【 言いがかり ② 】
「やることってなんだよ。山峰が不正したって言いたいのかよ。適当な事言ってんじゃね―ぞ」
興奮した井上はさらに声を荒げ、勢いよく春谷に近づいた。
「おい、井上落ち着けよ」
必死に二人の間に割って入った僕。
井上はいつもは冷静でこんな奴じゃない。
でも今にも殴り掛かりそうな勢いだった。
急に始まった言い合いに教室中がざわめいた。
「はんっ!」
春谷の見下すような目つき。
興奮する井上を見てあからさまに笑ったんだ。
さすがの僕も頭にカ―ッと血が上っていった。
苛立ちにゾワゾワと脳の表面にまで鳥肌が立つ。
「なに笑ってんだよ。根拠でもあんのかぁ?翔どけっ!」
興奮のあまり井上は止める僕を押しのけ、彼の胸ぐらを勢いよく掴んだんだ。
ガタガタンっ!
ドンっ!
ガタガタガタン!
「うっ、いってぇ――っ」
僕は押しのけられた勢いで机に背中を強打。
背中に激しい痛みが走りその場に倒れこんだ。
「か、翔君、大丈夫?」
倒れた僕に駆け寄る山峰さん。
「大丈夫、大したことないよ」
彼女は不安げで今にも泣きそうな表情だった。
ひるむことなく言い続ける春谷。
「お前らが知らないね――だけだろっ。仲良しこよしが笑えるよなっ。みんな言ってるぞ。山峰が内科の須藤先生とデキてるって。結婚の間近のイケメンドクターとな!」
「へ?」
僕らは、訳の分からない予想外の言葉に首を傾げた。
現実味のないその発言に僕らは拍子抜けしたんだ。
今日の授業は3週続く内科担当の基礎医学の授業。
婚約者がいるにもかかわらずその須藤先生と山峰さんが付き合っているとでもいうのだろうか。
どこから出た噂だろう。
現実味のない話だと思った。
「お前、何言ってんだ?」
井上は笑った。
「本当になんも知らねーんだな。俺、昨日の夜も見たんだよな。病院の中庭でそいつが須藤先生ともめてんの。先生と泣きながら抱き合ってるところをなっ」
自信満々にそう言った春谷。
でも山峰さんはそんな言葉に驚いて、うつむいたんだ。
それは明らかな動揺だった。
「え……?」
彼の言葉と彼女の反応に僕らは一瞬で硬直した。
「確かに。このテスト満点とかちょっとありえないよね……」
「嘘―っ、須藤先生って、先週来てたあのカッコイイ先生?」
どこからともなく、山峰さんを疑う声が教室中から聞こえ始めていた。
僕には須藤先生が内科のどの先生なの全くかわからなかった。
彼女が内科の先生と泣きながら抱き合ってた……?
結婚目前の、婚約者のいる先生と……?
呼吸が荒くなり彼女が肩で息をしているのは一目瞭然だった。
目の前の彼女の変化に僕の気持ちはぐらぐらと揺らいだんだ。
ドクドクと全身に強く鼓動が響く。
耐えるように、僕の腕を掴む彼女の手に、ギュ――ッと力が入っていく。
春谷の言い分が全くのデタラメでないことはすぐに察しがついた。
僕の心臓はますます大きく脈を打つ。
彼女は何も言わず、ただうつむいたまま……。
彼女の好きな人。
そういう複雑な理由だったから僕らに話せなかったのか?
ずっと好きだった幼馴染はこの大学の内科の先生?
遠くにいるって言うのは……嘘?
会えないというのはそういう理由……?
一瞬のうちに色んな考えが頭を駆け巡った。
「春花、何があったの?」
三田さんが山峰さんの肩をゆすった。
「私……っ、先生とは……、そんな関係じゃない……」
ますます荒くなる彼女の呼吸。
首を横に振りながら、絞り出すような震えた声で彼女は言いがかりを否定した。
「じゃあ、昨日のあれは何なんだよ!」
強い口調でさらにまくし立て続ける春谷。
「……っ」
山峰さんはその突き刺さるような言い方に、言葉を詰まらせたんだ。
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次話【 揺れる想い 】
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