第一歩 異世界どうも
「人生やり直したいな…」
いつものように戦闘訓練に励みながら、汗にまみれた青年が無意識に呟いた。、黒髪の中にちらほらとまじる白髪、平均な容姿ーーけれど、その虚ろな瞳には何か物足りなさが漂っていた。
この俺、飛双 悠斗は特殊な家訓を持った家で生まれた。
その家訓はただ一つ
『強さを追い求めよ』
誰もが強さを目指すとはいえ、この家のそれは常識のレベルを遥かに超えていた。
生まれてから死ぬまで、ただ強さを追い続ける。それが俺の宿命。学校にも行かず、家族の愛も、娯楽も知らず、ただ肉体を極限まで鍛え抜き、技を研ぎ澄ます日々。生まれてから死ぬまで肉体を鍛えあげ、技術を研鑽させ、次の世代に託していく…そして次の子に鍛え上げられた物全てが注ぎ込まれていく。
人生のレールにあるもの、いるもの、分かれ道を勝手に決められる
それは五百年近く続く、異常な伝統。
普通の家ならそんなこと出来ないだろう、だか、この家には広すぎる関係網と文字通り数えられないほどの富があった。
俺もまた、その一環として生きてきた。時には、敵の命を奪い、その手を赤く染めることさえあった。
そんな殺伐とした日々の中で、唯一心を救ってくれたのは、ある一人の人間。彼女のおかげで、俺は他の家族と違い、心の片隅に「人間らしさ」を残すことができた。――だから、冗談を言える。
今日も鍛錬をしていると、不意に馴染みのある間の抜けた声がかかってきた
「はっひゃひゃ、しっかりやっとるようじゃの〜」
振り返ると、鉄杖をつきながらこちらに向かってくる老人。髭は針のように尖り、和服姿の痩せた男、飛双家当主、飛双長次郎だった。
その風貌は年老いているはずなのに、岩のように揺るぎない足取りで、足の軸がしっかりしている。
俺は悪態をつきながら、答える。
「老いぼれには、閻魔の使者を呼ぶくらいの鍛錬はやってるよ。」
すると、長次郎は目を手で覆いながら、わざとらしく嘆く。
「う、うっ、ひーん、悲しいの〜、孫が冷たくて」
馬鹿にするような様子鳴き真似しながらでそう言ってきた。
いつもならただの煽り文句で済んだはずだったが、今日の俺は違った。
――心がざわつく。
感情が制御できない。何かが引き金になったように、俺の中で何かが崩れ始めた。
――感情が脳の支配に追いつかない。
狐に心を化かされたかのように、いつもと何か違う…
いつもと自分の何かが違うと分かりながら心が徐々に感情の激流に飲み込まれていく
(愛情なんてあるはずないだろ、あんたが見てるのは孫の俺じゃない、『飛双家の未来』を担うための俺だ。)
拳を強く握る。骨がきしむほどに。血が滲んでくるのがわかる。
怒りが急速に膨れ上がる。家への不満が、ここまで高まるのは初めてだった。
そのまま何かに惹き寄せられるように…
「ありゃっ?お主どこいくんじゃ?」
背を向け、全力で走り出す。俺は瞬く間に屋敷を飛び出し、マッハを超えるような速度で山の上までたどり着いた。
「ハァ…ハァ…」
息が荒くなる。心の中で、再び呟く。
「――やり直してぇ…」
冗談交じりの振る舞いも、心の鎧だった。笑顔を絶やさず、自分が支配されていないと信じ込むために――。
だけど、今、この瞬間、俺は気付いてしまった。いや、本当は前から気付いていたのかもしれない。
自由なんて、俺には決して訪れないんだと。
そのとき、空に異変が起こった。
「な、な、なんだ!」
空が突然、雷鳴と共に荒れ狂い始めたのだ。まるで自然法則を無視したかのような現象に、俺は立ちすくんだ。
だか、それを払いのけるかのように、染み付いた戦闘本能が牙を剥く
無意識に、戦闘の構えにとる
「―――――ッ!」
鍛え上げられたヤマカンが全身に伝える。
――何かがいると…
すると…
一瞬大きな光が見え――――
「――――――はっ!」
目を覚ましたと同士に立ち上がり戦闘態勢に入る
だが、それも目の前の景色に思わず構えが抜ける
それもそのはず、目の前に広がったのは…
――空を飛ぶドラゴンの群れだったのだ
頭が一瞬空白に包まれる。
だが、その後すぐに状況を整理し始める。
(さっきまで屋敷の山にいたはずだ、なぜここに!?思いあたるのは………あの光か、あれはおそらく雷がふってきたのだと思うが、ならなぜ、こんな場所に移動している!?まず、ここは地球なのか? ――いや、違う!)
ここまで、頭の中で結論づけたと同時に、次々と疑問が湧く中、
胸の奥底から湧き上がってきたのは――不安ではなく、解放感。
俺は、飛双家から解き放たれたのだ。思わず、笑みがこぼれる
『何かあったときは一歩踏み出しなさい、人間は皆、待って物事を解決しようと引きこもったりする。でもそれじゃ何かを引き起こしてしまった自分の根本的解決にはならない。だから、一歩でいい、踏み出しなさい、そうして動いた自分はうずくまっていた自分とは異なるものになるのだから』
あの尊敬する人が言っていた言葉を思い出す。胸の中に沸き立つのは、自由への歓喜。そして、強い意志。
「―――行くか!」
そう元気よく言い放ち、
そう力強く呟き、俺は大きく一歩を踏み出した。
――ーー途方もない、真の人生への第一歩を。
第一話目です
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