【 ミョウガの天ぷら 】
僕らが暴れたせいで畑は悲惨な状況だった。
「せっかくきれいに片付けたのに散らかして!」
「すんません」
僕と井上は素直に由美さんに謝った。
「二人は残って後片付けよ。他の人はお昼ご飯の準備ね。冷たいお素麺と収穫した野菜で天ぷらにしましょ♪」
「採れたてなんて贅沢―っ!」
大騒ぎしてお腹が減ったのかみんなのお昼ごはんへの期待は高まっていた。
「あ―あ、翔が調子に乗るからだよ」
「井上が先に始めたんだろ?」
具合が悪くて動けないのか、なぜか賢治も残っていた。
「なぁ、ここに落とし穴作ったら誰かはまるかな?」
「こんな畑の真ん中じゃ落ちても井上ぐらいだろ」
「てめぇ言ったな―?」
井上はまた僕に土を飛ばし始めた。
「うわっ、井上やめろよ! うわっ!」
容赦ない大量の土。
僕はとっさに、畑の端でうなだれたていた賢治を盾にした。
バサッ!
「うわっ、うえっ! ペッ、ペッ」
土は賢治に直撃。
口があいていたのだろう。
すごい顔で賢治は必死に土を吐き出した。
「賢治、悪い! 大丈夫か?」
慌てて井上は賢治に駆け寄った。
「ゔ、ゔ……」
気持ち悪さMAX。
限界をずっと我慢していた賢治。
そんなところに土が顔面直撃。
限界突破。
「ゔ、ゔ、ゔぇ―――――――――っ」
賢治の口から大量の吐しゃ物が滝のように流れ出た。
「うわっ、ま、マジか――――!!!」
「賢治、ちょっと待ってろ!」
こういう状況に慣れているか、井上は首に巻いていたタオルを持って外の蛇口に走っていった。
「うっ、うっ……」
ボロボロ涙を流す賢治。
「おい、大丈夫か?」
どうしていいかわからない僕。
「これでとりあえず顔をふけ。もっと吐くか?」
冷たく濡れたタオルで顔を拭きながら賢治は首を振った。
「水道まで歩けるか?」
賢治は井上の肩を借り水道に向かって歩いて行った。
「驚いた‥‥」
衝撃的だった。
酔っ払いならまだしも目前で吐かれたのは初めてだった。
「は――っ」
目の前の状態に僕はため息をついた。
ちょっとした悪ふざけのつもりが、とんだ災難だ。
しかも今からちょうど昼食時。
キッチンの換気扇からは天ぷらのいい匂いがしていた。
でも賢治の大量のゲロを前に食欲はない。
「あ~ぁ、揚げたてのミョウガの天ぷら、美味いのになぁ……」
僕は注意深くゲロを畑の奥深く封印した。
「二人ともごめん」
吐いて楽になったのか賢治の顔はだいぶスッキリしていた。
「最初からトイレで吐いときゃよかったのに」
「だって……、格好悪いと思ったんだもん」
井上と賢治の会話に呆れる僕。
どこであろうと二日酔いで吐くなんて最悪だ。
「翔、お前呆れてんだろ」
顔に出ていたのだろうか?
「そりゃそうだろ」
「やったことない奴はみんなそう言うんだって。でもお前もきっとそのうちやるぞ」
そう言って井上はなぜか笑った。
「そうか? 俺は絶対やらないね」
見透かしたような井上に、僕はちょっとむっとした。
「みんな泥だらけだな。今からサッと風呂にでも入るか!」
井上の言葉に重い腰を上げた僕ら。
真昼間から入る温泉は格別に気持ちがよかった。
「もう! 美味しい揚げたての天ぷらだったのに!」
僕らがコソッと風呂に入ったせいで天ぷらはシナシナ状態になっていた。
「すみません」
僕たち三人は由美さんに陳謝。
「賢ちゃんも元気になったのね。だったら早くご飯食べちゃいなさい!」
口ではブ―ブ―言いつつも由美さんは結局優しかった。
冷たいツルっとした素麺にちゃんと揚げなおされたたサクサクの天ぷら。
採れたてのミョウガは特に絶品でさっきまで食欲がなかったのが嘘みたいだった。
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次話【 模様替え 】
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