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【 ジョリ―ジョリー 】


僕はその日の夜、店を手伝いながら遅くまでフェルマに残っていた。

閉店後に須藤先生がジョージに会いに来ることになっていたのだ。


カランカラン。

しばらくすると須藤先生がやってきた。


「マスター、この度は母のこと、本当にありがとうございました。僕らでは母をあんな風に支えてやることはできませんでしたので」

そう言うと先生はジョージに深々と頭を下げた。


事故から半年以上も続いている弟の昏睡状態。


病院では見ることのない先生の表情がそこにはあった。



「いやいや、たいしたことはしてないよ。でも少し落ち着いたようでよかった。俺たちには医学のことはわからんが、もし何かればあればいつでも相談してよ。話くらいいつでも聞くからさ」


それはいつもふざけてばかりのジョージからはとても想像もできない、とても真剣で優しく温かい言葉だった。




「……っ、……っ、……はぃ……っ」

先生の目からこぼれ落ちる涙。


家族としての想い。

そして一人の医師としての想い。


先生はどれだけ複雑な想いを溜めこんできたのだろう。



返事をするのもやっとなくらい、先生は泣いていた。



「泣けるときには思いっきり泣いた方がいい。いくらでも付き合うから。泣いて、泣いて、気が済むまで泣いたらいいさ……」

ジョージは慰めるように先生の肩に手を回していた。 


しばらくしてジョージは僕に手招きをした。

二人のそばに行くと、ジョージはもう一方の手で僕の肩にも手を回したんだ。


肩を寄せ合い小さな円陣を組むように頭を向かい合わせた僕ら。


「……っ、……っ」

近くなった先生の息づかいにますます僕は胸が押しつぶされるような思いがした。



「先生にだってたまには息抜きも必要だ。いつでもフェルマ(ここ)に来たらいい。時にはみんなで騒いだり笑ったり、そんなことをしたって罰は当たらないさ」


「……はぃ……っ、ありがとうございます……っ」




僕はジョージの言う通りだと思った。

泣けるときには思いっきり泣いたらいい。


毅然とした態度の裏側で先生はずっと抱え込んできたに違いなかった。





そしてそのまましばらく先生と肩を寄せ合っていた僕ら。


異様に密な近い距離感。

それは発動するにもってこいの状況。



先生がひとしきり泣いて少し落ち着いてきたころ、ついにその時はやってきたのだ。

後から考えてみればそれは "いつものお約束" だったのかもしれない。




「でもまぁ、騒ぐなら派手に騒げだ! 特に男同士の時はなっ!!」

急にいつもの大きな声に戻ったジョージ。



突然の切り替えに驚いた僕。


「えっ?まさか……」 

気づいた瞬間、僕はとっさにヤバイと思った。



ジョージは突然ニカ――っと嬉しそうに笑うと、肩に回していた腕にギュっと力を入れたんだ。

だがもう遅かった。


がっちりとホールドされた体。


「え…?……えっ? 」

その状況に困惑する先生。


ジョージにしては珍しく真剣な話しに真面目な表情。

須藤先生を優しく励ますその心遣い……。


僕は完全に油断していたんだ!




「あぁぁ……、まさかだよな。ジョージ、タイム! ちょっと待った―――!」 


僕がそう言った次の瞬間……。



「うっ、うわ―――――っ!」

「イデデデデデデ―――――っ!!」


先生と僕はほぼ同時に叫んでいた。


頬っぺに走った針を刺したような鋭い痛み。

それも、大量、激痛、広範囲!! 



ジョリジョリジョリジョリジョリジョリ―――――っ!


それは夜になって伸びてきた短いジョージの硬いヒゲっ!!! 



ジョージは自分の頬に僕らの頬を擦り付けたんだ!


もうジョリジョリでチックチクで、痛い痛い! 


「ジョージっ、バカ! やめろって―――っ!!!!」




そんな僕らの抵抗も虚しく遂行されたジョージのスキンシップ。


そしてしばらくしてようやく解放された僕と須藤先生の隣りにはやり切ったと言わんばかりのすがすがしい顔のジョージがいた。



「せ、先生……、ほ、本当にすみません……。こんな叔父で……、ほんとすみません……っ」

僕は先生に平謝りだ。


先生は驚きのあまり完全に放心状態。

肩で息をするくらい呼吸は乱れていた。


「……クククっ、あははははははっ! これかぁ! これが春花ちゃんが言ってたフェルマータ!」


ようやく状況をのみ込めたたのだろう。

先生は泣きながら腹を抱えて笑っていた。


「ほんと奇想天外、面白くって温かい!」

痛みがとれないのか、先生は笑いながら髭を擦りつけられた頬をなでていた。



どうやら春花は先生に会う度にフェルマのことを話していたという。

嬉しいことに、大好きなかけがえのない自分の居場所だと春花は言っていたそうだ。




その後、僕とジョージは先生に腕によりをかけた料理を振舞った。



僕らが何かしたところでそうた君の厳しい状況は変わらない。

でもジョージのおかげで俯いていた先生の顔が少し上を向いたように僕は思った。

ご覧いただきありがとうございます。

また、誤字報告をくださった皆さま、ありがとうございます。


ブックマークや評価、感想を頂けますと励みになりますので、どうぞよろしくお願いします.。.:*☆


次話【 何もできないわけじゃない 】 


毎週水曜日 お昼の12時更新予定です。


AR.冴羽ゆうきHPから "糸倉翔の撮った写真" としての冴羽ゆうきの写真も見られます!

HPからTwitter / Instagramへも!

ご興味のある方はぜひご覧ください☆


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コピペ願います!(AR.冴羽ゆうきHP にてHPを検索!)

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