【 みんなの心配 】
初冬が近づき気温は一気に下がっていった。
天気予報によれば今日は観測史上最も早い初雪が降るということだった。
「今年はどうなっちまってんだ? 4月に最も遅い雪が降って、今度は最も早い雪だって? 温暖化が進んでるっていうわりには雪ばっかりだな」
客のいない店内でテレビを見ながらジョ―ジが一人騒いでいた。
でも確かに異常だった。
温暖化といってもただ暖冬になるというような単純なものではないのだろう。
急速な気候変動。
地球がいよいよおかしくなったかと配になってくる。
「ジョージ、ちょっと休憩してくるわ。なんかあったら呼んで」
僕は食器を洗い終えると休憩に入った。
「痛っ」
指先に鋭い痛みが走った。
視線を下すと指先がパックリ割れ、見事なあか切れができていた。
「おー、翔お疲れ」
2階に上がると休憩室で井上と賢治がいつものぬくぬくとようにくつろいでいた。
しばらくすると三田さんが頬を真っ赤に染めてやってきた。
「やほ―!」
「あ、あかねちゃ〜んいらっしゃい! 寒かったでしょ」
急にテンションをあげた賢治。
夏の伊豆バイトで振られてしまった賢治だったがこの二人の仲の良さは健在だ。
仲良くじゃれ合う賢治と三田さん。
でもその横には山峰さんの姿はなかった。
実は少し前に山峰さんのおばあちゃんが怪我で入院しここ最近、彼女は週末になると欠かさず実家に帰っていた。
「ねぇ、最近全然元気ないけど春花ちゃん本当に大丈夫かなぁ?」
みんなそろうなりおもむろに賢治が話し始めた。
山峰さんから聞くにおばあちゃんは手術の経過もよく問題はなさそうだった。
でもそれにしても山峰さんはひどく憔悴しきっていた。
「何か他に心配ごとでもあるのかなぁ?」
「おい翔、お前何か聞いてないのか?」
「別に、なにも聞いてない……」
お前なら何か知ってるんだろ?そういわんばかりの井上の言葉が僕の心に重くのしかかる。
僕も山峰さんのことでずっと悩んでいた。
山峰さんは前みたいに笑わなくなったし、最近すごく疲れているようだった。
授業中も上の空。
いつも一緒に行っていた図書館にもこのフェルマにもまったく彼女は来なくなっていた。
急に人が変わってしまった山峰さん。
僕が何を聞いても彼女は〝なんでもないよ、大丈夫〟そう言うだけだった。
僕が必死に寄り添おうとしても無機質な上辺だけの笑顔で突き放される。
その繰り返し。
強烈な温度差。
彼女との間には混じり合うことのない冷たく分厚い壁が見えるようだった。
「ならあれは? 山峰の好きな人。あれって結局どうなったんだ?」
その井上の言葉にチクリと胸が疼いた。
それは突然いなくなってしまったという山峰さんの幼馴染。
そのことで悩んでいたことはここにいるみんなが知っていた。
「もしかして何かあったのかな……」
その賢治の言葉に三田さんの表情が一気に曇っていった。
「何かあったのかも。急に前の春花に戻っちゃったみたいなんだもん。ううん、前よりもっとひどいかも……」
三田さんの声は震えていた。
「特にここ一週間すごく変だと思う」
「やっぱり翔くんもそう思う? なんで何も言ってくれないんだろう。春花は結局いつもそう。私たちのことはいつも助けてくれるのに私たちは春花に何もしてあげられない……」
三田さんのその絞り出すような声に急にグッと胸が切なる。
「私たちってそんなに頼りないかなぁ……。 悩んでるはずなのになんで何も言ってくれないんだろう……っ」
三田さんの頬にはすーっと涙が流れていった。
「あかねちゃん……」
背中を優しくさすらながら三田さんを慰める賢治。
人にはそれぞれ距離感もあるし、その時々で程よく空気も読む。
でも急に変わってしまった今の山峰さんの態度は僕らへの明らかな〝 拒絶 ″ だった。
彼女への心配で心がまるで重く冷たい鉛のよう。
僕ももう限界だった。
「やっぱり、本人に聞くしかないか……」
みんなの様子を見ながら井上はため息交じりにそう言った。
みんなの気持ちは同じだった。
週明け、実家から戻ってきたらみんなで山峰さんに聞いてみることにした僕ら。
でもみんなの問いかけに彼女は答えてくれるだんだろうか?
その後、僕は忙しくなってきた店を手伝ったが仕事中は上の空だった。
頭の中は彼女のことでいっぱいだった。
「じゃぁ、そろそろ帰るね……」
フェルマの閉店が近づくと、みんなはそれぞれに、足取りも重く帰っていった。
三田さんは目を赤く腫らしとても痛々しかった。
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次話【 雪降る桜並木 】
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