【 言いがかり ① 】
翌々日、いつものように教室に着くとみんなは朝から疲れた顔をしていた。
あの日、僕が山峰さんを見送った後、みんなにも彼女から連絡があったという。
山峰さんが僕らにずっと黙っていたこと。
勇気がなくでずっと言うことができなかったこと。
彼女が一体何に悩んでいるのか。
今日はそんな山峰さんの話を聞く約束の日だった。
授業が終わったらみんなでフェルマに集まることになっていた。
「おはよ。あれ、山峰さんは?」
教室には彼女の姿だけが見えなかった。
「翔君、おはよ……。春花、具合悪いみたいで午前は休むって」
三田さんは特に元気がない。
山峰さんのことが心配で仕方がないのだろう。
「大丈夫なのかな…」
「本人が大丈夫って言ってても、あいつの大丈夫はあてにならんからな……」
賢治も井上も彼女のことを心配していた。
キ―ンコ―ンカ―ンコ―ン。
昼休み、食堂に行ったがみんなの箸は進まなかった。
「春花、午後の授業は出るって」
携帯をいじりながら三田さんはため息交じりに言った。
「山峰の話って何なんだろうな。体調崩すなんてよっぽどの話しなんだろうな……」
「よっぽどって?」
井上の言葉に不安げに賢治が聞き返す。
「わっかんねぇけど……。家族とか、好きな人に何かあったとか? 事故とか、病気とか、家庭の問題……?」
井上の言葉にみんなは黙ってしまった。
「……もしかしたら、犯罪……とか……」
「いのさんやめてよっ!」
「井上っ!憶測で話すなよっ」
三田さんと僕は瞬発的に怒鳴っていた。
「わ、悪い……」
井上は静かに謝った。
三田さんは不安と心配で今にも泣きだしそうだ。
でももし家族や好きな人が病気だったとしたらどうして僕らに言えなかったんだろう?
犯罪や名誉に関わるようなことであればずっと隠し通そうとするのでは?
ずっとみんなに言おうとしてたとなると、ますますそれはわからなくなった。
彼女が教室に来たのは、午後の授業開始ギリギリ。
なかなか来ない彼女にみんなの心配はピークだった。
「山峰さんっ」
「春花、大丈夫? 本当に大丈夫?」
明らかに具合が悪そうだった。
弱々しく、顔色も悪いしなぜか目も腫れていた。
「うん……、大丈夫」
絞り出すような小さな声。
「なにかあった?」
三田さんの言葉に彼女はゆっくりと首を横に振った。
キ―ンコ―ンカ―ンコ―ン。
午後の授業開始のチャイム。
とりあえず授業が終わればゆっくり話が聞けるんだ。
そう思って僕たちはしぶしぶ席に着いた。
彼女は何とか授業を受けているようだった。
でもいつもならせわしなくメモをとる彼女の手は静かに止まったまま。
待ってほしいと言われた一日に一体何があったんだろう。
弱々しい彼女の姿。
心配で心配で授業どころではなかった。
「はい、では今から前回のテストを返します!」
教壇の上で先生がみんなの解答用紙をヒラつかせた。
「ええ―!」
ざわめく教室。
実は先週のこの時間、突如抜き打ちテストが行われてたんだ。
不合格者は間違えた問題分のレポ―ト提出だ。
「静かにしなさい! 合格者は12名。合格者から名前を呼びます。順番にとりに来なさい」
教室はますますざわめいた。
でも山峰さんは彼女はうつむいたまま反応しなかった。
「満点は山峰一人だけです。みんなも見習うように。山峰、取りに来なさい」
「お―っ!」
教室のあちらこちらから小さな歓声が上がった。
唯一の満点とはさすがだ。
彼女は力なく席を立つとゆっくりと回答用紙を取りに行った。
井上と賢治、三田さんの3人は不合格。
山峰さんと僕以外はみんなレポ―ト提出だ。
キ―ンコ―ンカ―ンコ―ン。
三時限目の授業が終わり四限目までの10分間の中間休み。
「山峰と翔はすげ―な。俺なんてレポ―ト6個だぞ」
わざとげっそりした顔をした井上。
そんな井上に彼女は力なく笑った。
「春花、やっぱり顔色悪いよ。 帰る?」
彼女は本当に真っ青な顔をしていたんだ。
「心配かけてごめんね、でも大丈夫だから……」
それは彼女がそう言ったその時だった。
「すかしてんじゃねーよ。出る問題知ってたくせによぉ」
嫌味な口調。
急に後ろからみんなに聞こえるような大きな声で誰かがそう言ったんだ。
「え…?」
それは明らかに山峰さんに対しての言葉。
僕らはその心無い言葉に驚き、一斉に後ろを振り向いた。
その声の主は春谷紀行。
彼はこの大学の放射線科の助教授の息子だった。
彼は神経質そうな奴でいつも授業の内容にいちゃもんをつけては偉そうにしている奴だった。
「なんだよ、変な言いがかり付けてんじゃね―ぞ?」
意味の分からない言いがかりに、井上が声を荒げガンを飛ばした。
嫌な雰囲気だ。
一気に不愉快な気持ちになる。
「大人しそうな顔して、よくやるよなぁ!」
強気で偉そうに、上からものを言うようなその態度。
明らかな山峰さんに対する敵意。
こいつは一体何を言ってるんだ?
出る問題を知っていた?
彼女が不正したとでもいいたいのだろうか。
弱っている彼女に追い打ちをかけるような威圧的な言葉。
一気に感情が逆なでされる。
嫌にドクドクと鼓動が鳴り響く。
この異様な雰囲気に、僕の心臓はノイズの混じったような不快な音を立てていた。
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次話【 言いがかり ② 】
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