【 リハビリの日々 】
目覚めてから数カ月。
そうたは本格的なリハビリが始まった。
抗NMDA受容体抗体脳症。
リハビリには根気強く続けていくことが必要だった。
リハビリには歩行を含む身体的な訓練以外にも、社会生活に戻るための記憶や精神的な専門的トレーニング、コミュニケーションのトレーニングなども行われていた。
懸命にリハビリに励むそうた。
プロサッカー選手を目指し鍛え上げてきた体。
体力は落ちているものの、そのことが機能の回復を手伝っているのかもしれない、そうリハビリの担当の人たちは口を揃えた。
でも集中力がなく、思ったことをすぐ口にしたり、突然大きな声を出したり。
思うようにいかないとすぐ感情的になったり。
この頃のそうたは落ち着きのない子供のようだった。
気を紛らわそうとあの手この手で気を引こうとしたが手をつけられないくらい騒ぎ立てることもあった。
バンッ! バンッ!
ガシャン! ガシャンっ!
思い通りにいかない時、周りにあるものを叩いてはよく大きな音をたてるそうた。
でも一生懸命理解しようとしたり、我慢しようと頑張っているのだろう。
「ゔゔぅぅぅぅ……」
そんな時そうたはよく唸っていた。
そして無理に脳を動かそうとして疲れてしまうのか、そんな後はぐったりと横になることが多かった。
そうたは春花には特にわがままを言っていた。
「少しずつ回復していているってことだよね……」
春花は自分に言い聞かせるようにいつもそう口にした。
僕らが一緒にいられるのはお見舞いに来るわずかな時間だけ。
いつもそばで寄り添う春花や家族の苦労は僕らにはとても計り知れなかった。
そうたは僕らと同い年。
今年で二十歳。
痩せ細っていても背も大きく力も強い。
大の大人が子供のように暴れたらどれほどのものか。
そうたは身長も体格も僕とさほど変わらない。
体は大人、中身は子供。
病気によって急激に捻じ曲げられた時間軸が徐々に戻っていく。
そんな感覚だった。
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次話 8月14日更新予定
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