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【 桜の魔法 】

4月。

そうたが春花を思い出さぬまま、あっという間に桜咲く季節が訪れた。


「そうちゃん、桜が満開だよ。みんなでお花見しに行こうか」

そういって僕らは車イスでそうたを病室から連れ出した。




場所はフェルマの前のいつもの桜並木。




溢れんばかりの桜がやさしく風に揺れていた。


この日の空は抜けるようなとても青い空だった。





「うわぁ~きれい! 賢ちゃん、写真撮ってぇ!」

「あかねちゃん待ってよぉ~」


「俺が撮ってやろうか? 向こうの方がきれいだぞ」


井上はなんだかんだ言ってやはり面倒見がいい。

三田さんと賢治のツーショット写真を携帯で熱心に撮ってあげていた。





僕と春花はそうたの車椅子を押しながら神木の前にやってきた。



「そうちゃん、これは特別な桜なんだよ。真冬に咲いた奇跡の桜なの」


それは春花がずっと祈り続けてきた桜―――。

春花はきっとそうたにこの桜を見せたかったんだ。



冬に咲かなかった花芽なのだろう。

ご神木にはつつましく、控えめに桜の花が開いていた。



ご神木の桜の花を一つ一つ確かめるように眺めるそうた。


春花はひざまずき、そうたと一緒にご神木を見つめた。



「ねぇ、そうちゃん、桜の花には魔法の力があるんだよ。手の中に満開の桜から花びらが舞い降りてきたら、その人の願いが叶うんだって。願いが叶う、桜の魔法……」



それは春花が思い起こすように、優しくそう言った時だった。


「さ、くら……?」


そうたは驚いたように目を見開いて突然桜に手を伸ばしたんだ。




そうたの反応に僕は前のめりになった。


「そうた、桜だよ。そうたは春花と一緒に二人で見に行こうって約束していたんだよ」



何か思い出したのかもしれない、直感的にそう思った。



「さく、ら……、まほう……」

桜を見上げてつぶやいたそうた。



「そうちゃん、私と二人で一緒に桜を見行こうって、桜の約束……、覚えて……る……?」

そうたの顔を覗き込んだ春花。



そうたは視線を下ろすと春花を見つめ、なぜか突然、にっこりと笑ったんだ。





「そう……ちゃん……?」


それはとても朗らかな優しい笑顔だった。

そして、それは次の瞬間だった。


「……はう(る)か……」


そうたが優しい声で、静かに春花を呼んだんだ。




「そうちゃん? 私のこと……わかる……の?」


ぎこちなく、でも彼はしっかりとうなずいたんだ。




それは、そうたが春花のことを思い出した瞬間だった。




「よかった……、よかったぁ……っ」


春花の目に見る見るうちにたまっていった大粒の涙。

溢れた涙は頬を流れたそうたの腕にポタポタと落ちていった。


 

「なきむし……」


そう言うとそうたはニヤッと笑ったんだ。




いたずらっ子でお調子者、いつも春花に聞いていたそうたらしい一面を僕は垣間見た気がした。



嬉しさと安堵。

我慢していた思いを吐き出すかのように春花は泣きじゃくった。





春の光に包まれて、優しく花びらが舞い降りる――――――。


心穏やかになる光景に僕の胸は優しい優しい温かな気持ちに満ちていた。



離れていた心の距離を埋めていく二人の姿。

春花の目には、今この桜はどんなふうに見えているだろう?



僕は少し離れて、桜降り注ぐ二人の姿にカメラのシャッターを切ったんだ。


僕の目には二人を包み込む桜が、優しくきらめいて見えていた。




「おい翔、こんなところで何してんだよ」

いつの間にか僕のそばに戻ってきていた三人。


「ねぇねぇ、春花ちゃん泣いてない?どうしたの……?」

泣きじゃくる春花の姿に驚いた三人。


「翔君、もしかして、もしかして……」


言葉にならない三田さんの声。

僕は彼女の問いににっこり笑ってうなずいた。


そうた君が春花のことを思い出したことを知り三田さんは大泣きだ。


「しばらく二人にしておこう……」

そういって僕らはしばらくそっと二人のことを見守った。



ご覧いただきありがとうございます。


また、誤字報告をくださった皆さま、ありがとうございます。




ブックマークや評価、感想を頂けますと励みになりますので、どうぞよろしくお願いします.。.:*☆




次話【 リハビリの日々 】 7月31日更新予定




隔週水曜日 お昼の12時更新予定です。




AR.冴羽ゆうきHPから "糸倉翔の撮った写真" としての冴羽ゆうきの写真も見られます!


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ご興味のある方はぜひご覧ください☆




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