【 解毒剤 】
「糸倉君? 大丈夫?」
ゆっくりと僕の方へやってきた山峰さん。
「うん、大丈夫だよ」
「さっきはごめんね。変な感じになっちゃって……」
やはり彼女は泣いていたんだと思う。
彼女の目は少し赤く腫れていた。
「むしろ話してくれてみんなは嬉しかったんじゃないかな」
僕は彼女に頑張って笑顔をつくった。
「……ありがとう」
彼女はちょっとホッとした様子だった。
「糸倉君特製のそのジュ―ス、今度レシピ教えてくれない? すごく美味しかったから」
「いつでも教えるよ。ちなみにこれはジュ―スじゃなくて、解毒剤っ!!」
彼女の笑顔に安心した僕は一気に冷たい解毒剤を喉の奥に流し込んだ。
「ゔ!! ゔゔ――――――――っっっ!!!???」
悲鳴にも似た声が出た。
クッソぉ――――っ!
とんでもない酸っぱさだ!
由美さんめ! レモンメチャクチャ絞ったなぁ!
僕はあまりの酸っぱさに口をすぼめた。
一気に食道から胃袋までが冷えていく。
僕は悶えた。
ギュ――ッと締め付けられる耳下腺。
耳下腺の痛みと強い酸味に、顔中のしわというしわがクシャクシャだ。
レモン2,3個分は絞ったであろう尋常じゃない酸っぱさにたまらず頬を押さえた僕。
「え!? え!? 糸倉君、大丈夫?」
僕の変な反応に彼女は戸惑っていた。
「あ、あぁぁぁぁ……」
強烈なレモンの酸っぱさの中に清々しいミントの香り。
涙が出そうだった。
初恋の味ってこんな感じなのかな、なんて僕は悶えながらも臭いことを考えた。
「解毒剤? 糸倉君は何を解毒してるの? 本当に大丈夫?」
心配しながら不思議そうにする山峰さん。
「あはは……、なんだろうねぇ、悪いもの?」
口の中はもう、酸っぱさの限界を通り越し甘さすら感じていた。
「悪いものってなぁに?」
僕のことを覗き込む、何とも可愛い表情だ。
トクン、トクン、トクン、トクン――――――。
彼女の表情に引き寄せられるように、僕の胸は優しく鼓動する。
「山峰! 邪念だよ、邪念っ! 翔の中に渦巻くドス黒い真っ黒なじゃ・ね・ん!!!」
急に後ろでゴロゴロしていた井上が、ニヤつきながら僕の肩に手をかけた。
「邪念とはなんだ、邪念とはっ! 元気になったならさっさと朝飯食っちまえよな! 片付かないだろ!」
半分当たっていた井上の言葉。
僕は慌ててごまかすように、井上を羽交い絞めにした。
「ギブギブ! 翔、タイム、タイム〜っ!」
井上は慌てて苦しそうに声を上げた。
「よくわからないけど、なんだかとっても楽しそうだね」
僕らのやり取りに首を傾げながらも彼女は楽しそうに笑っていた。
僕はこの笑顔がたまらなく好きだ。
心にすーーっとしみ込むようなの笑顔。
自然とこっちも笑顔になる。
彼女と一緒にいられることが今はとにかく嬉しかった。
旅行はまだ始まったばかり。
気持ちの整理もかねて、この旅行をまずは楽しもう。
僕はそう思った。
「そろそろ大掃除始めるわよ! みんな起きた起きた! いつまでもグダグダしない! シャキッとしなさいよ〜!!」
由美さんにまくし立てられながら僕たちの大掃除2日目がスタ―トした。
お読みいただきありがとうございます。
また、誤字報告をくださった皆さま、ありがとうございます。
ブックマークや評価、感想を頂けますと励みになりますので、どうぞよろしくお願いします.。.:*☆
次話【 解毒剤 】
毎週水曜日 お昼の12時更新予定です。
AR.冴羽ゆうきHP から "糸倉翔の撮った写真" としての冴羽ゆうきの写真も見られます!
HPからTwitter / Instagramへも!
ご興味のある方はぜひご覧ください☆
https://sites.google.com/view/saebayuuki/ (AR.冴羽ゆうきHP にてHPを検索!)




