち着いてきている。

 僕は調べたいことがあると言って家を出る。


 図書館についたはいいもののどこをどのように進めばいいかわからない。最初は青い鳥に、あの時は直感で行くことが出来た。今回はそもそも行くことができるか。


 青い鳥がいたところまで行く。そこには一人の青年がいた。宝石のように綺麗な目をもった。否、どこか黒く光っている。

 僕は開館すぐに図書館に入ったから、僕より前に入った人はいないはずだ。


「何者だ?」

「わぁ、お兄さんに向かって何者だ? はないんじゃない?」

「お前は青い鳥か?」

「青い鳥って見つけると幸せになるっていう?」


 青い鳥で幸せになるだと。

 僕は逆に不幸にしかなってない。

 この男は何者なんだ?


「逆に鳥が人間に、人間が鳥になれる存在がいるなら見てみたいよ」


 どこかで聞いたような台詞だ。宝石のような目が光を失っていく。

 ダメだとわかっていながら、急な睡魔に襲われて意識を手放した。



 目が覚めるとあの木の扉が目の前にある。

 あの鳥人間は何者なんだ? 考えても答えなんて出てこない。


 今回は木の扉をノックする。


 ――トン トン トン


「どうぞ、開いてますよ」


 シルフィの声が聞こえ、許可がおりたので入る。ここはいつ来ても不思議な空間だ。

 またがらくたの配置が変わっている。そこに一つだけ目を引くものがあった。

 そう、あのペンダントがそこにはあった。


「あのペンダントは?」

「あれがどうかしたのか?」


 ユイトがくれたペンダントを指差すと、どこか納得したようにシトさんは頷き、


「そうか、君はここが初めてじゃないな?」

「シトさんなに言ってるんですか? 私の記憶ではこの子が来たことはありませんよ。ボケちゃいましたか?」


 シルフィの言葉を否定するように答える。


「来たことがあります。未来で二度お世話になりました。でもこれで最後にするつもりです」

「ほら、来たことがあるって……えぇぇぇぇぇ!」


 シルフィは同じ反応をしてくれた。


「そうか。それも二度もとは。それで過去に連れていってほしいと」


 言わなくてと、シトさんは僕の事を理解していた。

 

「そうです。それと一つ教えて欲しいことがあります」

「教えてほしいこととな?」

「はい。青い鳥ついて教えてください」

「君の言ってる青い鳥とは、青い鳥の事か? 宝石の鳥人間の事か?」


 少し考えてから、宝石のような瞳を思いだし、


「多分後者だと……」

「そうか、宝石の鳥人間か。あれは悪魔だな。どうやったかは知らないが過去や未来をぐちゃぐちゃにしている。どこにいるかもわからん。ただ取りつかれた物は結末が不幸にしかならない」


 そこまで聞いて、僕は一つの疑問が頭に過る。

 僕はどこでその宝石の鳥人間に会ったんだっけ?

 どうして知りたかったんだっけ?

 記憶を辿っても、会った思い出がない。


「満足か? では準備が出来たようだ。君は三回目ということだから君を本にさせてもらうよ。君の体験したこと、感じたこと、苦痛、喜び、悲しみ全てを」

「わかりました。構いません」


 よくわからないが、そう答える。

 

「よし、では行ってこい」


 僕は木の扉を開ける。

 風で髪の毛が揺れる。

 これでラストだ。全員を助けて終わりにしよう。



 やっぱり水の中から出るような感覚。目が覚める。時刻は05:30となっている。いつもはこんな時間に起きないはずなのに。

 リビングに行くとお父さんがいた。

 キッチンにはお母さんがいて朝ごはんを作ってる。


「お父さん、お母さん。今日は仕事を休んでほしいんだけど……」


 こんなお願いははじめてだ。


「……? なんでだ? 理由はあるのか?」

「なんとなく……夢で二人が死ぬ夢を見たから行かないでほしい」

「……そうか、わかった。今日は会議とかないからまぁいいか。カイトは学校に行くんだな」

「うん、やることがあるから」

「わかった。楽しんでこいよ。お母さんそれでいいよな?」


「えぇ。私はいいわよ」


 これで大丈夫なはず。僕の我儘を聞き入れてくれる両親はいい両親だ。

 これで特になにもないはず。これでも助けられなかったら、僕は他の方法が思い付かない。

 朝ごはんを食べて学校に行く準備をする。そして時間になったので家を出る。


「あれ? 雨なんて降ってたっけ?」


 嫌な天気に、憂鬱な気分になる。


 学校に向かう途中は何もなかった。

 

 その予定だった。


「どうし……て」


 最初におかしいと思うべきただった。

 

 前回、前々回では雨が降っていなかったんだから。


 

 一瞬の出来事だった。


 

 勢いよく車と壁に挟まれる。


 そのまま潰される勢いだが痛みは感じない。


 足は変な方向に曲がり、体の至るところから血が出ている。


 昨日はこんな事故無かったのに。


 なんだ……ろう。


 いし……き……が…………。


 血に塗られた地面の近くに、男の子の髪を『幸せの青い鳥』が靡かせながら飛んでいく。



 1つの命が消え古本屋に新たな本が届いた。


 

やり直せるならやり直したい

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