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【 彼女の目玉焼き 】

「あれ? あれ? あれあれあれ―? 翔ちゃん、早朝デートなんてやるじゃない!」


由美さんは朝っぱらからお節介なおばさんキャラ全開だ。

別荘に戻ると僕はさっそく由美さんにからかわれた。


山峰さんとの2人きりでの散歩がバレたんだ。

胸のあたりに感じる動揺。


ここで慌てたら僕の負け、そう思った。



「変な勘繰りはやめてよ。そういうんじゃないから」

僕はそっけなく答えた。

否定はするものの、何とも歯がゆい感覚だ。


「さ、さ、朝飯、朝飯! 腹減ったから早く飯にしよう」

ニヤつく由美さんを横目に僕は朝ごはんを催促した。



僕はコ―ヒ―豆を挽き、山峰さんはソーセージと目玉焼きを焼いた。


休みの日にのんびり、しかも自分のために淹れるコ―ヒ―は格別だ。

引き立てのコーヒーとソーセージの香ばしい香りが立ち込める。


僕は思わず胸いっぱいに深く深く吸い込んだ。


たまらない、い~い匂いだ。

副交感神経優位。極上のリラックスタイムだ。


目玉焼きに集中する山峰さん。

「さて、山峰さんのお手並み拝見といきますか」


僕は彼女をわざとあおってみた。


「糸倉君、昨日の焼きそばのこと根に持ってるんでしょ。目玉焼きとソ―セ―ジくらい私にだってキレイに焼けますよ!」

彼女はい―っと前歯を見せて、僕を威嚇した。


なんとも迫力のない可愛い威嚇だろう。


いつもは落ちついた感じの優等生らしい山峰さん。

気を許してくれているのか。

次々と出てくる色々な表情に思わず楽しくなる自分がいた。



たっぷりとバタ―の乗ったライ麦パン。

それにサラダと目玉焼きにジュ―シ―なソ―セ―ジ。


「朝から美味そうだねえ♪ 早く食べよう!」

一さんは朝から食欲旺盛だ。とても80過ぎたおじいちゃんとはとても思えない。

本当に元気だ。



「おはようございま~す……」

他のみんなんも朝食の匂いで目を覚ましたようだ。


昨夜しこたまお酒を飲んだ酔っぱらい共はみんな二日酔いなのだろう。

豪華な朝ごはんを前に机に突っ伏したまま動かない男ども。

女の子たちも朝食をじっと眺め手を伸ばす様子はなかった。



「ゔゔゔゔゔ――っ」

気分が悪いのだろう。唸る男ども。


「ちょっと変な声出すのやめてくれる? せっかくの朝食がまずくなるわ!」

完全に突っ伏したまま動かないジョージと井上、賢治の3人。

由美さんのディスリにも無反応だ。



「全く、みんな調子に乗って飲みすぎるからよ。みんな翔ちゃんに感謝しなさいよ―?」

由美さんは呆れた声で言うと、すっと立ち上がった。



「由美さん、これなんですか?」

冷蔵庫で冷やしていた薄緑色の液体。

不思議そうに覗き込む山峰さん。


「翔ちゃん特製、解毒剤!」

由美さんはニヤリと笑ったんだ。


「解毒剤?」


「違う違う、解毒剤じゃないよ。熱中症対策に作っておいたハーブとレモンのジュ―スだよ!」

僕は即答した。


それは糸倉家特製の自家製ジュースだ。

大人たちが二日酔いの時に飲むといいようで、勝手に由美さん達が『解毒剤』と呼んでいたんだ。


少し甘めにする方が飲みやすい。

山峰さんのコップには少々はちみつをたらし入れた。


「あ、美味しい♪これは糸倉君が考えたの?」


「いや、これはおばあちゃんのレシピだよ。糸倉家の伝統の味ってやつ」


「へ―、おばあちゃんの味かぁ」

爽やかな薄緑色。彼女はレモングラスとミントの葉っぱが沈むグラスの中を覗き込んだ。

山峰さんはすっかり気に入ってくれたようだった。


「他にもフェルマには、おじいさんの代からのレシピがたくさんあるのよ。翔ちゃんの大好きなたまごがぺったんこのオムライスとかね」


「オムライスはあれでないと」

由美さんの言葉に僕は大きくうなずいた。



僕は山峰さんの焼いた目玉焼きに手を伸ばした。


「どう? うまく焼けてるでしょ?」

箸で割るとトロっと黄身が溢れ出る。


「うむ、敵ながらあっぱれだな」

僕好みのなんともうまい目玉焼きだった。


「やった!」

嬉しそうに小さなガッツポ―ズをする山峰さん。


「二人ともなぁに? 昨日から料理対決でもしてるわけ?」

「糸倉君、昨日の焼きそば対決がよっぽど悔しかったみたいでやたらと突っかかってくるんですよ」

彼女は笑いながら由美さんに答えた。


「同じ焼きそばで同じ作り方なのにおかしいでしょ!ずっと俺の真似してたくせに」

「可愛い女の子が作ってくれると愛情もタップリ!さらに美味しく感じるのよ!」

由美さんは面白がっていた。


「俺のは愛情がこもってないってこと?」

僕はわざと大げさに言った。


「え~? 昨日、焼きそばなんて食べたっけぇ?」

解毒剤をのんでちょっと回復した鈴香さんと三田さん。


でも、昨夜はだいぶ酔っぱらっていたようだ。

まさかの記憶がない。


「うん、酔っぱらいによる判定のため、昨日の勝負は無効!」

僕は山峰さんを横目で見た。


「え?そんなのずるい!」

反論する彼女。


「ずるくないよ。だって、審判員が覚えてないんだから」


「じゃあ、また何かで勝負したらどうだい?」 

ふざけて言い合う僕らを見ながらニコニコと笑う一さん。


「じゃあ焼きそばで」

「また焼きそばぁ?」

僕の即答に山峰さんはあきれ顔で笑っていた。


僕は楽しくて仕方なかった。こんな彼女とのやり取りに顔が緩む僕だった。

お読みいただきありがとうございます!


また、誤字報告をくださった皆さま、ありがとうございます。


ブックマークや評価、感想を頂けますと励みになりますので、どうぞよろしくお願いします.。.:*☆



次話【 彼女の好きな人 】


毎週水曜日 お昼の12時更新予定です。


AR.冴羽ゆうきHP から冴羽ゆうきの写真が見られます!


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ご興味のある方はぜひご覧ください☆


https://sites.google.com/view/saebayuuki/ (AR.冴羽ゆうきHP にてHPを検索!)

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