イマジナリーフレンド
この物語は盗賊稼業も楽じゃない!の短編スピンオフとなっています。
現在進行してる第三章の数ヶ月後、主人公達が最初の街へ戻って来て
からのお話で、主にプラムの従属、リッチ視点で物語は進みます。
※プラムがアリッサの持ち物だった人形を手に入れてからのお話です。
主な登場人物;
幼鬼姫プラム;生体兵器として造られた多重合成悪魔。
現在はララという少女の養子。アリッサの家で2人共、同居をしている。
生まれながらに理力という力を持っていて、ラーニング能力が得意。
リッチ;アデルという悪魔からプラムの従属と成る事を命じられた。
外出時はプラムの頭にある薄いチェーン製のサークレット宝石の中に居て、
アリッサ宅だと姿を現しプラムに関する様々な面倒を見ている。
幼い子供相手なので手に猫型肉球グローブを装備したり、ファンシー調な
見た目になっていて、アリッサが着ぐるみ等をプレゼントする事もある。
ララ:見た目は幼い少女だが、歴史上誰も習得し得なかった超古代魔法を
得た事により、女神達に生命と魔力を捧げなければならない宿命となった。
その反動で実年齢より若返り、解決法を探している。全ての魔法を扱える
ことから「魔を知る者」というアダ名を持ち、大魔司教と呼ばれている。
アデル;契約によってララに憑依した大悪魔。かつては暴君と呼ばれていた
がアリッサに妹だと言われ、半信半疑ながら人間界の仕来りに従っている。
※人間界では一番最初に生まれた者が強い権力を有するという兄妹間の事。
アリッサ;盗賊稼業も楽じゃない!に登場する少女。
魔法錬金に長けた父と、魔法職だった母の1人娘。天賦の才である程、
尋常ではない魔力の持ち主で、ララはメイジギルドからの指導役にあたる。
自宅の中に居るリッチの事を肉球ドクロとアダ名を付けていて、隠して
あるプラム用デザートなどを奇想天外な方法で見つけては証拠隠滅する。
黒蝶のアンベル;アデルの使い魔。元風の精霊でアデルからアリッサを監視
する様に言われているのでアリッサと一緒に行動している。リッチと仲が悪い。
みずも;中立を司る女神フィリアが生み出した右半身。子供の姿をしていて
リシュという少年の魂と融合しているが、勝手に街中へ行ったりする。
みずく;中立を司る女神フィリアが生み出した左半身。子供の姿をしていて
リリィという少女の魂と融合しているが、同じく勝手に街中へ行く。
メアリーベル;人形に宿っている思念体。
マジカル・アーツアカデミー 元は孤児を引き取っていた施設だったが、様々
な教育を学ぶ機関となり、現在のプラム、みずも、みずくは幼稚園組に属する。
◇
私がその異変に気づいたのは、いつもの様にプラム様が人形に向かって
ごっこ遊びをしながら話しかけた時、喋っている内容が明らかに友達と変わら
ないほど自然で、何の事はない、幼い子供なら有り得る事と思っていた。
しかし日を追う度に、これは単なる「人形遊び」なのだろうか?と疑問が
沸いてきて、プラム様の行動や言動を覗き見しながら観察していたら、ある日
人形が意志を持っているかの如く、部屋の中で動き始めたのだ。
”バッバカなっ。私は以前、プラム様からこの人形って自分で動けないのーと
疑問を投げ掛けられたのだが、その時はララ様と同じ意見で、自立した意志
を持たせ、それを永続させる事は不可能ですと答えた”
ララ様というのは現在、プラム様の保護者に当たる方で見かけは幼いが、
本来の姿ではないと云う。その辺りの事を伺う事すら無礼に当たる行為なので、
私にはそういう事なのだというのを理解するしかない。どうして無礼なのか、
それはララ様に古代の暴君アデル様という大悪魔が憑依しているからである。
”仮に、何故その様な御姿に?とララ様に聞いた所で私には理解出来ぬだろう”
ともかく、あの人形が動いている。この奇妙な光景を見た時、私は取り乱す
事はなく。もしかしたらプラム様が理力を使ってお遊びになっているのかも知
れないと考えて、時間のある夕飯時や入浴中にお尋ねしようと思っていた。
理力とはプラム様が生まれながらにして備わっていた能力と、アデル様から
説明をされたのだが、生前の私が調査した限り人間では習得出来ない超自然な
能力、又は神通力とも呼ばれる途轍もない未知の力。
◇
「うーーん。わっかんない。でも、自分で動けないんでしょー」
「そ、そうですか。ならば私の目の錯覚なのかも知れません。プラム様が
能力を使って動かしてないのなら、動いてないのでしょう」
夕飯後に入浴している所で、我が主の機嫌を伺いながら、人形を
理力で動かせて遊んだのか聞いてみると、自分では分からないと仰っていた。
こういう場合、プラム様を問い詰めるのではなく。本人が分からないのなら
そうなのだろう。透化、浮遊、転移を自分の意志で使うのは理解しておられる。
※透化 姿を消してドアや壁などをすり抜ける。リッチも同じ能力を有してい
るので嫌がっている歯磨きや、プラムが透化して逃げても捕まえる事が可能。
※浮遊 身体を宙に浮かせて漂う。リッチの見解では飛翔魔法を経験した事に
よって覚えたのでは?と、うまく空を飛べる様になって、アデルを驚をせたい
ので、他の者に浮遊について喋る事をプラムから禁じられている。
※転移 座標を指定して転移する最上級魔法テレポーターを2回経験したのと
戒律の加護を受けた事で習得。本人が座標など分からないので、視界範囲内で
思ったとこに転移する。リッチは空間転移のみ可能だと思っている。友達同士
のかくれんぼで使った事をリッチに咎められ、友人達がプラムの能力を魔法だ
と思っていて友達が遊んでいる時に魔法を使わないので、だったら自分も使わ
ないと約束した。
※その他 プラム本人は自覚してないが、泡魔法と水を弾く魔法。
ハウスダスト問題でララが使った戒律が秩序なら、デバフを全て取り除き、
継続回復する魔法も習得済。リッチが髪の毛を乾かす風の魔法とプリズム
テリアで髪をカットされた時のスキルは後ろ向きになっていて発動を見て
いない事と自身の興味を引くモノが別にあった為、ラーニングをしていない。
◇
今でこそ、プラム様はご自分からお風呂場へ入って来て、シャンプーハット
を被りながら髪や身体を泡の魔法で流させてくれるのだが、初めての時はお風
呂場の中にある水場を嫌い、サウナ風呂の中にある水風呂には決して近づかな
いので、その様子を見ていたララ様がどうしたものかと悩まれていた。
私は生前、無精者であるが故に生み出した泡の魔法「バブルスアラマート」
なら水ではなく可能なのではとお話し、プラム様に許可を得て泡魔法を使って
シュワシュワした後に、サッとバスタオルで身体を拭いてみると嫌がる素振り
を見せず、これなら申し分ないとプラム様からお返事を頂いた。
”もしかしたら元々、あの人形に一定条件で作動する装置の様なモノがあるの
かも知れない。何せ、以前の持ち主がアリッサ様。それにサイモン殿が驚か
せる為に妙な仕掛けを行っていても不思議ではない”
※サイモン アリッサの父。魔法と錬金術を組み合わせた魔導具の考案、製造
を生業にしている。
「ララ様。今日、アリッサ様はお帰りにならないのでしょうか?」
「どうかしら、昨日ユニオンメンバーと探索がどうとか話していたわね」
「なるほど、承知致しました。そういえばあの使い魔も戻って来てませんね」
「アンベルの事ね。貴方と古城で揉めた事は耳にしたけど、あの性格だから
時を経たモノ珍しさもあって、アリッサに付いて回っているのでしょう」
プラム様のお身体をタオルで吹きながら水風呂に入浴しているララ様に、
この家で一番の問題児。長女アリッサ様を今日の朝以来、見かけていない
ので動向を伺ってみたが、どうやら他の者達とドコかへ行っている様だ。
アンベルというのは小生意気な感じのするアデル様の従属で、自身の姿を
自在に変化出来る。それも有って小さな姿と成り、人形の中に居るとすれば
プラム様と遊んでいたとも思えて話したのだが、アリッサ様とご一緒とは。
「私との決着が付いていない事で、敵視しておられると感じております。
アリッサ様に同行なさってるのですか、数百年の歳月となれば、変わり
経た時代に目が奪われるもの当然ではありますが」
「過去の勢力争いが原因なのかしら、アデルが何故あんなにも放任している
のか理解に苦しむけど、それなりの理由がある気がするわ」
「争いの始まりには数多の理由がありますから何とも。アデル様なりに現在の
状況に対して、臨機応変に対応せざるを得ない様に思えます」
アンベルという使い魔とは数ヶ月前に対峙したのだが、あの時はこちらにも
それなりの理由があった。結果的にアデル様達が乱入して来られたので、決着
を着けることなく流れてしまった、ララ様の言われた「それなりの理由」と云
うのに心当たりがあるのだが、今はアデル様の為に喋らない方が良いだろう。
”推測となるが、あの使い魔は魔力を自分で供給出来る。風力そのものを魔力
へと変換し、無限に魔法を使い続けられるのだ”
現在の私の立場としては、プラム様に影響を及ぼす事がなく。すくすくと
成長なさってくれるのを一番に考えなければ。ただ、ララ様が保護者であら
れるので、その意味だとアデル様とは切っても切れない縁もあるのが今の状況。
◇
現在、私達がお世話になっている家宅は2階建てではあるが、その大きさは
巨大な宿泊施設並み。部屋数を数得ていないがおおよそ150はあるだろう。
これには理由があって、サイモン殿が発明した道具を部屋ごとに割り振って
管理しているからである。その為、家の中にゴーレムを魔改良した使用人モド
キが何体も居て、自宅の周りにも奇妙なオブジェが多数あるので、見た目がも
う一体何を研究しているのか、傍目から不気味な場所となっている。
「では、下に降りてお風呂後のデザートを作って参ります」
「いってらっしゃい。アレを隠す時の匂いに気をつけておくのよ」
「承知致しております。今度はそう簡単には見つけさせません」
広めのリビングルームでプラム様は魔法文字を勉強なされており、
読み書きを覚える為に集中しておられる。こういった場合、大抵他に注意を
向けず、一心不乱になられるので、私の声にララ様が答えてくれた。
アレというのはアイスクリームと呼ばれる凍菓子で、プラム様の大大好物。
吸血鬼が元となり、多数の悪魔細胞を掛け合わせてお生まれになっているか
らか、恐ろしい程めちゃくちゃ鼻が良い。訓練された犬を遥かに凌ぐ程に。
”これまで何度も見つかってはアデル様や使い魔、アリッサ様と御一緒に
跡形もなく食べられてばかり、宅内に密告者がいるのでは?と思うほど”
その為、ララ様と今度ばかりは!と隠し場所を相談して、匂いを消す為に
色々な工作をするのだが、毎回破られている現状なのだ。
それに今はアリッサ様が戻って来られてない、最大のチャンス。
プラム様は匂いのみで判断しておられるが、アリッサ様はもう手段がナナメ
上をいかれる。自身の使い魔、土の精霊を使って的確に場所を特定してくる。
どうやら超音波で当たる物体に、総当たりをして確かめに行かせてい
る様で、正直、そこまでするかという気持ちになるが、そういう性格の御方。
”毎回、使い魔を使ってしまった事が仇となりましたな、アリッサ様。
こちらも召喚し、冥界へ帰還させてしまえばゼッタイに見つけ出せまい”
もはや相手がアリッサ様のみとなっているが、この方法が一番発見されにく
いと自負しているのだ。ララ様から、まだ冥界の使い魔を扱えないとの情報を
聞いているので間違いないハズ。アンベルとかいう使い魔が探しに向かわなけ
れば・・・。いくらアヤツでも労力に割が合わないとアリッサ様に言うだろう。
それに私が召喚する使い魔を相手方は知らない。これはまさに勝確っ!
”あ、いや。勝ち負けの問題ではなかったわ。毎回考えなければならない
プレッシャーから、つい。私とした事が”
◇
ー翌朝ー
もう毎朝のルーティン化している事で、プラム様のお食事は特殊というか
まだ歯も乳歯なのもあって、食べれるモノが限られておられる。
幸い、生前の私は料理道に興味を惹かれて学んだ事もあり、ある程度の知識
と応用出来る経験を持っているので、乳製品から歯に刺激を与えない硬さの食
事を用意し、飽きない様に味も手を変え品を変えフルーツにも気を使っている。
”甘味を感じるモノであれば全く問題ないのだが、酸味があると嫌がられる”
食べ物に関しては、プラム様が通われているアカデミーでは、まだ幼いので
乳製品以外の食べ物にアレルギーがあるという事にしていて、ララ様からアカ
デミーを運営している方々へ知らせていると云う。
私自身も頭にある宝石から覗いているので、問題になりそうな場合。隙を
見て取り除いたり、苦手なモノを魔力で消してしまう場合もある。
「らーらー。今日、この子も一緒に行くー。みずもが見てみたいって」
「そ、そう。それは構わないけど、休憩の時にしなさいね」
「はーい。途中で会えればいいなー。それなら入る前に見せれるのにー」
朝食を摂られている時間に洋服を選び、といってもアリッサ様のお下がりと
なるので、部屋の中にあるタンスから秋用で黒髪のプラム様が着ても違和感の
ないモノをいくつか手に取り、用意していたタオルを5枚持って主の元へ行く
と、もう観念しているのか、ララ様の体によじ登って、こちらを睨んでいた。
「そんな顔をなさっても止めませんよ。お外へ行きたいのなら歯磨きと
コレを我慢して下さい。プラム様の為に行っているのです」
「うーっ。わかってるってば」
これも外出する際のルーティンワークとなるのだが、毎回泡魔法で
シュワシュワして髪の毛をセット。髪型に関するカタログを購入した事も
あり、仲の良いお友達と同じ髪型やアリッサ様が所持している流行のモノ等。
なるべく普通の人間として経験をし、色んな事を学んで欲しいとララ様は
考えておられるので、私としてもその事については同意見なのだ。
”この方なら必ず、私のかつての主を超え、生まれた地を支配出来る”
アデル様から聞いた話しだと、私が使えていたシエルグ様はアデル様の
兄に当たると云う。アデル様が敵対心を抱かずにいた唯一の存在で、数十年前
からドコへ行かれたのか不明になったまま、戻って来られなかった。
「さ、出来ましたよ。今日は少し気温が下がり、風もあるので向かう時に
あちこち動き回ってはなりません」
「ベーッ!嫌っ」
「いいでしょう。余りに酷いとアデル様に言いつけますから」
これは私が最初にプラム様と出会った後、貿易商人の娘という者の別邸で
お世話になっている頃に耳にした事なのだが、どうやらプラム様はアデル様の
存在に気付いてから、まるで親の様に慕っていると云う。なのでアデル様に対
して特別絶対的な感情を持っていて、ララ様との接し方とは少し違う所がある。
”例えるならアデル様が父、ララ様が母の様な。ララ様には口答えしたり
言いつけを聞かない場合もあるが、アデル様だと態度が豹変”
就寝中はアデル様の腕を絶対に離さず、眠る時もきちんと挨拶をする。
そういう経緯もあってララ様の言う事を聞かず、勝手に行動しそうな場合に
アデル様という防波堤並みの屈強なカードを口にするのだ。
「むー、リッティはいつも意地悪なことするー」
「私達に心配される様な事をしなければ、言うつもりは有りません。
では、ララ様。道中、お気をつけ下さい」
ぶーぶー文句を言ってくるプラム様を尻目に、そそくさと外出の為に
ララ様に挨拶をした後、プラム様の頭に飾られているある宝石の中へと入って
行った。アリッサ様やアンベルからどこでも肉球と呼ばれているが、あながち
間違ってはいない。迫る脅威から主をお護りするのが、私の務めなのだから。
◇
ーアカデミー入り口ー
アカデミーに関して私の知っている事は、およそ数百年前にココより
離れた地で、教育機関や研究機関といった、専門に学ぶ学術団体があった事だ。
ララ様も同じく、資料などからその存在を知ってはいた様で、建設する構想
をしていたものの、プラム様達の事が引き金となって元保育院であった場所に
初等教育からスキルの初歩、各ギルドとの連携、手に職を持たせる為に様々な
ユニオンから個人まで、指導者や教育者を募り、本格的な運営の前に略式とし
て現在、アカデミーに通えるのはプラム様を含めた少数の子供達のみ。
”少数とはいっても、おそらく数百人はおるだろう。なにせ元が大きな
保育院で当時から数千人の子供達が居たのだ。ここに通う子供の数だと
今は少数になるが、本格的な運営が始まると、どうなるか・・・”
「おはようございます。あ、プラムちゃん。おはよう」
「おはようなのじゃ。おお、その手にしてるのが言うておった友達じゃな」
「おはよー。お兄ちゃん、みずも。そうだよー、あれ?みずくはー?」
そんな事を考えながら額にある宝石から様子を伺っていたら、リシュと呼ば
れる少年が挨拶をしていた。何回も見かけた事があり、別邸の頃からプラム様
と知り合いの様で、何でも最初に出会った仲だと云う。みずもというのは妹な
のか良く分からないが、一緒に居るのだから兄妹なのだろう。
「まだ見ておらんの。アヤツは朝に弱い、今日も遅刻じゃな」
「あの頃から全然変わってないのね。悪知恵が働く所も、さあ中へ
入りましょう。プラム、夕方前に迎えに来るから」
「はーい。これ見せるといいんでしょー?」
「付けておくだけで大丈夫よ。それを見た人がココの生徒だと分かる様に
したもので、アカデミーを象徴する紋章なのよ」
「ふーん。じゃあ、街で迷ってもココに通っているって分かるんだー」
プラム様の問い掛けにみずもという女の子が答えているのだが、やたら事
情に通じているからに、みずくと幼馴染?なのかも知れない。
これまでにもアカデミー内で、何度か見かけていて気性の荒い感じがする
男の子だ。私の頃だとやんちゃ坊主、わんぱく小僧等と例えていた。
「リシュ、アリッサ達は?昨日、戻って来たの?」
「ええ、リリィの所に泊っていると聞きました」
「そう、だからなのね。ティアナに会ったら、明日はユニオンに顔を出すと
伝えて頂戴。じゃあ、行くわね。きちんと学ぶのよ」
「みずも様、俺も行きますね。迎えに来るので消えるのはナシで」
アリッサ様の動向をララ様も気にしておられたのか、リシュに聞いている。
そういえば、いま口にしたリリィという少女もプラム様と初めて出会った時に
居たと耳にした。アリッサ様「達」というと数名でお泊り会。それで昨日戻ら
れなかったのか。アイスクリームを隠すのに好都合だったのだが
”今日は帰って来られる・・・”
「さて行くかの。プラム、その子を貸してくぬか。まだ挨拶もしておらんの
でな。中々見ない作りの子じゃ」
「いいよー。この子、お姉ちゃんが指輪と交換してくれたんだー」
「指輪とかえ。うちはみずもと云う。初に目にかかるの、メアリーベル」
「え?何でわかったの?まだ渡してもないのにー」
隠したアイスクリームの事を考えていたら、みずもとプラム様が何やら
話していて、人形の名前の様なモノをみずもが口にした途端、プラム様が驚い
ている。私は良く見ていなかったのだが、確かに人形はまだプラム様の手にあ
り、距離的に何故なのか不思議がっているというか、名前があったとは。
「いやなに、不思議そうな目をしておるが、うちにも特殊な力があっての。
ちょっとばかり話しをておった。プラムが一緒に居てくれて嬉しいそうじゃ」
「へぇ、そういえば宙に浮いてたのを見た事があるー。私と同じなのかな?」
「プラムも浮けるのかえ。まあ、うちと同じなのかも知れんの」
みずもの事を不思議そうな目で見つめているプラム様にみずもが特殊な力を
持っていると話しているが、なんと!あの幼さで飛翔魔法を取得しておるとい
うのか。これまでそういった魔法を使えるお友達がいなかったので、浮遊や転
移、透化なさるのをお控えになられていた。しかし、同じ境遇のお友達が出来
た事で、プラム様に心境の変化が起きなければいいのだが・・・。
「だったらいいなー。でもほとんどの友達が魔法を使わないから、
みずもも気をつけてねー。私もみんなが使わないからやめたんだ」
「う、うむ。確かにそうじゃの。お互い、みんなが魔法を覚えるまで
そういった力を自重する事にしようぞ。それなら良いじゃろう」
「うん。何だか分からないけど、みんなが使える様になったら使おうね。
あ、ごめん。この子を渡すの忘れてた」
おお、良かった。プラム様は遊んでいる時にみんなが魔法を使わないので
自分も使わないと約束してくれた。みずもに対してそれを口にしたのは意外
ではあるが、プラム様なりに心配なさっておるのだろう。
それにしても、やたら言葉使いに特徴がある。このくらいの年齢でああい
った言い回しが出てくるのが奇妙だが、誰かの影響なのかも知れない。
◇
ーアカデミー内、お昼休み中ー
この施設の仕組みがどうなっているのか、私は聞かされていないのだけど
昼食時は別の場所に移動して、用意された部屋で頂く事になっている。
それと学び舎は「年齢?」別になっている様で、プラム様と同じくらい幼
い子達が数十人単位で別々の教室で、一緒にお勉強をしていた。
”やはり何かオカシイ。他の子供達も、あの人形と普通に話している”
プラム様とみずもに特殊な力があるからそうだと、自分に言い聞かせる様に
していたのだが、他の子供達もだと、そういうワケではない理由がある。
私がここまで驚きを隠せないのは「私自身がいわゆる悪霊、アンデッド系」
と呼ばれる魔物側の立場だからなのだ。不死を極める為に自分で不死化した。
故に、あの人形がそれに由来するモノであるのなら、私に分からないハズは
ない。それが・・・霊的なモノとち・が・う、だと!
”一体どうなっておるのだ。私に悟られず、霊力を使うのは不可能”
さすがにワケが分からなくなってきた。子供達だけに見えて喋れる友達。
そんな存在がいるというのか、バカな!
”いや待て、落ち着くのだ。私だって生前は人間、自分の子供の頃を・・・”
ダメだったーっ。もう数百年前の事で記憶すらない!というか生前が過酷
過ぎて、思い出したくもない。本名を捨てたあの時に、私は死んだのだ。
そして死を超えてあの方をお護りする為に歩んで来た。死を超えて歩む者。
”いかん、センチになってる場合ではない。どこかに必ず突破口がある。
その秘密を探さなければ、そういえば元はアリッサ様の・・・”
諦めよう、そう思えた瞬間だった。あの超絶問題児アリッサ様のなら
何が起こっても不思議ではない。なんなら自分の知らない間に、自分自身の
思念体が乗り移って、別人格としてあの人形に存在しているのかも。
”そうだとしたら私には見えぬ。純粋であるが故、子供だけに見えるお友達”