【 惨敗? 】
「おぉ、みんなお帰り!」
別荘に着くと一さんが待ってましたと言わんばかりに僕らを出迎えた。
「うわ、すごい!」
なんとすでに海鮮BBQの用意がされていた。
今朝釣った魚の下処理も終え、刺盛りまで。
海老やホタテ、サザエなども加わり豪華海鮮BBQだ。
「一さんありがとうごさいます!」
海で散々体を動かしたせいで腹ペコなんだろう。
豪華な食材を前にぐんとテンションを上げたのは女の子たちだった。
「いやぁ、なんのなんの」
女の子に囲まれ照れて頭を掻く一さん。
なんとも嬉しそうだ。
「とりあえず先に風呂に入っておいで。さっぱりしてからBBQにしよう」
「はーい!」
海水で体はベトベトだ。
元気よく女の子たちはすぐに風呂に向かって行った。
男どもははしばらくBBQの準備を手伝った。
火を起こし、食器を揃え、食材を庭に運んだ。
でも何をしていても僕の胸はまだ疼いていた。
「一さんありがとう。すごく豪華なBBQだね」
気合を入れて綺麗に盛り付けられた刺身や食材。
見れば楽しみながりも頑張って準備してくれたのは一目瞭然だ。
「こっちこそ別荘を綺麗にしてもらったんだ。これくらいしないとね」
そう言って一さんはとても嬉しそうに笑った。
見るからに美味しそうな豪華な食材。
でも沈む気持ちに、正直食欲なんてまるでない。
悪いとは思ったが、一さんに感謝する反面、僕は少し戸惑っていた。
「おい、賢治!翔〜!風呂あいたから俺らも入ろうぜぇ!」
井上に言われ女の子たちに続き風呂に向かった僕ら。
「う――っ! しみる――っ!」
僕と井上は悲鳴を上げた。
真っ赤日焼けと塩水のせいでお湯の温度に敏感だ。
傷口に塩。
まさにそんな感じだ。
騒ぐ僕と井上。
でもその後ろでしょぼくれる賢治。
「おい賢治、どうした?」
「お前まさか…、もしかして…」
恐る恐る、聞くかどうか迷った僕。
そんな僕を尻目に井上はまさかのド直球。
「告ったのか? 三田に告ったのか!?」
なんというデリカシーの無さ。
井上はズバッと聞いたんだ。
「ゔゔゔゔ――」
顔をくしゃくしゃにする賢治。
ブクブクブクブクっ。
そのまま情けない顔でお湯に顔を沈めた。
「はぁ―、告ったか……」
結果は見ればわかる。
惨敗だ。
僕と井上は静かに首を振った。
「元気出せよ。1回くらい振られたからって終わりじゃないって」
励ますように賢治の肩を叩いく井上。
僕も大きくうなずいた。
僕は思った。
賢治なんてまだいい方だ、と。
だってそうだろう。
山峰さんには好きな人がいるんだ。
告白するまでもなく振られることは決定している。
山峰さんの想いを目の当たりにし僕の心はまさに傷だらけ。
でも確かに告白するには相当な勇気がいったことだろう。
ザバーッ。
でも賢治は勢いよく顔を出すとこう言った。
「う―ん。告ったには告ったんだけど、振られたわけでもわけでも……ないのかなぁ……?」
なんとも歯切れが悪い。
当の本人も首をかしげる始末だ。
つまりはこういうことだった。
6年間の学生生活は非常に長い。
三田さんは、賢治のことは好きだが今はまだみんなで仲良くしていく方がいいのではないかと言ったそうだ。
付き合うということは別れもあるかもしれないということ。
三田さんの返事にはそういうことも含まれていたのかもしれない。
「なるほど、そういうパタ―ンかぁ」
井上と僕はため息を付いた。
つまりは保留。
振られたわけでもないということだ。
相当モヤモヤしている様子の賢治。
「振られたわけじゃなし、いいとこ見せてもっと好きになってもらえばいいんじゃん。そんなガッカリすんなよ」
「そうそう、まだまだ先は長いんだから」
井上も僕も賢治の励まそうと肩を叩いた。
「そうなんだけどさぁ。俺が告った後、あかねちゃんすごく優しくてさ。優しすぎて逆にどうしていいかわからなくなっちゃったんだよね」
情けない顔をする賢治。
踏ん切りもつかなければどれだけ頑張っても付き合えるという保証もない状態。
想う側からすればきつい答えだ。
「賢治のことをちゃんと考えてくれてるってことだよ!」
バシャバシャと井上は賢治に大量のお湯をかけた。
「うわっ、いのさん何すんだよぉ!」
賢治の顔面に勢いよくお湯がかかる。
「井上やめろよ―!!」
そう言って僕もわざと賢治にお湯をかけた。
「二人ともやったなぁ―!」
こうなるともう、全員総出でお湯かけ合戦だ!
僕らはワ―ワ―言いながら大騒ぎ。
風呂の中は立ち上る湯気で真っ白け。
ヒリツク体に上がる体温。
「ヤバイ、のぼせる―!」
慌てて3人は水を頭からかぶり、風呂から上がった。
「なんかちょっと元気出た!俺、諦めないで頑張るね!」
みんなで騒いだせいか、賢治は元気を取り戻していた。
「おう、応援するって!」
以心伝心とはよく言ったもの。
こういう時というのはどうしてこう気持ちが通じてしまうのだろう。
ニヤッと笑う井上。
僕と井上は、示し合わせて……
(せーのっ!)
バッチ――ン!!!
賢治の背中を思いっきりぶっ叩いたんだ。
僕らの渾身の一発だ!
「いぃっでぇ――っ!!!」
痛烈な痛みに脱衣所で転げ回る賢治。
そんな賢治を前に僕と井上は腹を抱えて笑ったんだ。
「あはははははははっ!」
大げさに、これでもかというくらい僕は笑った。
“ 振られたわけじゃない ”
さっきの山峰さんの横顔を思い浮かべながら、僕はその言葉を何度も何度も噛み締めた。
賢治の背中には見る見るうちに二つの手の形。
見事なまでにくっきりと浮かび上がっていった。
「いや〜、見事だな」
満足そうな井上。
「二人とも酷いよぉ〜」
賢治は半分涙目だ。
向かい合わせに浮き上がった真っ赤な手形。
まさにきれいな紅葉だった。
「青春の証ってやつだな。いいから賢治、後ろ向けよ」
素っ裸で男3人。
賢治の告白記念だと言って僕は写真に収めたのだった。
ヒリつく傷口は残っていた。
でも大騒ぎしたせいか僕までさっきよりスッキリしていたんだ。
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次話【 で、翔くんはどうなのよ? 】
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