【 その日の夜 】
夕飯に一さんが何十年も通う行きつけの店に来た僕ら。
「よっちゃん今日もよろしく頼むよぉ!」
「おー、一ちゃんいらっしゃい!」
店に入ると威勢のいい大将の声が響いた。
壁には地物のメニューがズラリ。
色鮮やかな大漁旗と水槽には活きのいい魚たち。
みんなの期待も高まっていく。
料理を待つ間にバカンスの計画を立てることにした僕ら。
海に観光!
遊覧船や金山やミュージアムといった観光以外にも陶芸のような体験なんかも数知れず。
伊豆は遊ぶにはもってこいだ!
「観光は帰る日にして明日は海を満喫しない!?」
「じゃあ海水浴!!」
「釣りもしてみたい!」
意外にも女の子たちの方が釣りに前のめり。
「じゃあ明日の朝は海岸で釣りをして午後は海水浴!」
「夜は釣った魚で海鮮BBQね!」
「いいね―!」
バカンスを前に上がるテンション。
「へい、おまっとーさん!極上の伊豆の海の幸だ!堪能していってくれよ!」
「おお―!」
豪華な料理に歓声が上がる。
大きな船盛には大量の刺身。
たかべの塩焼きに姫サザエのつぼ焼き、シッタカの塩ゆでにカワハギの刺身、金目の煮つけとあら汁まで!
みんな腹ペコ。
僕らはてんこ盛りになった料理にガッついた。
なんと料理のうまいこと!!
ぷりぷりの刺身。
金目の煮つけも最高だ!
「刺身は真アジ、太刀魚、マグロにハマチ、地金目の炙りにヒラメとサザエ、アワビのお造りとよっちゃんイカだ!」
「よっちゃんイカ?」
「あっはっはーっ!」
甲高く爽快に笑いとばす大将。
「スルメイカだよ!よっちゃんが捌いたスルメイカだ!」
完全なダジャレである。
駄菓子のよっちゃんイカと、自分の愛称のよっちゃんをひっかけたらしい。(✳︎)
「あ〜らよっちゃんの〜ぉ、スルメ〜イ〜カ♫」
「よ、師匠!♫」
歌い出した大将に合いの手を入れる一さん。
ふたりの意気はぴったりだ。
大宴会にますます上がるテンション。
てんこ盛りの海の幸はあっという間になくなっていった。
そしてお腹いっぱいでみんなが満足した頃。
「さ、そろそろ締めの一杯といきますか」
それまでカワハギの肝あえでチビチビ地酒を飲んでいた一さんが熱々のご飯にたっぷりとかけたのは金目の煮汁。
そしてその上にパカっと生卵を割り入れたんだ。
「おぉ〜!!」
甘辛い濃いめの煮付けのタレに生卵。
極上のたまごかけご飯だ!
「ご飯と卵!こっちにもください!!」
「んん~、じゃぁ私も!」
だいぶ迷っていた山峰さん。
でもみんなの勢いに負けたようだ。
小食のはずの山峰さんまで可愛らしく手を挙げたんだ。
たらふく食べてお腹もいっぱいのはずなのに、美味しそうに頬張る彼女の笑顔が僕にはとても印象的だった。
ご飯を食べ終わり別荘に戻った僕ら。
釣りの準備をする僕らの横でジョージは一人、帰り支度をしていた。
「えぇ~! マスター帰っちゃうですかぁ!?」
実はお得意様たってのお願いでどうしても明日は店を休むことができなかったんだ。
「俺だって残りたいさ。でも仕事だから仕方ないんだよぉ」
ジョージ本人が一番残念がっていた。
「だから俺の分までみんなはバカンス楽しめよ!俺への魚も頼んだぞ!フェルマで待ってるからな!!」
名残惜しそうにしながらもジョージは一人帰っていった。
「じゃぁ明日はマスターの分もいっぱい魚釣らないとね!早く寝よう!」
明日の朝は早い。なんせ朝4時起きだ。
歯を磨いて洗面所を出ると狭い廊下でちょうど山峰さんとすれ違った。
ぐっと近くなる距離。
「糸倉君おやすみ。明日起きられなかったら起こしてね」
そう言うと山峰さんはにっこりと笑った。
トクントクンと優しい音をたてる心臓。
「うん。ちゃんと起こすね。おやすみ」
僕は部屋に戻る彼女の後姿を見送った。
山峰さんに〝おやすみ" か……。
また明日がある。
そう思うと自然と顔が緩んでいった。
ぐおーっ、ぐおーっ。
部屋に戻ると井上はすでにタカいびきをかいていた。
「翔ちゃん、明日楽しみだね!」
一方の賢治は布団に入っても興奮が収まらない様子。
「あかねちゃんどんな水着きるのかな―? うきゃ~!」
三田さんの水着姿を想像しているのだろう。
ジタバタとうるさく騒ぎ立てる賢治。
水着?
釣りのことばかり考えていたが明日はそう、海水浴だ!
山峰さんの水着姿か……。
ほんのちょっとだけ彼女の水着を想像した僕。
控えめな彼女のことだ。
露出度低め、ビキニということはまずないだろう。
でもビキニの上に大きめのTシャツ、なんてのも悪くないよな……。
膨む妄想。
トキントキンと早なる鼓動。
パンパンっ!
僕は自分の頬を軽く叩いた。
僕の胸は彼女のことになるとすぐにうるさく動き出す。
昨日からこんなのばっかりだ。
自然とふっと笑いが溢れた。
恋をするって本当に忙しい。
ドキドキワクワク、急に胸が苦しくなったり、よこしまな考えが浮かんできたり。
みんなこんな思いをしているのだろうか?
井上も賢治も、山峰さんも……。
「なあ賢治、お前、三田さんのどこが好きなんだ?」
ベタな質問だが僕は賢治にどうしても聞きたかったんだ。
「……」
「賢治?」
「ぐ―す―、ぐ―す―」
さっきまで騒いでいたのにいつの間にか寝入っていた賢治。
「なんだよ、もう寝たのか」
二人の寝息に誘われて僕も眠気に襲われた。
心地よい眠気。
明日という一日を心待ちに僕は眠りに落ちていった。
✳︎ 駄菓子のよっちゃんイカは“す漬けイカ”であります。
よっちゃんイカの元祖TVCMもぜひご覧ください(YouTubeにて閲覧可能です)
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次話【 朝釣り 】
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