【 三田さんの想い 】
「あ―疲れた!」
僕に続きパラソルに戻った三田さんと井上。
「ゴクゴクゴクッ! あー、生き返るぅ――!」
二人は冷たい飲み物を出すと一気に飲み干した。
「それにしても三田、お前と山峰って本当に仲いいな」
バタンとひっくり返った井上が話し始めた。
「春花とは一番の仲良しだからね」
「へ―」
「優しいし、親身になってくれるし、私の一番の友達なんだ♪」
二人は部活以外はいつも一緒のようだし寮の部屋も隣りらしい。
その笑顔からも仲の良さがうかがえる。
波打ち際では美鈴さんと賢治、山峰さんの3人が遊んでいた。
「でも意外だったな。山峰さんが正直あんなに明るい子だとは思わなかったからさ」
それはポロッと出た僕の本音。
だってそうだ。
この伊豆に来てから驚くことばかり。
大学では大人しくていつも控えめ。
友達がバカみたいに大騒ぎしていてもそれを静かに見守る、そういう子だ。
成績は学年トップ。
真面目で清楚でおしとやか。
山峰さんはそんなイメージだった。
「いつもはもっと大人しいもんな」
井上も大きく頷いた。
「‥‥私もあんな楽しそうな春花は初めてだよ。いつもはあんな風に笑わないもん。変に冷静って言うか一線引いてるって言うか‥‥。もしかしたら笑わないようにしてるのかも……」
そう言うと三田さんの表情は曇っていった。
「でも山峰って入学直後は明るくなかったか?」
「いのさんも知ってたんだね‥‥」
「まぁな。あのルックスだし、派手さはなくても目立つからな」
進んでいく二人の会話。
でもその会話に僕は入ることができなかった。
なぜなら僕は最近まで山峰さんが同級生だということに気づかなかったからだ。
他人に興味がなかった僕。
そんな僕が密かに興味を持った唯一の女の子がいた。
僕は桜並木に来るその子をファルマの二階からいつもそっと見ていたんだ。
でもその子が山峰さんだったんだ。
つまり間抜けなことに、3ヶ月も同じ教室で同じ授業を受けていたにもかかわらずその事に全く気付いてなかったと言うわけだ。 ( ✳︎ )
「春花がGWの前後に体調崩して休んでたのは知ってるでしょ? その間に色々なことが重なったみたいでね……」
当初、山峰さんは普通に好きな人のことを三田さんに話していたらしい。
きっと山峰さんも楽しそうに話していたのだろう。
「付き合ってたわけじゃないみたいだけどね‥‥」
療養後に突然変わってしまった山峰さんの様子。
付き合っていなくてもとても仲が良かったのは間違いない。
突然いなくなってしまったという彼女の想い人。
よほどショックが大きかったのだろう。
ひどく取り乱しながら泣いていたこともあったそうだ。
「詳しい事は分からないけど、まだ受け止めきれてないんだと思う‥‥」
「きっとそんだけ好きだったんだよな…」
そう言った井上はいつになく真剣な表情をしていた。
「私は笑ってる春花の方が、ずっとずっと好きなんだけどな……」
膝を抱え山峰さんを見つめる三田さん。
親友の三田さんにも話すことができない事情。
それは一体何なのだろう。
「遠くって何処なんだろうな」
井上が言った。
「わかんない。連絡もとれないみたいだし、いくら聞いても 春花は "今は待つしかないから" って、そう言うばかりでね……」
「三田さん、……大丈夫?」
「春花は何も言ってくれないの……。いつもそう…。仲がいいと思ってるのは私だけなのかな……」
振り絞るような言葉。
三田さんの目にはうっすらと涙がにじんでいた。
胸がギュッと締め付けられていく。
「そ……、そんなことあるはずないよっ」
裏返った僕の声。
それは僕自身も驚くような大きな声だった。
その声に驚く三田さんと井上。
「いや……ごめん。そ、その‥‥山峰さんが三田さんのこと大事に思ってるのは、一目瞭然‥‥なわけだし……」
焼け焦げるような胸の感覚。
動揺が声に出てしまったんだ。
「そうだよ、お前らどっからどう見たって仲良しじゃん! っつ―か、仲良すぎだし!」
僕をフォローするように被せられた井上の言葉。
「そうかな……」
「待つってことはどっかで元気にはしてるんだろうし、無理に聞き出すのもなんだよな。よっぽどの事情か、山峰自身の気持ちの問題なのか……。そのうち教えてくれるって。三田、大丈夫だよ、そんなに心配すんなって」
前向きでどこかとても力強く聞こえた井上の言葉。
「うん、そうだね‥‥」
そう言うと三田さんは涙をぬぐったんだ。
「それに新たな恋って可能性だってあるわけだしなぁ~」
「え? なに?」
「ふふふっ、そうだよね」
僕には聞き取れなかった井上の言葉。
楽しそうに笑う三田さんと僕の顔を見てニヤつく井上。
「え? なんだよ教えろよ!」
「なんでもなーい。翔君には内緒~!」
「なんだよそれ。気になるだろ!」
でもそんなやりとりのおかげか、いつの間にか三田さんは元気いっぱいのいつもの三田さんに戻っていた。
「でも正直、翔君にも驚かされたな〜」
「へ? 俺?」
「だって翔君、全然ク―ルじゃないんだもん。それに普通に面白いし!」
「そう?」
「侍クールボーイもいいけど、こっちの方が断然いい感じ!」
三田さんはそう言うとニヤッと笑ったんだ。
「俺だって想定外だよ。本当はもっとク―ルでカッコいいはずなのに」
ハチャメチャなみんなに引っ張られてどんどん変わっていく自分。
恥かしさもあった。
でもちょっとだけそう言ってみたくなったんだ。
「普通そういうのって自分で言うか?」
「そうそう! 本当にクールなら『そう?』って言って背中で語る、ぐらいな感じじゃない?」
「だよな!」
三田さんと井上は完全に意気投合。
その後も僕をネタにふたりはだいぶ盛り上がっていた。
恥かしさの中にも心地よさが入り交じる。
それぞれの事情や感情を秘めながら、みんなの様々な感情が交差していく。
これが "青春" ってやつなのかな。
浜辺のみんなの姿を眺めながら僕はそんなことを考えていた。
✳︎ 第10話【図書館で】参照
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次話【 人魚の涙 】
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