【 模様替え 】
バカンスの時間を確保すべく大掃除は急ピッチですすめられていった。
そんな中、一さんは亡くなった奥さんとの昔の思い出を時折みんなに話していた。
「この別荘には妻との思い出がいっぱい詰まってるんだよ」
そう言って穏やかに笑う一さん。
奥さんがまだ元気だった頃、二人は一年の半分をこの別荘で過ごしていたんだ。
「仲のいい素敵なご夫婦だったんだね」
みんなは口々にそう言った。
奥さんが亡くなってから2年。
塞ぎ込んでいた一さんにようやく戻った笑顔。
でも一さんの表情に安心する反面、処分する家具や雑貨の山を前に僕は複雑な気持ちになっていった。
「一さん、こんなにたくさん処分して本当にいいの?」
僕は何度も一さんに問いかけた。
別荘の大掃除が始めて以来、こんな大胆な断捨離は初めてだったんだ。
「いいんだよ。物も増えすぎたし古いものも多い。新しく買い替えてみんなに使ってもらう方がこの別荘も喜ぶだろう」
そう言って一さんは笑うばかり。
その笑顔を見る度になんだか僕の胸は苦しくなっていった。
(本当にいいのか?)
僕からすればどれもが思い出の品だった。
フェルマなんて古いものばかり。
古いものを壊れては直し繰り返し大事に使っている。
確かにこの別荘には物が溢れていた。
でも古いからといって捨ててしまうのは違うと思った。
思い出を全て処分するわけではないがどうにも戸惑ってしまう僕がいたんだ。
でもそんな時だった。
「ねぇ、みんなちょっと集まって!」
女の子たちになぜかコソッと呼び集められたんだ。
「せっかくだから一さんに内緒でみんなでアッと驚く模様替えにしちゃわない?」
それは女の子達からの突然の提案。
DIYが趣味だという三田さんと美鈴さん。
二人は驚いたことに自前の電動工具を持ってきていたんだ。
「あのバカでかい荷物の中身はこれだったのか‥…」
女の子は荷物が多いもの。
とはいえデカすぎだと僕はちょっと呆れていたんだ。
「ほんと、あかねの荷物は超特大だったからね」
僕の表情が面白かったのか隣で山峰さんがクスクスと笑って言った。
DIYなら工夫次第で大胆な模様替えができるというのだ。
「おぉ、いいじゃん!それやろうぜ!」
僕らはその計画にもちろん大賛成。
「奥さんと一さんの大切な別荘だもん。捨てたら勿体ないものも多いじゃない?思い出を残しつつ…こんな感じにしようかと思うんだけどどうかな?」
片付けの合間にまとめられていたアイデア。
一さんの話をもとに古い写真アルバムや由美さんとジョージにも意見を聞いたようだった。
「おぉ、いつの間に!」
うちにすでに簡単な図案もできていて、僕はひたすら感心するばかりだった。
僕らは一さんに気付かれぬようサプライズを実行した。
「ヤバイ、一さんが来るぞ!」
「え!?今見られたらバレちゃうよ!?」
焦る僕ら。
見つかってしまってはサプライズが水の泡。
「賢治、お前いけ!」
「一さんを向こうに連れてって!」
「ええぇ〜!?」
廊下にポイっと追い出された賢治。
「えー、あー、一さん!僕ちょっと喉乾いちゃったかなぁ〜?あったかいお茶なんか飲みたいなぁ〜なんて‥‥」
「おぉ、そうかい!じゃぁちょっと入れてこうかね」
しどろもどろの賢治の言葉に踵を返した一さん。
「よし、賢ちゃんよくやった!」
僕らはみんなでガッツポーズ。
ドキドキとヒヤヒヤ。
代わる代わる、僕らはのらりくらりと一さんをかわしながらコソッとサプライズをすすめていったんだ。
同時に一さんが準備していた模様替えも進んでいった。
古いレッドカ―ペットが落ち着いたベージュに変わり、別荘はガラリと雰囲気を変えた。
キュイ―ン、キュイ―ン。
手際よく手慣れた手つきで作業を進める三田さんと美鈴さん。
処分するはずだった家具をバラしたり組み合わせたり。
ちょっとした工夫で部屋の中はどんどん変わっていった。
模様替えが終わると一さんと別荘中を見て回った僕ら。
「これは参った!大金かけてリフォ―ムしたみたいじゃないか!」
一さんの笑顔に僕らはしてやったり!
「何かやってるとは思ったが、こりゃぁすごいねぇ!」
「一さん、見て見て!」
「おぉ~!これなら腰もラクチンだ♪」
井上と賢治は腰の痛い一さんのために玄関で靴を脱ぎ履きする時の腰掛を作っていた。
「懐かしいねぇ!これはイタリア、ベトナム、インド旅行のお土産だ!」
そこには奥さんとの想い出の品がそろっていた。
そして大きな写真立てにはフェルマの満開の桜並木で撮った二人の写真が飾られていた。
「あぁ、サクラが生きていたらどんなに喜んだだろう。きっとこの部屋も気に入っただろうに。こんなに素敵にしてもらって、きっとまた、素敵な絵が描けただろうね……」
一さんはしんみりとそう言った。
「奥さん〝サクラさん〟っていうんですね」
「だからの桜がたくさんあったのか……」
そこかしこに散りばめられたくさんの桜。
その一つ一つがサクラさんの想いの品だった。
「こんなによくしてもらって、本当に、どうもありがとう」
みんなに深々と頭を下げた一さんの声は少し震えていた。
胸の奥がじわっとした。
一さんは “ かけがえのない大切なおじいちゃん ”
僕はみんながそう思ってるような気がした。
みんなで知恵を絞ったサプライズは大成功!
その後綺麗になった別荘でしばらくくつろいだ僕ら。
一さんは山峰さんと熱心にサクラさんの描いた絵の話をしているようだった。
話し込む二人の姿。
自然と僕の耳はそっちを向いた。
チラリとわずかに漏れ聞こえた二人の会話。
「もしよかったらサクラさんの絵、私にどれか一枚もらえませんか?」
「もちろんだよ。ありがとう。サクラもきっと喜ぶよ」
そう言って一さんが山峰さんに渡したのはサクラさんが大事にしていたというきれいな優しい桜の絵。
一さんは幸せそうに笑っていた。
サクラさんの死後、ふさぎ込む一さんをそばで見てきた僕。
無意識のうちに一さんの前でサクラさんの話しをあまりしないようにしていたことに僕は気が付いた。
サクラさんの死後、こんなに楽しそうにサクラさんのことを話す一さんは初めてだったんだ。
友達を招いた今回の伊豆バイト旅行。
僕はみんなに救われたような気がしていた。
スッキリと片付いた別荘。
思い出を捨ててしまうようで不安にもなったが、終わってみるとむしろ前よりももサクラさんへの想いが溢れているようなそんな気がしていた。
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次話【 展望露天風呂 】
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