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【 僕らの日常 】  2.5(未公開)章へ

そうたが実家に戻ってから早数か月。

僕らは入学当初のようないつも通りの生活を送っていた。


キーンコーンカーンコーン

キーンコーンカーンコーーーン。



「では今日はここまで。今日の講義内容は特に大事な部分です。各自しっかり復習しておくうように!」


全クラス合同の座学の講義。

3階分の天井高をもつ階段教室の一番下で教授がしきりに声を張った。



「やっと終わったぁ~!!」

「座学は長いよな。腰が痛くてたまんねぇ」


授業が終わるなり大きな伸びをする賢治と井上。



「相当お疲れのようだな。たいして集中もしてないくせに」

僕はいつものように嫌味を言った。


階段教室は例えるなら競技場やコンサート会場のように高低差のある階段状の構造を持つ教室のこと。

講義をする先生を僕らは覗き込むように見下ろしながら講義を受ける。


そしてプライバシーポリシーを保護する構造上、下にいる先生からは机が邪魔をして生徒の手元は全く見えない。

それをいいことに賢治はファッション誌をチラ読み、井上は眠気覚ましと言って携帯で麻雀ゲームをしていたのだ。



「あはは、賢ちゃんといのさんは肝が据わってるよね。見回りの先生に見つかるんじゃないかってこっちの方がハラハラしちゃう」

授業中にマスカラでも塗りなおしたのだろうか。

後ろの席の三田さんがそう言ってバサバサのまつ毛を強調するかのようにのぞき込んだ。



「ほんとドキドキだよ。それから今日の授業の後半は間違いなくテストに出るからちゃんとチェックしといた方がいいと思うよ」

三田さんとは対照的なおしとやかな雰囲気。

クスクスと笑いながら春花は優しくそう言った。



確かに今日の内容は確実にテストに出るだろう。

こんな奴らにまで気を遣って、なんて春花は優しいんだろう。


「ま、テストで苦労するのはお前らだ。テスト前だけ泣きついてきても俺は面倒はみねーからな!」


今のうちに少しは懲りた方がいい。

そういう意味も込めてわざと突放すように僕は意地悪を言った。


「えぇ~、翔ちゃんのいけずぅ~」

いつものようにクネクネと体をくねらせながら甘えるように絡みついてくる賢治。


「い、一応講義は聞いてたよ……」

「本当かぁ?」


自信なさげな井上の声のトーン。

無駄に泳ぐ視線。

まったくもって怪しいものだ。


賢治のやつは驚くべき記憶力の持ち主なのでテストに関しては無問題もーまんたい 。

ひとまずおいておくとして、問題は井上だ。


井上はこの中で一番年上でお兄さんぶるのだが、一番成績が悪い問題児。

一年次の初回の中間テストでは13教科中半分以上を落としたほどだ。


「本当だって。それに授業が長すぎるのが悪いんだよ。人間そんなに連続して集中力もたねーし」

自分の行動を棚に上げ開き直る井上。



でも確かに一限(一コマ)90分はかなり長い。


人間の集中力の限界は約50分といわれている。

だからこそ高校生までの授業がそこに合わされているのだが、15分単位で集中力の波があることから


15分×6=90分

大学の講義時間も一応考えられてはいるのだろう。


「より効率を上げるための自主的休憩ってことだよ、うん」

「そうそう、ちょっと一息いれると違うんだよねぇ~」

井上に賢治まで便乗だ。


「そんなのただの言い訳だろっ」




こうしていつものようにあーじゃないこーじゃない言い合いながら僕らは階段教室を後にした。




「じゃぁまた後で」

「フェルマでね~!」


大学の講義棟を出ると、そう言って僕らは自然と解散する。



講義が終われば僕はいつものようにフェルマ(僕の叔父、ジョージが営む大学病院横の古びたカフェ)に向かい、店を手伝う。

井上は麻雀をしに相変わらずいつもの雀荘へ直行だ。

三田さんは部活、春花はいつものように図書館で医学書を読み漁る。

賢治の奴は相変わらずのマイペース。

最近は寮で仲良くなった先輩にギターを教えてもらうんだと日々練習に励んでいるようだ。


それぞれの趣味趣向。

でも決まって夕飯時になるとみんなフェルマの二階に集まってくるのだ。



色濃い友人たちとのいつもの日常。

6年という長い長い学生生活に何かしらの変化やトラブルはもちろん僕らだって想定していた。


でもまさかこんな様々なトラブルに巻き込まれていくなんて誰が予想できただろう。


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