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【 黙っていて、ごめんなさい 】

春花が落ち着きを取り戻した後、僕は彼女が進むままについていった。



非常階段を上りゆっくりと病院の中へ入った僕ら。

診療を終え、警備や事務の人がチラホラ見えるだけだった。


いったいどこ行こうとしてるのか。

春花はずっと黙ったまま。

沈黙があいまって僕の不安は増していく。




エレベ―タ―に乗ると彼女の指が押した階は一般病棟。


面会時間はとうに過ぎていた。

それでも慣れたように彼女はナ―スステ―ションの前を通っていく。




「春花ちゃんどうしたの?なんでこんなに濡れてるの?」


雪で濡れた体。

泣き腫らして疲れきった彼女の姿。



駆け寄った看護師さんはさっと彼女にタオルをかけた。


彼女がこの病棟に通っているのは間違いない。

どの看護師さんも彼女のことをよく知っているようだった。


「ありがとうございます……」

彼女は力なく、それでいて礼儀正しくお礼を言った。


「須藤先生に連絡しましょう」

こそこそっと小さな声で話す看護師さん達の声が僕の耳には届いていた。





早い夕食の時間も終わり静かに落ち着いた病棟。


静けさに溶け込むように春花は病棟の奥に進んでいく。

わき目もふらず、一直線に。




彼女が足を止めたその病室には名前が書かれていなかった。


コン、コン、コン。


ドアのノックの音に中からの反応はない。



ガラガラガラ……。

慣れたように春花はゆっくりと病室のドアを開けていく。



薄暗い病室。

窓からは電灯に照らされ、チラチラと降り続く白い雪が見えていた。



静けさと強い消毒液の臭いがさらに不安をかきたてる。




奥に進むと仕切りのカーテンの奥に点滴につながれた男性がベットに横たわっていた。


僕らと同じくらいの歳か? 

ドクンドクンと自分の心臓の音が、嫌にうるさく耳に響いていく。




ベッドの横には点滅するモニターのランプ。

安定した心電図の波形、落ち着いた心拍数。

細く痩せた彼は顔の周りにはくさんのコードやチューブがつけられていた。





この病院にずっと入院しているのか?

怪我? 

それとも……病気?



ベッドの上に書かれた名前を見て、僕はハッとした。



『須藤そうた 様』


ドックン――――っ。

僕の体は全身で脈を打ったんだ。




須藤……そうた? 


急に須藤先生の顔が頭に浮かんだんだ。



須藤 そうた。

須藤 将太しょうた先生。




窓際のソファ―にはサッカ―ボ―ル。

写真立てにはこんがりと日焼けしたユニフォーム姿の彼と春花の写真。

そこにはじゃれ合うように笑い合う二人の姿が写っていた。


須藤先生にとっての妹みたいな存在……。




ドクドクドクドクドクドクドクドクっ。

心臓の音が波打っていく。  


サッカーが大好きな男の子。

彼が、春花の、幼馴染――――?



「ねぇ、そうちゃん……。友達の翔君だよ」

彼女はベッドの横でかがみこむと、静かに話しかけながら彼の手をゆっくりさすった。


彼は全く反応をしない。



「そうちゃんっ……、春花だよぉ……」

絞りだすような、切ない切ない彼女の言葉……。


「……っ」

胸が、喉が、ギュ――っと締め上げられる。

まるで心臓を鷲掴みにされたようだった。



「そうちゃんはサッカ―が大好きで、絶対プロになるんだって、張り切ってたの……」


言葉に乗って彼女の必死な感情が押し寄せる――――。



「幼馴染なの。川で溺れて……、一命はとりとめたけど……、それからずっと、意識が戻らない……」



「…………っ」

頭を強く殴られたような衝撃だった。

呼吸が震え、まともに息をすることすらできない。



カァ――っと立ち上るように、頭の脳の細胞が一気に強い熱を帯びていく。




彼女の目には今にもこぼれ落ちそうな大きな涙がたまっていた。


「翔君、この人が……、私の、好きな人…………っ」

声を裏返しながら絞り出すように言った彼女の言葉に、僕はもう限界だった。


「う……っ、うう――――――っ」

必死で口元を抑えが止めることはできなかった。

切ない感情が溢れ出す―――。


春花が僕たちに言えなかったこと。

一人でずっと悩み、苦しんでいたこと。



幼馴染の男の子。

遠くにいる……想い人。

ずっと、ずっと……、好きだった人――――。





「ううっ、う――――っ……」

二人の前で泣くべきじゃないことなんてわかっていた。

でも、止めることができなかった。






僕の脳裏には色んな彼女の表情が浮かんでいった。



みんなで笑い合う笑顔、怒った顔や悔しがる顔。

恥ずかしそうにする顔やたまに見せる得意げな顔。



どんな時も、いつもずっと悩んでいたんだ。



ふと見せる寂しそうな表情――――。

彼女の中にはどんな時も彼がいたんだ。





彼女と仲良くなってから僕は少し得意になっていた。


誰よりもたくさんの時間を彼女と過ごし傍にいた僕。

もしかしたら、このまま傍にいたら、いつか彼女も振り向いてくれるかもしれない……。

そんな期待がどこかにあった。



ベッドに横たわる彼の姿に、そんな浅はかな、愚かな自分に腹が立った。




泣き崩れた僕の前に彼女はそっと膝をついた。

自分のものとは思いないほどに涙が溢れ出すように流れていく……。


「今まで黙っていてごめんなさい……っ。みんなに黙っていて……っ、ごめんなさい……っ」


彼女の目からも大粒の涙が流れ落ちていった。




「……ありが…とうっ。……聞いてくれて……っ、ありがとう……っ」



「う……っ、う……っ」

僕は泣きながら彼女を抱きしめた。





いつからだろう。

気が付けば僕は桜の下に春花の姿を探すようになっていた。


桜の花は彼女にとっての特別な花。

花びらに秘めた桜の魔法――――。



彼女は桜の花をずっとずっと待ち続けていたんだ。

そうた君のことを強く強く、願いながら――――。



「う……っ、う……っ、う……っ」


僕らの涙は止まることを知らなかった。

どうすることも出来ず、僕らはそのまましばらく泣いた。


ご覧いただきありがとうございます。

また、誤字報告をくださった皆さま、ありがとうございます。


ブックマークや評価、感想を頂けますと励みになりますので、どうぞよろしくお願いします.。.:*☆


次話【 桜の約束 】 


毎週水曜日 お昼の12時更新予定です。


AR.冴羽ゆうきHPから "糸倉翔の撮った写真" としての冴羽ゆうきの写真も見られます!

HPからTwitter / Instagramへも!

ご興味のある方はぜひご覧ください☆


https://sites.google.com/view/saebayuuki/ 


コピペ願います!(AR.冴羽ゆうきHP にてHPを検索!)

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