【 人魚の涙 】
日が傾き、少しずつ色が変わり始めた浜辺。
ザバ――ン、ザバ――ン。
ゆっくりと繰り返す波は時折風にあおられ遠くまでしぶきを巻き上げた。
恋人同士の時間を過ごす美鈴さんと井上。
波打ち際には賢治と三田さんのふたりがいた。
キレイな貝殻を見つけては三田さんに見せる賢治。
そして僕が戻ると、パラソルでは由美さんと山峰さんがお喋りをしていた。
「あら翔ちゃん、気が利くじゃない。恋人たちに浜辺の夕焼けなんていいロケ―ションね」
そういって由美さんはフフッと笑った。
「あの二人、うまくいくといいね‥‥」
恋人募集中の三田さんに猛アタック中の賢治。
そんなふたりを見つめる山峰さんは、ちょっとうらやましそうにも見えた。
「ねぇ、ちょっと車の様子見てくるから二人で荷物見ててくれる?日が落ちたら帰る準備もしないとね」
由美さんはそう言うと、スッとパラソルを出ていった。
(全く由美さんめ、僕に気を遣ったな‥‥)
それはなんともわざとらしいお節介。
いつもなら面倒だと感じる僕だったが、今回ばかりはそんな由美さんに感謝した。
さりげなく彼女の隣に腰かけた僕。
ちょっとした緊張感。
たそがれる彼女の横顔に僕の胸はトクントクンと音をたてた。
太陽は傾き、空はゆっくりとオレンジ色に染まっていく。
「きれいだね……」
頬に手を添えながら夕焼けを眺める山峰さん。
「うん、今日の夕日は特にきれいだ――――――」
カシャカシャ。
僕はカメラを構え写真を撮った。
増していく緊張。
ファインダー越しの景色を見ながら何を話そうか考えた。
僕らはしばらく、浜辺をゆっくりと眺めていたんだ。
「そうだ。これ‥‥、山峰さんにあげるよ」
「なぁに?」
僕は彼女の手にそっとそれを乗せた。
長く細い指。
きれいな白い手のひらにそれは淡くきらめいた。
それは青緑色の小さな小さなガラスのかけら。
「シ―グラス。波打ち際でたまたま見つけたんだ」
それは長い年月をかけて波にいざなわれ、丸みを帯び、まるで宝石のよう。
「キレイ……」
彼女は自然の生み出した海からの贈り物を嬉しそうに見つめていた。
トクントクン。
音をたて、僕の鼓動は徐々に大きくなっていく。
手の角度を変えると、その宝石は彼女の手の上でそのきらめきを変えた。
「翔君、ありがとう。大事にするね」
優しい耳障りのいい声。
にっこりとほほ笑む彼女。
彼女のその幸せそうな顔を、僕はいつまでも見ていたいと思ったんだ。
「わぁ――、きれ―い!」
しばらくして急に歓声をあげた山峰さん。
きらめく太陽がさらにその輝きを増したんだ。
きれいなオレンジ色に染まった空。
ザバ――ン、ザバ――ン。
波が、海が金色に光輝いていく――――――。
カシャカシャ、カシャカシャ。
僕は夕日に照らし出される浜辺を撮った。
人も、波も、鳥たちも、眩しいくらいに光り輝いていた。
「シ―グラスって『人魚の涙』とも言うんだって」
「人魚の涙?」
僕の顔を覗き込んだ山峰さん。
なんとも可愛らしい表情だ。
「うん、幻想的だよね」
「人魚の……、涙……」
そう言うと山峰さんはその小さなガラスを太陽にかざした。
光に透かされ、青緑色に淡く揺らめく人魚の涙。
彼女の美しい横顔がきらめく太陽の光に包まれていく。
僕の目に刻まれる彼女の横顔。
浜辺で美しくきらめく彼女は、まるで……
まるで、人魚のよう――――。
目の前の美しい光景が僕の背中を押していく。
膨れ上がる気持ちを僕は止めることができなかった
トックン、トックン、トックン、トックン――――。
響いていく鼓動。
そしていつの間にか、僕の感情は溢れ出していったんだ。
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次話【 複雑な胸の内 】
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