第六歩 闇の狩人
「こんにちは、お馬鹿さん達」
そう言葉を発する女性はその美貌とは裏腹に、
隠しきれないほどの残虐な敵意を抱いていた。何をしても許されそうな美にもかわわらず、俺は思わず拳を軽く作っていた。
「へぇ、やる? 歯向かうのなら痛い目見
戦闘態勢に入りかけの俺の様子を見て、只人ではないと気付いたのだろう。
先ほどよりも、言葉を鋭く冷徹にする。
この状況をどうにかするため、思考を巡らせる。
(店を襲ったのを俺と勘違いしてやがんのか?
チンピラが逃げたのとは逆の方向から来たし、会ってねぇのか。なら、さっさと誤解を解くとするか)
そうして誤解を解こうとすると、ファンタが前に出てきて、
「ま、待ってくれでヤンス。あんたが何、勘違いしてるのか知らないでヤンスが俺達はただ店を救って、……」
「涙目で後悔しながら掃除してたのに?」
この女性の目から見れば、店に駆けつけてみれば涙目で後悔しながら掃除していた二人組。
何というか…
―――うん、状況わっる
勘違いするのも無理ないが、このままでは解決しそうにもないので、それに対し、俺は、すこし乱暴だが、
空間が歪むほどの圧を女性に向けて、
「おいおい、女を殴るなんて男のする役目じゃねぇし、出来れば俺は平和的解決をしたいんだが」
「――――――ッ!」
彼女の顔から瞬時に血の気が引き、顔色が悪くなり、かすかに震えている。
これで逃げるかとそう思ったのだが、すると、彼女は大きく目を見開いて、
「わ、私はどんなに強かろうとこの街のためならひかない」
その言葉は、死への恐怖をも上書きするほどの何かがあった。何があっても街を守るために臆さないという決意の表れだった。
持っていた杖を構え、戦闘態勢に入る
戦意を折らせるつもりが、かえって退けない状況になしてしまった。どうしようかと考えを巡らせていると、
「この店を襲うなら容赦しない!」
彼女は自身を鼓舞するために張り付くような音量で声をあげた。それに対して、店主が首を傾げて、
「――?こいつら店は襲っていないぞ。」
「――――?え、えぇっ、じゃあなんで」
店主の方を見て、女性は思わず声をあげて驚いていた。
「ごめんなさい勘違いしちゃって」
話を聞いた女性が頭を深く下げて、声を低くし、真剣な表情で謝罪する。
「本当、賠償案件でヤンスよ。」
「まぁ、そういってやんな。がははっ!」
店内も掃除し終え、店主の気も済んだのたろう。先ほどの激情は収まり、上機嫌になり声をあげて笑っていた。その様子を見て俺とファンタは目を見合わせて、互いに疲れ切った表情をする。
「にしても、酷い目に遭ったでヤンス。お姉さん、その様子からしてギルドの者ッスか?ここって確か…
まさか…あのアウトローでヤンスか!?」
俺は、聞き慣れない単語があり、自然体で質問していたのにもかかわらず急にびっくりしているファンタに対して、
「ギルド?それと、アウトローって?」
俺は、普通に質問したつもりだったのだが、その言葉を聞き、ファンタを含めた皆が俺の態度を見て、ふざけてではなく、ただ知らないだけだと分かり、驚き呆れている。
バツの悪さを感じていると、
「はぁ、あのでヤンスね、ギルドっていうのは主には担当の土地の治安を維持する仕事でヤンス。普通は多くの人々を雇って、安全を確保するんでヤンスが、アウトローは他とは違い、入所試験も受け付けず、少数精鋭なことで知られているんでヤンス。」
「うーむ、なるほどな。何か凄い系か」
俺はされた説明に納得していると、店主が話を切り替えるように女性に対して心配の念を浮かべ、
「にしても、大丈夫か?さっきの様子といい、どうした、お前らしくねぇぞ」
「心配してくれてありがとうございます。実は…ギルドの皆が朝から任務で外出してて、それでその……朝から、緊張…ちゃってて――」
彼女が頬を少し赤らめて告げると、それを聞いた店主は、ほっと胸を撫で下ろし、笑いながら
「大丈夫、大丈夫。気楽にやんな」
と言った。それを聞いた彼女は
「ありがとうございます。――では、私はそろそろ店を荒らした不届き者を懲らしめてきますね。お二人さんも迷惑をかけてしまい、申し訳ございませんでした。」
そういって可憐な彼女は笑顔を浮かべてから、一礼して静かに店を後にした。
△▼△▼△▼△
「魔力探知によれば、ここら辺のはずなんだけど…」
女性はチンピラを追って、足音を潜めながら、人気の無い少し薄暗い路地裏に来ていた。周りを見渡しながら、探していると…
静寂が広がるその瞬間、突然、闇の中から高速で何かが飛んでくる。不意打ちの攻撃が彼女を襲い、空気が一変した。
その攻撃に対して、とっさに杖を前に出してシールドを作動させ、攻撃を防ぎきった。
飛んできたものは一瞬では分からなかったがよく見てみると…
―――原型を留めていない人の生首だった
「――――――ッ!」
命の危機を鋭く感じ取った瞬間、誘いこまれたことを理解し、彼女は緊張感に包まれながら戦闘態勢に突入した。心臓が高鳴り、身体が一瞬で警戒モードに切り替わる。敵を見逃すまいと、冷静に構える。
すると、何処からか正面に人が現れ、…
「よぉ、紅蓮の蘇生者さん」
そう告げた男は、不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりとした足取りで近づいてきた。ノコギリを持ちながら、
冷たい目でこちらをみていた…