表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/86

【 桜並木の女の子 】


「彼女ね……」


今のところ僕は恋愛に興味がない。

でも僕だっていずれは誰かと付き合うんだろうし結婚もするんだろう。


大学には看護学部もある。

それに医学部にも女の子は思ったより多かった。


医療という同じ目標に向かって突き進んでいく中でひょっとしたら心動かされる出会いがあるかもしれない。


漠然とそんなことも考えることもあった。

でも一向に僕の心は動かなかった。



かといって女の子に全く興味がないわけではない。


女の子を可愛いと思うことはあるし好みも一応はある。

さっきの目つきの鋭いド派手な女性より明らかに清楚な女の子の方が好みだ。


幸せな恋愛ならしてみたい、そんな興味の欠片くらいは持っていた。



「さ、そろそろ仕事に戻るかな……」 


それは窓を閉めようとした時だった。


桜並木に一人の女の子が立っているのが見えたんだ。

それはこの窓から何度も見かけたことのある女の子。


「同い年くらいかな……」


いつから見かけるようになっただろう。 


その子は花の咲く季節でもないのにいつも青く茂った桜を見上げていた。


それはいつも同じ場所、桜のご神木の前。




彼女は知っているのだろうか?


ご神木は今こそ若木だが、以前は樹齢何百年とも言われたそれはそれは立派な桜だったんだ。


昔から愛され続けてきた古木の桜。

惜しくも数年前に枯れてしまったが、縁ある神社の桜を譲り受け、最近になってこの桜並木に再びご神木が戻ってきたのだ。


半年ほど前に植え直された桜。

今では順調に根付き青々とした葉を茂らせていた。



知ってか知らずか彼女はいつもその前に立っていた。




「結構可愛いよな……」


横顔しか見えないが肩よりちょっと長めの黒髪にぱっちりした大きな目。

グレ―のスカ―トに白っぽいカ―デガンを羽織っていた。




サワサワサワ――――っ。


音とともに風にその子の髪が揺れた。

遠目だったが彼女のその横顔は穏やかでとても優しい顔に見えていた。


「でも、可愛いからといって性格もいいとは限らないか……」


じっと桜を見上げる女の子。

何を見つめているんだろう。


気になって僕は彼女の視線の先を覗き込んだんだ。


…………ゴンッ


ガラスの存在をすっかり忘れていた。

僕は窓におでこをぶっつけた。


「何やってんだかな……」

我ながらなんてお間抜けだ。




ザワザワザワ――――っ。

彼女は風に乱れる長い髪をそっと優しく抑えていた。



トクン、トクン。

僕は心臓のくり出す穏やな鼓動を意識した。



そっと髪をかき上げる彼女――。

なぜだろう。

彼女の姿から目が……離せなかった。




見れば見るほど僕の目には彼女が可愛く見えていた。

フワ―っとした春の陽気のような気持ちだった。



しばらくぼ―っと彼女を眺めていた僕。

なんとも言えない心地よさに僕は無防備に緩みきっていた。





でもそれは突然の出来事だった。


バッタァ――――ン!! 

突然鳴り響いた爆音。


「ひぃっ!!!」

それは爆発かと思うくらいの音だった。


慌ててドッキンドッキン脈打つ心臓。



風の流れに勢いが増しバカでかい音で閉まるドアの音が鳴り響いたのだ。




心臓に悪すぎる。完全な不意打ちだ。


そして間髪入れずバカでかい声でジョ―ジが僕を呼んだ。


「オ―ダ―! 入りま――――っす!!!」


ジョージの声にも驚いたのか、僕の顔は急にのぼせるように熱くなっていった。


「まったく、ジョ―ジは声がデカすぎるんだよ!」


パタン、ガチャガチャ。

僕は慌てて窓を閉めたんだ。


窓の外を見ると彼女はまだ桜の下でたたずんでいた。

顔の熱と早打つような鼓動を感じながら、僕は急いで階段を降りた。


お読みいただきありがとうございます!

また、誤字報告をくださった皆さま、ありがとうございます。

ブックマークや評価、感想を頂けますと励みになりますので、どうぞよろしくお願いします.。.:*☆


公開スタートから数回を除き、毎週水曜日に更新予定。

次話【 僕のパートナー 】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ