【 複雑な胸の内 】
「あのさ……。山峰さんの好きな人って……、どんな人なの?」
溢れ出てしまった感情‥‥。
「……、え……?」
僕の突然の問いかけに彼女はとても驚いていた。
それを見て僕は彼女に聞いたことが正しかったのか、すぐに後悔に襲われた。
ドクンドクンと、鈍く響いていく心臓の音。
「あいつはね……、幼馴染なの。お調子者でイタズラ好き。小さいときは大っ嫌いだった」
戸惑いながらも静かに話し出した山峰さん。
「自由奔放で嫌な奴。きっと面白がってわざと私の嫌がることばかりしてたんだと思う」
今となってはきっといい思い出なのだろう。
彼女は懐かしそうにクスッと笑ったんだ。
静かに脈打つ心臓はいつしか痛みを伴い始めていた。
「でも、サッカーを始めてからあいつは変わっていったの。それはもうサッカー一筋。負けず嫌いでいつも納得がいくまで一人で練習してた。クラブに入ってからはいつもレギュラ―。その頃からかな、将来はプロになるんだ―って息巻いてた」
聞けば聞くほど胸が苦しくなった。
「悔しいけどサッカ―やってるあいつはカッコよくて、いつの間にか好きになってたんだ……」
そう言うと寂しそうに膝を抱え、彼女は口をつぐんだ。
「……次は、いつ会えるの?」
「……わからない」
彼女は険しい表情で首を横に振った。
「……そっか」
複雑な気持ちだった。
彼女の表情に、本当に彼のことが好きなんだと痛感させられる。
それでも僕は、寂しそうに会えない彼を想う彼女を思わず抱きしめたいと思ったんだ。
ズキン、ズキン、ズキン、ズキン――――。
鼓動する度、僕の胸は痛みを刻んでいった。
続く言葉もなく、眩しくきらめく浜辺を僕らはしばらく眺めていた。
それは目の中に熱を感じた瞬間だった。
「ねぇ、翔君! 写真、写真!」
突然山峰さんが声をあげたんだ。
気づくといつの間にか夕日は真っ赤に染まっていた。
「あぁ、そうだ……」
水平線にたどりつた太陽は刻一刻と沈んでいく。
カシャカシャ、カシャカシャ。
彼女に言われて急いでカメラを構えた僕は必死にシャッタ―を切った。
赤く燃えるような太陽。
強い光線にファインダーを覗く目の奥が熱くなっていった。
眩しさのあまり滲む涙。
目の奥の焼けるような感覚に、僕は何度も目をつぶった。
カシャカシャ、カシャカシャ。
シャッタ―を切りながら、頭には山峰さんの表情が浮かんでいた。
赤く燃えゆく太陽を前に、胸が熱く焼け焦げるようだった。
黄昏時――――――。
それは太陽の忘れ物。
沈みきってもなお、太陽は空の色を変化させていった。
まるで魔法に魅せられているかのように幻想的で不思議な時間。
いつもならただただ美しいと思える光景なのに……。
今日ばかりは違って見えていた。
上からゆっくりと降りてくる黒い闇。
光と闇が交じり合う――――。
まるで複雑な僕の胸の内を映しているかのよう……。
水平線に残った光の帯はゆっくりゆっくり消えていく。
消えゆく光。
切なさで胸がいっぱいだった。
光が消えきると気温はぐっと下がり、きらめいていた浜辺に一気に闇が押し寄せた。
「暮れちゃったね……」
一気に人気がいなくなっていく浜辺。
暗くなり辺りは急に静けさに包まれていった。
ザバ――ン、ザバ――ン。
急に大きくなった波の音。
僕の胸はまだ焦げ付いたまま……。
急激に冷えていく大気に僕の沈んだ気持ちが相乗していく。
熱を帯びた目に、冷たい風がしみていた。
僕の心は静けさと闇に呑み込まれてしまいそうだった。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。
しばらくして戻ってきたみんな。
「楽しかったね―」
それぞれに海水浴を満喫したようだった。
よほど疲れていたのだろう。
別荘までの帰り道、車に乗りこむとみんなは途端に爆睡した。
でも僕はとてもじゃないが眠ることができなかった。
あの時の山峰さんの表情が頭から離れなかった。
本当は彼女にもっとたくさん聞きたいことがあったんだ。
でもあれ以上聞くことができなかった。
太陽の熱に焦げ付いた胸がヒリヒリと痛み続けていた。
僕は途中静かに寝たふりをしたんだ。
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次話【 惨敗? 】
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