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【 目覚め 】

数日後、僕らは春花と共にそうた君の病室に駆け込んだ。





それはちょうどみんなでそうた君のお見舞いに病棟を訪れた時のことだった。



病棟階でエレベーターを降りた僕ら。


「春花ちゃん……っ、丁度よかった!」

春花の姿を見るなりひとりの看護師さんが慌てて駆け寄ってきたのだ。


それは僕がそうた君のことを知らされたあの日に春花にタオルを貸してくれた看護師さんだった。



「そうた君が目を覚ましたのよ!」

「えっ……。そ、そうちゃんが?」




ドクドクドクドクドクドクドクドク―――――っ。


急激に早まる鼓動。

一気に体温も上がっていく。


突然のことに、春花の言葉は半分裏返っていた。





春花は走った。

前のめりなって春花は必死に病室へ向かって走り出した。


僕らも走った。

彼女のあとを追ってドタバタと病室へ走った。



それは前触れもなく突然だった。


半年以上昏睡状態だったそうたが目を覚ましたのだ。







意識レベルは? 

脳炎の影響は? 

話しは出来るのか――? 


ドクドクドクドクドクドクドクドク―――――っ。

待ち続けていた分、余計に気持ちが焦っていく。




ガラガラガラっ! 


ノックをするのも忘れて勢いよくドアを開けた春花。

「そうちゃんっ!!」




「そうちゃん……っ」


駆け寄る春花。

そうた君の目はぱっちりしっかりと開いていた。





「そうちゃん、春花だよ……っ。そうちゃん……、わかる?」

込み上げる気持ちを抑えながらそうた君に春花はゆっくりと声をかけた。


目覚めたばかりの彼は、まるで生まれたばかりの赤ん坊のよう。

口をポカンと開け、目の前の春花の顔をゆっくりと目で追うばかり。



彼の口から言葉は出ない。

理解できているかもわからない。


でも見開くようにしっかりと、自分の意思で春花の姿を目で追っていた。



「よかった…、本当によかった……」

春花を心配しずっと支えてきた三田さんの目には涙がたまっていた。


僕と井上と賢治の3人はお互いに目を見合わせ、うなずいた。

嬉しそうにする春花の姿に僕らはみんな、安堵したんだ。





看護師さんから連絡があったのだろう。

後から須藤先生も駆け付けた。


「そうた……、そうた……っ」

先生は何度も名前を呼んではそうた君の頭をなでていた。







「みんなも、ありがとう」

先生はその後、病室を出てから僕らに言った。



「そうたは今、産まれたばかりの赤ん坊みたいなものだ。産まれ直した状態と言ってもいいかもしれない。小さな子供のように少しずつ周囲の情報を吸収し理解して、毎日少しずつ少しずつ変わっていくと思う。そうたはこれから長い長いリハビリの中で自分を取り戻していくちゃいけないんだ」


しばらくはとにかくひたすらに見守っるしかないということ。


それでも先生は冷静ながらも以前より穏やかな表情をしているように僕には見えた。





そうた君の病室にはいつも笑顔にあふれたたくさんの写真が飾られていた。

その中で元気に笑う彼は、僕らと同じ青春を謳歌する青年だ。


高校のクラブではリーダー的な存在だったという。

男の僕から見てもスポーツマンタイプで爽やかな彼はとてもいい男だった。


春花より頭一つ背の高いそうた君。

ユニフォーム姿で春花の頭に腕をのせ、仲睦まじそうにじゃれう合二人の姿がそこにはあった。




でも長い闘病生活ですっかり変わってしまった今の彼はまるで別人だ。

日焼けがとれた青白い肌。


治療のせいでむくんだ顔。

トレーニング鍛え上げた引き締まった体は痩せこけ、手足の筋肉はひどく委縮してしまっていた。




目覚め。

それはそうた君の長い闘いの日々の始まりでもあるということなのだ。





その後、そうた君は須藤先生が言うように、少しずつ手繰りするように変わっていった。


筋力の低下や筋肉の萎縮からまだ体は自由に動かせない。

でもよく相槌をうったり、声を出して一生懸命何かを伝えようとしていた。

鼻についた経鼻栄養補給用のチューブが取れ口からご飯も食べられるようになると、顔色もよくなり体力も少しずつついていった。






そして目覚めてから数週間がたった頃だった。


「そうた、なぁに?」

いつも病室にはそうた君のお母さんが付き添っていた。


口を動かそうとする仕草。

それを見つけると、そうた君のお母さんは顔を覗き込んで口元に耳を近づけた。


「……あっ……、あぁ…………、(か)ぁ……さん…………」


それは何とか絞り出すような精一杯の声……。

彼は間違いなく〝かあさん〟と言ったんだ。




「そうたっ、わかるの? お母さんの事、わかるのねっ?」


そうた君のお母さんは必死に我が子を力いっぱい抱きしめた。 





そうた君の止まっていた歯車。

それはゆっくりだが着実に動き出していた。



その光景に僕らの胸のあたりもじわっと熱くなったのだった。

ご覧いただきありがとうございます。

また、誤字報告をくださった皆さま、ありがとうございます。


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次話【 まだらな記憶 】 


毎週水曜日 お昼の12時更新予定です。


AR.冴羽ゆうきHPから "糸倉翔の撮った写真" としての冴羽ゆうきの写真も見られます!

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ご興味のある方はぜひご覧ください☆


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コピペ願います!(AR.冴羽ゆうきHP にてHPを検索!)

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