【 展望露天風呂 】
「おぉ~!すっげー展望風呂!!」
「翔ちゃん誰もいないよ―! 早く早く―!」
大掃除を終えた僕ら。
そんな僕らを一さんが近くのホテルの展望露天風呂へ連れてきてくれたのだ。
「あいつら元気だな~!」
「あっはっは!あんなに喜んでくれるとは嬉しいよ」
先に入った井上と賢治のはしゃぎっぷりに脱衣所でジョージと一さんが笑っていた。
ガラガラガラ〜。
僕が大浴場の扉を開けると井上と賢治はもう風呂に浸かっていた。
「おいお前ら、ちゃんと身体洗ったのか?」
洗ったにしてはあまりに早すぎる。
「……汗は流したよ」
「汚ねーな。ちゃんと身体洗ってから入れよな!」
「へーへー」
「わかったよぉ~」
しぶしぶ洗い場に来たふたり。
「翔ちゃん、これ炭石鹸なんだって!つるつるだよ♪」
触れと言わんばかりに賢治が腕をグイっと僕に近づけた。
「わかった、わかった。ツルツルでよかったな」
「翔ちゃん触ってよ―!」
グイグイと僕に腕を近づける賢治。
人懐っこいというかなんというか、賢治はこんな風に時々距離感がおかしいときがあるのだ。
特に僕に懐いていて、時々異様に絡まってくる。
「翔、翔、俺も!俺も!俺のつるつるも触ってよ―!」
賢治を真似する井上。
完全に僕をおちょくろうとしていた。
ニヤニヤ笑いながら僕に腕を押し付ける井上。
「井上ふざけんな!い、いいって、やめろよ」
両サイドから二人に押し迫られた僕。
逃げ場はない。
「賢治、翔もつるつるだぞ!」
「えー本当!?」
泡まみれの僕の腕にぬるッとした感覚が両サイドから押し迫る。
何とも気持ちが悪い!
「やめろよ!触んな!」
大浴場で男が泡まみれでになって体を触り合う。
まさに異様な光景だ。
「なんだよ、単なる男同士のスキンシップだろぉ~?」
「何言ってんだ。俺たちの間に愛なんてねーだろ!」
「俺は翔ちゃんLOVEだよん♡」
「バカ賢治!それはlikeだ!お前のLOVEは三田さんだろ!」
ぬるっとした手と泡の感覚。
賢治の生暖かい手が腕からわずかにボディーに伸びようとした瞬間……、
股のあたりがゾクッとした。
「あ―!もう気持ち悪いな! やめろよな!」
たまらず立ち上がって後ろの洗い場に慌てて移った僕。
「翔ちゃん逃げた~」
「クククッ。翔っておもしれ―よな!」
不機嫌そうにする賢治の横で井上は上機嫌に笑っていた。
「さ、スキンシップもとったことだし露天風呂行こうぜ!」
下半身全開に井上は先頭を切って歩いていった。
ガラガラガラ~~。
扉の向こうは見渡す限りの大海原!
さすが大展望風呂だ。
「おお―! 絶景だな―!」
火照った身体を気持ちいいくらいに風がスっと吹き抜けた。
黄昏時。
水平線にはまるでキャンバスのように色鮮やかな刻々と変わっていく光の残像が見えていた。
ザブ――――ンっ。
3人分のお湯が勢いよく溢れて出た。
「ああ―――っ」
オッサンくさく思わず出てしまうのがこの言葉。
大仕事の後に温泉でのんびり、なんて最高なんだ!
大きな広い空。
西の空には一番星がキラキラと瞬くのが見えていた。
「別荘の大掃除、結構大変だっただろ」
「まぁ確かにな。でも結構面白かったよ」
「想像以上の荒れ放題で最初はビビったけどねぇ~」
井上と賢治は笑った。
一さんの奥さんの闘病生活が始まり、徐々に荒れていった別荘。
命の灯が小さくなる中、ふたりの思い出が詰まった別荘にきっと一さんは一人で来る気になれなかったんだと思う。
50年連れ添った最愛の人を亡くした辛さや悲しみ。
一さんの気持ちはとても想像できるものではなかった。
「この伊豆の大掃除は当初落ち込み続ける一さんを外に連れ出す口実だったんだよ」
「そうだったのか……」
井上と賢治は少し驚いていた。
「おぅ、お前ら露天風呂しっかり楽しんでるかぁ~?」
露天風呂にやってきたジョ―ジと一さん。
「あぁ~、いい湯だぁ。みんなで入るとこれまた楽し! 別荘も見違えるようにきれいになって、みんなとの出会いに感謝、感謝!」
そう言うと満面の笑みで一さんは声高く笑ったんだ。
その後一さんの笑顔を前に僕らはのんびりみんなで展望露天風呂を楽しんだ。
風呂を出て休憩室に行くと、女の子たちはまだいなかった。
ジョ―ジと一さんは、さっそくマッサ―ジ機に乗ると100円玉を投入。
僕らは火照った体を冷まそうと団扇で顔を仰いだ。
「女って、なんでこんなに風呂とか長いんだろうな~」
待ちくたびれたのかぶつくさと文句を言い始めた井上。
「そういや賢治、お前三田といい感じじゃんか!」
「え? やっぱそうかな―? そう見えるぅ?」
井上の言葉にモジモジと恥ずかしそうにする賢治。
「明日は海水浴もあるし、楽しみだな!」
ニヤつく井上。
「井上あんまりからかうなよ。賢治も焦るなよ? 調子に乗って嫌われたら元も子もないからな」
賢治にもっともらしいことを言った僕。
でもその言葉は自分への言葉でもあったのだ。
「ほ―。翔ちゃんは大人だね―」
うんうんとなずいく賢治の横で井上は僕の方を見てニヤニヤ笑っていた。
「みんなお待たせー!」
しばらくすると女の子たちが休憩室に入ってきた。
真っ先に山峰さんに向かった僕の視線。
短パンに、エスニック調のチュニック姿。
首にタオルを巻いて、風呂上りのちょっと赤い血色のいい彼女の表情。
トクントクン。
風呂上がりのせいもあるが、僕の心臓はちょっとうるさく音を立てた。
「翔、お前スゲー顔赤いぞ―?のぼせたか~?」
ニヤニヤしながら僕の顔に団扇で風を送る井上。
僕はドキッとした。
こいつ、俺の山峰さんへの気持ちに気づいているのか?
井上は勘のいい奴だ。
僕はドキドキしながら井上の様子をうかがった。
「ジョ―ジ起きてよ! ご飯遅くなっちゃうよ―?」
マッサ―ジ機の上でイビキをかいて眠りこけていたジョ―ジを叩き起こす由美さん。
「お腹も減ったし、夕飯食べに行こうかね」
一さんはマッサ―ジ機からゆっくり起き上がると、みんなの顔を見ながらそう言った。
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