【 止まらぬ涙 】
ドタドタドタドタっ!
「翔っ! 翔っ!」
しばらくして急に階段の上から転がり落ちてきた井上。
「山峰がメッセ―ジ読んだ! 今携帯見てるぞっ」
彼女の反応があったんだ。
「電話! 電話しろ! 電話っ!」
僕は転げた井上を飛び越え階段を駆け上がった。
2階では携帯で三田さんが山峰さんに必死に話しかけていた。
スピーカーから聞こえるのは山峰さんのすすり泣く声。
「春花、今どこにいるのっ?お願い、答えて……」
三田さんの目には涙が溜まっていた。
『あかね、ごめんっ。……っ、ごめんね……』
かすれるような声で謝り続ける彼女。
「みんな待ってるからお願いだから早く帰ってきてよぉ」
『……っ、うぅぅぅ……っ』
電話の向こうで彼女はひたすら泣き続けていた。
「俺、もう一回外探してくるっ」
僕はたまらずフェルマを飛び出した。
外は吹雪。
降り続く雪で辺りは真っ白だ。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……。
靴に雪が入り寒さで徐々に徐足の感覚が奪われていく。
「山峰さ―ん! 山峰さ―んっ!」
腹の底から何度も叫び続けた。
でもシンシンと降り積もる雪に僕の声はかき消されていく。
電話口から聞こえた救急車のサイレンと反響するガラスの音。
僕は山峰さんの居場所に見当をつけていたんだ。
「山峰さぁ―――んっ! 山峰――――ぇっ!」
それでも彼女は見つからない。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
歩きなれない雪道。
叫びすぎてすでに息は上がっていた。
「くそ、見当違いだったか……」
諦めて戻りかけたその時だった。
ブブブブブブブブ。
振動する携帯。
井上からの着信だった。
「井上どうした? 居場所わかったのか!?」
『翔、お前の声がする!山峰の携帯からお前の声が聞こえるんだよ!』
彼女の携帯から僕の声……
ということは近いのか?
急に体が熱くなった。
「はるか……っ」
自分でも焦っているのがよく分かる。
どこだ? どこにいるんだ?
どんどん荒くなる呼吸。
「はるか……っ、はるかぁ――――ぁっ!!」
僕は声を振り絞った。
病棟の非常階段に続くガラス戸の中……。
じっと目を凝らして僕はハッとした。
薄く曇ったガラス。
積もった雪に遮られてわかりにくいが、小さくうずくまっている人影のようなものが見えたんだ。
「あそこかっ!」
僕は無我夢中で駆け寄った。
ガチャガチャ、ガチャン!
重い非常階段のドアの扉の音が大きく響く。
「はるかっ!」
ようやく見つけた。
彼女はうずくまって泣いていた。
ようやく僕は彼女を見つけたんだ。
「……っ、かける君っ…………」
寒さで震える彼女は弱々しく目は真っ赤に腫れあがっていた。
僕はすぐに持っていた彼女のコ―トと自分のマフラ―を彼女にかぶせた。
「あ……っ、ああ……っ、ああああああ……っ」
僕の顔を見るなり、彼女は堰を切ったように泣き出した。
「はるか、もう大丈夫、もう大丈夫だよ……」
僕は彼女をぎゅっと抱きしめた。
まるで子供のように僕にしがみついて泣きじゃくる彼女。
「痛いところはない? 大丈夫?」
彼女は泣きながらゆっくりと頷いた。
「は―――っ、よかった―――っ」
それは心の底からの安堵。
全身の力が抜けていく。
泣きじゃくる彼女の頭をなでながら、僕はその場に座り込んだんだ。
『お―い、翔―! お―い!』
携帯からかすかに聞こえる井上の声。
「井上、悪い悪い。無事見つけたよ。 大丈夫、怪我もなさそうだ」
『無事だったか! よかったぁ――!』
井上の安堵感がその声からも溢れていた。
「少し落ち着付いたら帰るよ」
井上と話した後、僕はつながったままだった三田さんと春花の二人の携帯の通話を切った。
静けさの中、春花のすすり泣く声が響いていた。
「落ち着こう。ゆっくりでいいから」
僕は繰り返し優しく声をかけた。
「……っ、……っ」
泣き続ける彼女の背中を僕はしばらくさすり続けた。
「みんな心配してるからフェルマに帰ろう。みんな春花のことを待ってるよ」
しばらくして、落ち着いてきた彼女をゆっくり引き起こそうとすると、彼女は首を横に振った。
また思い出したかのように溢れた涙が彼女の頬を流れていった。
閉ざされた空間の中に響き続ける彼女の泣き音。
かたくなに春花は首を振り続けた。
せっかくみんなに話そうと決心したのに春谷にあんなひどいことを言われたんだ。
ズタズタに傷ついていてしまった心。
きっと怖くなっていしまったに違いない、そう僕は思った。
「さっきね……、病棟で須藤先生に会ったんだ」
僕の言葉にビクッと動いた彼女の体。
「何も事情は話してくれなかった。でも春花のこと、すごく心配してたよ」
「う……っ、うううう……、ゔう――――っ」
急に彼女の口から大きな嗚咽が漏れ、大粒の涙が流れ落ちたんだ。
僕は慌ててめいっぱい彼女を抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫だよ」
僕は何度も何度も繰り返した。
そして僕は何度も何度も彼女の髪を撫でた。
こんなになるまで泣いて。
今までずっと一人で悩んできたなんて……。
言いたくても言えなかったのかもしれない。
みんなに言うのが怖かったのかもしれない。
でも、君が言ってくれるのを僕らはみんな待っているんだよ……。
彼女の姿を前に、僕の胸は強い痛みに疼いていた。
「春花は一人じゃないよ。俺も井上も賢治も、大親友の三田さんだっているよ。ジョ―ジも由美さんも、みんなすごく心配してるよ。みんな春花のことを待ってるんだよ」
僕の言葉に彼女は僕の腕を、ギュッと掴みなおした。
「大丈夫、どんなことでも、絶対に受け止めるから。大丈夫、ずっとそばにいるから……」
彼女の手はさらに力強く僕の腕を掴んでいった。
しばらして彼女はか細い声でとぎれとぎれに僕に言った。
「お願いっ、フェルマに帰る前に……っ、翔君にっ、お願いがあるの……っ」
「お願い?」
僕の言葉に彼女はゆっくりとうなずいた。
春花はその後、僕に一緒についてきてほしいところがあると言ったんだ。
みんなが心配するといけないと思った。
だから僕は井上に『もう少し時間がかかる』とだけメッセ―ジを送ったんだ。
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次話【 黙っていて、ごめんなさい 】
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